創作脚本

LOST

この脚本は、過去の創作脚本集からの掲載のため、THE高校演劇では作者と連絡が取れないため、上演許可は受け付けておりません。純粋に読み物としてお楽しみください。

2007年度 宮城県第二女子高等学校 県大会参加作品
「LOST」
作:坂井綾花

●キャスト●

スズ

瀬戸口 明日香
堀江 澄
堀江 風也
成田 みどり

瀬戸口 良子
堀江  百合

 幕開き。
 スズがぽつんと立っている。(ヌキ)
 やや上あたりを見つめながら、寂しそうな表情を浮かべている。
 やがて、鈴を持った人々が装置の間を自由に歩いていく。みんな笑顔を浮かべたりしている。

スズ   目覚めて最初に聞こえたのは、優しい鈴の音でした。みんな笑顔で、優しそうで。私も笑顔になっていました。愛されているのが分かったから。大切にされてるって分かったから。すごく嬉しかった。嬉しかったんです。

 スズ、いったん言葉を止める。ゆっくりと後ろを向く。
 人々、ひとりまたひとりと鈴を鳴らすのを止めてはけていく。

スズ   私には分かっていました。この幸せにはいつか終わりが来る、と。

 良子と明日香が対称的にたたずんでいる。明日香が走ってはけ、良子もスズを見てからゆっくりはけていく。

スズ   鈴の音が聞こえる。綺麗だけど、どこか寂しい。とても、寂しい。

 スズ、装置の裏に隠れるようにはけていく。照明が切り替わる。
遠くで人ゴミの声などが聞こえる。(お祭りを表現)
 4人が舞台中央まで歩いてくる。澄と明日香は手にお祭りの戦利品を持っている。

澄    よし!これで屋台はひととおり制覇したね!いや~疲れたつはれた。(綿飴をはむはむ)

風也   こら。汚いから食べながら喋らないの。

 風也が澄の綿飴を取り上げる。

澄    あー!取ったぁ!

風也   うるさいなぁ、小学生じゃないんだから。静かに食べるって約束するなら、返してあげるよ?

澄    はっ。(嘲笑)小僧、我に挑むか。

風也   何キャラ?

澄    それもよかろう。来い、相手になってやるわ。

 澄、風也を手招きし、はけていく。風也綿飴をみどりに託し、後を追う。

みどり  …はー。結構疲れましたね。去年は何周しても平気だったんだけど…。

明日香  年じゃない?

みどり  …1コしか違わない。

明日香  なーんかみどりちゃんは、精神的にも見た目的にも大人な気がするんだよね。

みどり  そうですか?

明日香  そうですよ。

 上手側から兄妹の闘いの声が聞こえてくる。

みどり  あ、綿飴おいしい。

明日香  だよね。

澄   (声だけ)かーめーはーめーはーっ!

風也   ぐふっ!

 風也がよろよろしながら出てくる。

明日香  お、終わった。澄が勝ったの?

澄    澄が勝った!

明日香  よかったね。

みどり  風也くん、大丈夫ですか?

風也   (腰を押さえながら)だ大丈夫大丈夫!全然ちゃら・へっちゃらだよ。

明日香  ドラゴンボールだね。

みどり  全然大丈夫そうに見えませんけど…。

風也   疑わないでよ!大丈夫だから。(そう言いながらなおも腰に配慮してる)

みどり  本当ですか…?

澄    明日香ぁ何でかなぁ?

明日香  何が?

澄    お兄ちゃん最近前にも増して弱くなったの。

明日香  別にどうでもよくない?

澄    ううん!大問題だよ!

みどり  そうなんですか?

澄    そうなんですよ!だって前にも増して、だよ?更にだよ!

風也   うるさいなぁ。僕が弱くなってるんじゃなくて、澄が強くなってるんだろ。

明日香  いや、単純に年じゃない?

みどり  そうかもしれませんね。

澄    意義なし!

風也   …あれ?

 スズが装置から顔を出す。4人を見つけ、装置から出てきて見つめる。

澄    まぁ老いには逆らえまい。人間だもの。

風也   みつをっぽく言われても。(しょぼん)

澄    なに?みつをに文句あるの?

風也   そんなんじゃないよ。

明日香  はーい言い合いはそこまで。

みどり  ケンカするほど仲がいいんですよ。

澄    そうそう。カメハメハ打つほど仲がいいの。

風也   よく分からないよ。

明日香  はぁ…二人は昔から全然変わらないね。

澄    変わってるよ!身長伸びた!

明日香  見た目じゃなくて、中身。

澄    中身?

明日香  澄がケンカふっかけて、風也くんがそれに乗って。で、ケンカスタート。

みどり  毎度おなじみですよね。

澄    えー。じゃあそろそろ新パターン作らなきゃダメってこと?

風也   いや、どこを目指してるの。

みどり  それにそれを言うなら、私たちも含めてそうじゃありませんか?

明日香  え、私たちも?

みどり  はい。二人が言い合いしてて、私がそれをのんびり見てて、明日香ちゃんが冷静に割って入って、言い合い終了。

明日香  …言われてみれば。

澄    やーい仲間仲間!

明日香  うわ、屈辱的。

風也   地味に僕も痛いんだけど。

みどり  風也くん、ドンマイです。

風也   みどりちゃんまで!?
澄    でも確かにすごいよね。同じ村で育ったからって、この年までずっと一緒なんだもん。

明日香  …う~ん、まぁね。でもさ…。

澄   (遮って)年齢も性別も血液型もバラバラなのに。

みどり  あれ?そうなんでしたっけ。

澄    え?違ったっけ。まさかお兄ちゃん、女の子?

風也   失礼なことを言うな!

みどり  血液型の方ですよ。

澄    あ、そっちか。

明日香  いやいや、普通に考えれば分かるし。澄はO型でしょ?

澄    おう。明日香はBだよね。変人だもんね。

明日香  あんたに言われたくない。

風也   そういえばみどりちゃんって何型?

みどり  クワガタです♪

澄    クワガタかぁ!あ、それっぽい。

風也   へぇー意外だなぁ。

明日香  いや突っ込もう!突っ込もうね?どうしたの風也くんまで。

風也   ごめん。まさかみどりちゃんがボケるとは思わなくて。

みどり  調べてないんですよ。何でかは知らないんですけど。

澄    そうなんだー。みどりは何か二重人格っぽいからぁ、AB型じゃない?

みどり  そうですか?

明日香  で、風也くんは?

澄    あーお兄ちゃんはA型だよ。神経質で内気。

風也   何で悪いとこばっかり!几帳面で真面目って言ってよ。

澄    何でいいとこばっかり!

風也   ダメなの?!

みどり  でも、納得ですよね。

明日香  確かに。風也くんA型っぽい。

風也   いいんだ。僕は、A型の特徴である几帳面で真面目だ、という面だけを信じようって決めてるんだから。

澄    お兄ちゃん自分が思ってるほど几帳面でも真面目でもないよ?

みどり  澄、これ以上いじめたらダメですよ。

澄    はーい。

明日香  年下の女の子に哀れまれている。

風也   なんだよ、もう…。

澄    へーん。悔しかったらあたしに勝ってごらん♪

風也   …かっちーん。

 風也、澄のパンダを持ってはける。

澄    うえ!?私のパンダ!

 澄、風也の後を追おうとする。

みどり  風也くん、めんごーいっ!(叫)

 驚く澄。明日香、ため息をついて視線を澄たちから外す。
澄    なに!?

みどり  んだげども、オラはうづぎだがら、どうすっぺなぁ。なぁ?

澄    知らナイ!

みどり  風也くん、まって~!

 みどり(澄を無視して)はけていく。

澄    あぁー!ちょっとふたりともぉ!

 澄も慌ててはけていく。
 そんなわけでひとり残される明日香。

明日香  って、いつも通りじゃないじゃん。何でみんなあんなにテンション高いんだ?

 スズのいる方向を見る明日香。明日香を見つめていたスズ。
 ふたりの視線がぶつかる。瞬間、双方そらす。

明日香  うわ、見られてたー。恥ずかしいなぁ、あいつら…。

スズ   …!

 明日香のセリフを聞いてスズがばっと顔を上げる。

スズ   アスカ…?

明日香  ふぁ?

スズ   あ。あの、私が見えるの?

明日香  …は?

スズ   見えるのね。見えちゃってるのね?

明日香  見えまくってますけど…。

 じょじょに明日香に近づいてくるスズ。

明日香  な、何すか。

スズ   …嬉しい。

明日香  は?

スズ   嬉しい。すごく、嬉しい。すごくすごく、嬉しい。すごくすごくすごく…

 どんどんすごくが増えていく。明日香ゆっくり正面を向く。

明日香  これって…もしかして…。

 照明が切り替わる。(ヌキ)

明日香  幽霊ってやつ!?

 照明が元に戻る。(続・やりたかっただけ)

明日香  あ、あの~。実は私コンタクト落としちゃってですね?

スズ   ずっと見てたの。明日香たちのことを。

明日香  全然よく見えな…え?名前、何で知って。

スズ   見てたから。

 にっこり笑うスズ。

スズ   嬉しい。明日香、私のこと見えるのね。

 明日香の全身を這う悪寒。

明日香  しぃっつれいしまぁす!

 明日香全力疾走ではけていく。

スズ   あっ…行っちゃった。

 スズ、ゆるやかに笑ってはけていく。
 入れ違いに澄・風也・みどりが出てくる。
澄    強盗容疑で逮捕する。

風也   逮捕されました。

みどり  逮捕されちゃいましたね♪

澄    んん、響きが可愛くないなぁ。パンダ奪っちゃった容疑で逮捕する。

風也   逮捕されました。

みどり  中国に怒られそうですね♪

澄    ドラマ性が無いなぁ。

 澄、風也に向き直る。みどりはにこにこしながら装置に腰かける。

澄    いいえ!

風也   はい?

澄    ヤツは、大変なものを盗んでいきました。

風也   大変なもの?

澄    私の、パンダです!

風也   …ごめんなさい。

澄    謝って済むなら警察いりませーん。

風也   何故外人なまり。

澄    パンダヌスンダツミオモイヨー。

みどり  重いんですね♪

 明日香が走り込んでくる。

明日香  みんなぁ~!

風也   明日香ちゃん?そんなに急いでどうしたの?

澄    あー。独りぼっち寂しくて死んじゃった?

明日香  ウサギじゃない!死んでない!死んでないって言えば、ねぇちょっと聞いてよ!今私、幽霊見ちゃった!

 沈黙。

みどり  ゆーれー?はぁ、それはいい体験をしましたね。

風也   よかったね。世にも奇妙な物語とかに出られるよ。

明日香  信じてない!信じてないね!?

澄    …信ぃんじるよぉっ!

明日香  ホント?信じてくれる?さすが澄!単純!

風也   褒めてないねぇ。

みどり  褒めてないですね。

澄    幽霊ってホントにいるんだ♪いいなぁ~あたしも見たい!

明日香  きっと見られるよ。心がキレイなら…!

澄    やったぁ~。

風也   何かがおかしいよねぇ?

みどり  おかしいですね。

風也   明日香ちゃん、本当なの?それ。

明日香  本当だよ!今さっきみんながアホみたいに走ってちゃった後、何か浴衣…みたいなの着た人がいたの。んで何か…目がばちっと合っちゃって、気づいたらその人、超近づいて     きてて…。

 三人、世にも奇妙な物語の音楽を奏で始める。
明日香  最初はただお祭りに着た人かなって思ったの。でも、様子がおかしくて。私は戦慄したわ。彼女が「私が見えるのね」って言ったの…!

澄    えぇぇぇ!?

明日香  でしょ?そうなるでしょ?私が見えるのね=私人じゃないから、でしょ?!その後も、嬉しいってにやぁ~っと笑って…。

 音楽がゆっくり消えていく。

風也   いいあんばいに冷えたね。

明日香  何で他人事なのっ。言っとくけど、マジだからね?マジ!

みどり  本気と書いてマジですか。じゃあマジですね。

風也   マジぃ?

澄    マジって言えば、あの…マツケンサンバの振り付けのマジーってどうなったのかなぁ。

明日香  そういえば最近見ないねぇ。

風也   あ、マツケン新曲出したんじゃなかったけ。

明日香  そうなの?

澄    またマジーが振り付けすんのかなぁ~。

みどり  マジーってどなたですか?

風也   何かオカマ系の、

明日香  って違ああぁぁぁうっ!

 明日香が見えない何かをひっくりかえす。

風也   え、オカマじゃなかったっけ?

明日香  マジーから離れろ!話を戻すけど、だから幽霊がね?

みどり  幽霊なんていないです。

澄    えぇ?いないの?

みどり  科学的な根拠もありませんし、面白半分にメディアが騒いでるだけです。絶対にいません。いるはずがないです。

澄    いないんだ…。いたらおもしろいと思うんだけどなぁ。

明日香  だから、いたんだってば!

風也   僕もどちらかと言うと、いない派だけど…明日香ちゃんが見たって言うんだから、そうなのかなぁ。

明日香  そうなの!あれは絶対幽霊だよ。

みどり  絶対幽霊じゃありません。

明日香  じゃあ何なの。

みどり  分かりません。

澄    よく分かんないけどぉ、また出たら教えてね。明日香♪

風也   マイペースだね。

明日香  っていうかさ、元はといえば、みんなが走ってちゃうから。

澄    だってお兄ちゃんとみどりんがあたし置いて行っちゃったんだもん。

みどり  だって風也くんが可愛かったんだもん。

風也   だって、ってえ?何その理由。

みどり  あぁ!言っちゃった。

澄    言っちゃったね。

みどり  おしょすごだ~!

風也   …みどりちゃんってときどきえらいなまるよね。

澄    お母さんがここより更に田舎の人なんだって。あれはもはや地球の言葉じゃないよ。ずらーとかんだべやーとか。

風也   んだべやー?!

明日香  すーぐ話それるし。さっきから思ってたんだけど、今日何でみんなそんなテンション高いの?異常なまでに強引な会話のキャッチボールだよ。

澄    おかしかった?

明日香  うん、投げっぱなし受けとる気無しって感じ。

澄    もはやキャッチボールじゃねぇ!

明日香  だからそう言ってんだよ。

風也   …そんなに変だったかな。今日は最後だから、ちょっとでも楽しく過ごしたくて、無意識のうちにハイになってたのかも。

みどり  それはわだすも…あ、私も、ありますね。

明日香  昨日まですごい雨だったしね。準備が大幅に遅れたってみんな言ってた。

風也   予定時間に間に合ってよかったよね。

みどり  もう、ひやひやしました。最後だっていうのに。

澄    その反動で、ドーンと!

風也   ドーンとね。テンション上がっちゃったみたい。

明日香  むむ。筋は通ってるね。

澄    ちなみに私は何も考えてないよー?

明日香  あぁ、何かそれは分かってた気がする。

澄    やっぱりぃ?いえーい♪
 スズが出てくる。

明日香  うん、そういうところとか。

風也   今年が最後のお祭りだね。成功するといいよね。

みどり  成功どころじゃなくて大成功がいいです。

明日香  …そうだね。

澄    そのためにはどうすればいいか分かる?お兄ちゃん。

風也   僕?!とにかく楽しめばいいんじゃない?

澄    正解♪つまりテンション高くてもよい、と。

明日香  高すぎるのもいかがなものか。

みどり  鈴まわりも楽しみですよね。

風也   そうだね。

澄    説明しよう!

風也   は?

澄    鈴まわりとは、村人全員で村を徘徊する、鈴坂祭り伝統行事である!

風也   誰に説明してるの?

みどり  先生!必要なものはありますか?

澄    いいクエスチョンだ!そのときにいるのが…この鈴!す、ず…?

 澄、バッグを探すが鈴がない。

澄    あれ?あ!玄関に置いてきた!

風也   えぇ?僕も持ってきてないよ?澄が持ってくると思って。

澄    使えない兄貴だ!

風也   そんな理不尽な!(がーん)

みどり (風也にもだえる)

明日香  どうすんの?鈴まわり。

澄    むー。金魚鉢の横にあるって分かってるのに~。

風也   取りに戻る?

澄    いいや。後でお母さんに持ってきてもらおう。

みどり  それがいいですよ。せっかくだし、おばさんも一緒に巻き込んじゃいましょう。鈴坂のいい思い出にして欲しいです。

風也   そうだね。

澄    …やっぱり納得いかない。ね、立ち退きってもう決まっちゃったの?

 風也、澄を見て複雑そうな表情を浮かべる。

風也   そうだよ。何回も言ったじゃないか。

澄    なんで。

風也   高速道路を作るんだって。それも何回も言った。

澄    だって納得できないんだもん。

風也   そんなの、みんな同じだよ。

澄    でもさ、だったら…。

明日香  …みんなあっさり諦めちゃったもんね。最初は反対運動やろうとか、デモを起こそうとか、そういう動きもあったんだけど。

風也   …村長は何か言ってた?

明日香  ううん。お婆ちゃん、何か疲れちゃったって。ずっと元気無くてさ。

風也   そっか。

澄    お母さんは反対だよね。

 みんなが思わず澄に向き直る。風也はひとり、バツの悪そうな顔をしている。

澄    村長と正反対。最近元気になってる気がする。あたしたちの気も知らないでさー。子どもは大人の背中を見て育つのにねぇ。

みどり  澄がそんなこと言うのも意外ですね。

澄    だってひどいと思わない?あたしは鈴坂大好きだから、そういうのすっごいイヤ。しかもお母さん、巧妙に隠そうとするんだよ?ねお兄ちゃん!

風也   そういうこと言うなよ。母さんだって、いろいろ…あるんだから。

澄    それは分かるけどぉ。あ、ね。みどりちゃんのとこはどう?

みどり  え?うちですか?

澄    お父さん村の役員じゃん。何か話されたりしてない?

みどり  してませんよ。でも手続きとか、すごく忙しそうでした。

澄    ふーん。

みどり  立ち退きにもちゃんと理由があるし、受け止めなきゃいけないんですけどね…。

明日香  みんな立ってる場所が違うんだよ。
     立場が違うから考えることも違うし、結果に対する反応もそれぞれだし。それは仕方ないことだよね。人間なんだもの…。

 なんとなくしんみり。

澄    みつを…。

 なんとなくぶちこわし。

みどり  だからこそ、今日くらいは楽しみましょうよ。鈴坂村最後のお祭りなんですから。

風也   そうだね。毎年楽しかったから…今年は例年の百倍目標!

澄    あ、あれの百倍!?もう楽しすぎてうっひょーって感じになるよ…。

明日香  よく分からない例えだね。

澄    そういうわけで早速参りましょうぜ!

みどり  はいはい。

 澄、みどり並んではけていく。

風也   明日香ちゃんも、行こう。ひとりになったらまた幽霊に会うかもしれないよ。

明日香  あぁっ…思い出しちゃった。

 明日香と風也もはける。
 場面転換。スズがとぼとぼ歩いていく。良子が出てくる。

スズ   良子。

良子   あら…。元気だったかい?

スズ   …うん。

良子   あらあら。ちっとも元気そうに見えないよ。

スズ   …良子も、元気そうに見えない。

良子   そうかい?

スズ   心配してた。哀しんでるんじゃないかなって。

良子   なに言ってるんだい。むしろ私が心配していたよ。力になれなくて、本当にすまないね。

 双方、見つめ合う。優しい音楽が流れ出す。

良子   みんなが大切に想っていたのにねぇ。スズのことを。

 スズ、照れたように下を向く。

スズ   …名前を呼ばれるのは久しぶり。

良子   そうだろう。名前をつけたのは私だったかね。

スズ うん。

良子   懐かしいねぇ。…元気だったかい?

スズ   それ、さっきも聞いたよ。

良子   あら。やだねぇ、ボケが始まってるのかこの年寄りは。すまないね、スズ。

スズ   ううん。

 お祭りの盛況が聞こえてくる。良子は満足そうに空を見上げている。隣に寄り添うスズ。

スズ   言い忘れてた。

良子   ん?

スズ   良子、明日香がね。

良子   明日香?えーと…誰だったかね。

スズ  (戸惑い)

良子   冗談さ。うちの孫がどうかしたかい?

スズ   明日香にね、私が見えたみたいなの。

良子   …なんだって。本当かい?

スズ   本当。でも、ぴゅーって走っていっちゃったから、ちゃんとお話できてはいないの。

良子   あらあら。何か勘違いしたのかもしれないねぇ。

スズ   勘違い?

良子   スズを幽霊か何かかと思ったんじゃないかい?

スズ   …そうなの?

 なんとなく悲しそうにするスズ。

良子   無理もないけどねぇ、その格好だし。

スズ   この格好、変?

 スズ、自分の衣装をつまんで揺らしてみたりする。

良子   変じゃないけど、不自然ではあるかね。

スズ   不自然…。(がーん)

良子   さて、じゃあ私も祭りの様子を見てこようか。

 良子、立ち上がって歩き出す。

スズ   お祭り、見に行くの?

良子   鈴まわりは夜からさね、出店だけでもまわってくるよ。

スズ   …私も一緒にいていい?

良子   当たり前じゃないか。

スズ   …嬉しい。すごく嬉しい。すごく、すごく嬉しい。

良子   スズの口癖だねぇ。何度も同じ言葉を呟いて。

スズ   そう?

良子   そうさ。そんなにかみしめなくても、喜びは逃げていきやしないよ?

スズ   …うん。

 二人、仲良くはけていく。
 場面転換。明日香たちが再び笑いながら出てくる。手にはさらに増えた戦利品を持っている。

風也   っていうかさ、食べきってから次の買おうね?

澄    だって、焼きそばが私を呼んでたんだもん。澄ちゃん、僕を買って♪(ドス声)だめよ、私には綿飴さんが!あんな甘いだけの男のどこがいいんだい?!

風也   焼きそばさんムサイよ。

澄    なにをぅ。この愛の劇場第二話を前にして!

風也   いつ一話やったの…。

 明日香がひとりヘバっている。みどりがそれを気遣い、何かやりとりをしている。

風也   明日香ちゃん、大丈夫?疲れた?

明日香  うん…ちょっと。いちいち澄のボケに突っ込んでたら体力消耗した…。

澄    やったね!

風也   喜んじゃった。

みどり  喜んじゃいましたね。

 ざわめきが聞こえてくる。微かにその中に鈴の音が混じる。(袖で出しても可)

澄    ね、みんな鈴を買ってるよ。

明日香  鈴回りまではまだ時間あるよね?

風也  (時計を見て)うん。まだまだある。日も暮れてないし。

澄    そういえば、お母さんに連絡した?

風也   うん。すぐ持ってきてくれるって。

明日香  結局風也くんが連絡したんだ…。

みどり  でも、よかったですねぇ。鈴回りが終わったらお祭りも終わりですね…。

 みんな、若干物思いにふけっている。

澄    あ~あ。鈴坂が無くなっちゃう前に、やりたいこといっぱいあったのに。

風也   そんな今日で終わりみたいな言い方。お祭りが最後なだけだって。

澄    あ、そっか。

みどり  何がしたかったんですか?

 澄以外の人、一斉に澄に目を向ける。

澄    村人全員でサバイバルゲーム!どぅどぅどぅどぅ…ふーっ。俺の背後に立つんじゃねぇ。

風也   誰も立ってないよ。

澄    何で!?ダメですか?サバイバルゲームはダぁメぇですかぁ?!

風也   静かにしなさい。

みどり  この村お年寄りが多いですよ?

澄    だからあたしたち有利かなって。

風也   鬼だ!

澄    え、鬼どこ!?

三人   おまえだ!

明日香  ほら~。せっかく休んでるのに結局澄に突っ込んじゃって、無駄に疲れるんだよ~。

澄    やったね!

風也   喜んじゃった。

みどり  喜んじゃいましたね。

明日香  澄は無駄に元気だよね。

澄    ありがとう!

風也   褒めてないから。

澄    物は言い様!

風也   使い方違うから。絶対違うから。

明日香  二人は楽しそうだね。

みどり  新しい引っ越し先でも、きっと名物になりますね。

風也   え。そ、そうかな。

澄    あたしたち、天然記念物になるの?

風也   名物だってば。いや、名物にもなりたくないけど。

明日香  みんなバラバラになるんだよね…私とみどりちゃんだって、家が近くにあるとは限らないし。

 三人、びっくりして黙る。

明日香  あ、ごめん。変なこと言って。

みどり、黙って明日香の頭を撫でてやる。

明日香  なに?

みどり  いろいろ考えてたんでしょ?偉かったですね。

 うつむく明日香。

みどり  鈴坂が無くなっちゃうの、寂しいね。

 ふと、見つめ合う二人。

明日香  …大好き!(みどりに抱きつく)
みどり  好かれちゃいました。

澄    あはは、明日香が暴走したー。

みどり  明日香ちゃんが甘えん坊さんです。

風也   ホントだね。

明日香  わ、忘れて!忘れてねっ?

澄    ムリー。大好き!ひしっ!

明日香  …がーっ!

澄    あはは!そんじゃ明日香の体力も回復したみたいだし、次はみんなで神社にお参りしましょー。

 澄、陽気に歩き出す。

風也   待てって。自分勝手だな、もう。

みどり  まあまあ。あ、お賽銭用意しないと…。

 みどりと風也カバンをあさりながら澄の後を追う。
反対側からスズが出てくる。明日香が大きく伸びをする、

明日香  行きますか。…ん?

 明日香、気配を察する。ふりむく。目が合う。

スズ   こんにち

明日香  ぎゃああああ!

スズ  (びくっ)

明日香  幽霊!さっきの!(わめく)

スズ   違う。幽霊じゃない。

明日香  …幽霊じゃない?

スズ   じゃない。

明日香  嘘ぉ。

スズ   嘘じゃない。

明日香  だって不自然な格好してるじゃない!

スズ  (がーん)…!良子の言ったとおり。

明日香  りょーこ?まさか、お、お婆ちゃんのこと?

スズ   そう。明日香のお婆ちゃん。

明日香  なんで教えてないのに知ってるの!

スズ   見てたから…。

 明日香、後ずさりする。それに合わせて前進するスズ。

明日香  あんた、誰。

スズ   スズ。名前、良子がつけてくれた。

明日香  はぁ?もうわけわかんないよー。

スズ   …(おろおろ)

 澄出てくる。

澄    明日香ー?あ、いたいた…。あす、

 明日香が一人で謎ポーズしている。目をぱちぱちする澄。

明日香  ホントに、真面目に、あんたは誰なの?

スズ   私はスズ。

明日香  だからそういうことじゃなくてーっ!

 澄がスズの前に顔を出す。

明日香  びっくりした。澄だ。

澄    何で一人でこんなことしてるの?変なの。

明日香  ひとっりじゃないでしょ?ほら、(澄を盾にして)この子がさっき話した幽霊!…じゃない、って本人は言うんだけどっ。

澄    …誰もいないよ?

明日香  …。

澄    …。

スズ   …えへ。

明日香  嘘つきぃぃぃっ!

 明日香、猛烈な勢いでスズに詰め寄る。

スズ   嘘じゃない!

明日香 (澄を指差して)だって見えてないじゃない!

スズ   それは、澄だから。

明日香  待って待って。分かるようにほんとちゃんと説明して!

スズ   説明。うん、する。

澄    明日香が変だ。どうしよ。

 澄、そーっと明日香の背後に近寄る。

明日香  幽霊ではないんでしょ?足も、あるし。

スズ   幽霊じゃない。
明日香  じゃあ、分かった。分かったから。で、えと…見えるのは、私と、婆ちゃん…?

スズ   うん。

明日香  なんで、

 澄が明日香を背後からくすぐる。

澄    ほっ!

明日香 (悲鳴)澄!何すんの!

澄    だって明日香が変だからっ!

明日香  今ちょっと大事な話してるの!

澄    誰と?

 明日香、スズを一旦見、しばし考える。

明日香  あ…森と?

 沈黙。

スズ   すごいね。

澄    明日香が変だよーっ!お兄ちゃんっ、みどりーっ!

 澄叫びながらはけていく。

明日香  あぁっ、違う!違うんだよっ!

スズ   違うの?

明日香  いや違うでしょ!あーどうしよー。よりによって澄にぃ。

スズ   澄だと、いけないの?

明日香  いけないよ!って、ね、ひょっとして澄のことも知ってたり?

スズ   うん、知ってる。澄も、風也もみどりも。

明日香  …あんた、いったい…。

 騒ぐ声とともに澄、風也、みどり、百合が出てくる。百合の腕を澄がひっぱっている。

澄    発見!変な明日香発見!

明日香  変じゃない!…わ、増えてる!

風也   明日香ちゃん大丈夫?

みどり  どこか痛いんですか?脳に異常があったりは。

明日香  しません。

百合   明日香ちゃん、こんにちは。

明日香  あ。こんにちは。

百合   …澄、普通に見えるけど。

澄    えー。でもさっきは…。

スズ   百合。

明日香  は?百合って、なんだおばさんのこと?よく名前知ってるよね…。

 明日香スズ以外、顔を見合わせる。

明日香  !…しまった。またやっちゃった。

澄    ほらぁ!言ったとおり。

風也   まさか明日香ちゃん、そんな。本当に宇宙人と交信してるなんて。

明日香  何を言ったぁ?!(澄に詰め寄る)

澄 怒られた!

風也   え、何?嘘なの?

澄    う、嘘じゃないよ。誇張表現だよ。

明日香  嘘でしょーがっ!

澄    だって明日香が森と話してるから!

明日香  だっ、そっ。(だからそれは、と言いたい)

スズ   私のせいなのかな…。

 会話の中でスズ、元いた位置から移動する。みどりと百合がスズの元の位置に移動する。

明日香  違うの!信じられないかもしれないけど、今そこにさっき言った幽霊がいるの!

明日香、スズの元いた位置を指差す。みんなが見る。

明日香  …なんて言っても見えないでしょ?だから説明するけど、

風也  (遮って)それはいくらなんでも失礼だよ。

澄    ね、どっちどっち?どっちが幽霊っ?

明日香  は?どっち、って…。

 指差した先を見る。凍り付く明日香。

みどり  あだすが、幽霊…?

百合   ふふ、おばさん少なからずショックだわ。

明日香  ち、違う!違うんですーっ!どこ行ったのスズ!

スズ   はい!

明日香  いた!

スズ   はい!

澄    何やってるのぉ~?明日香、ホントに大丈夫?

 澄が明日香のおでこに手を当てる。

澄    熱は…無いよね。具合悪かったりする?お母さん、見てみて。

百合   私でいいの?お医者さんじゃないよ?

 百合、そう言いつつも明日香のそばにやってくる。明日香は困ったように突っ立っている。

スズ   ごめん、なさい。

 スズは離れたところでしゅんとする。

明日香  …うん、あのね!ごめん、全部冗談!

 スズ、驚いて明日香を見る。

澄    冗談って、どこから?一人でこんなことしてたところ?

明日香  うんそうそう。ちょっとそんなの関係ねぇ!ってやってただけ。

澄    …ふーん。そうなんだ。

明日香  あれだよ、設定設定。幽霊がここにいても小島よしおなら勝てるかなーって思って。

みどり  幽霊なんていませんよ?

明日香  う、まださっきの怒ってる。そうだよね、幽霊なんていません!冗談言っててごめん。

 おのおの、首を傾げたり明日香をじっと見つめたりしている。
 スズは何かを予期して身を固くしている。

明日香  …ちょっと一人で頭冷やしてくるね。もうやだやだ、森と会話なんてできるかー!

 明日香、装置を叩きながらはけていく。

澄    行っちゃった。どうしたんだろうね。

百合   朝からあんな様子だったの?
澄    朝は普通だった。あ、最初に幽霊見たって言ってたのも冗談なのかな。

風也   さあ…。よく分からないけど、本人が話したくないんなら無理に聞いても、ねえ?

みどり  そうですね。何かを隠してるのは明らかです。

澄    おお、探偵みたい。で?ターゲットは何を隠してるのですか?

風也   だから分からないってば。

百合   でも、ちょっと一人にしてあげた方がいいかもね。明日香ちゃんも混乱してるみたいだったし。

澄    それは何に対して?

百合   それは分からないってば。

みどり  …そういえばおばさん、いつお祭りに来てたんですか?

百合   ついさっきよ。風也から鈴を忘れたって聞いて…。

風也   あ!そうだったね。持ってきてくれたの?

百合   ええ。ちゃんとここに…。

 百合、ポケットをさぐる。ない。

百合   …いれようとして、忘れたみたい。

澄    うえー!?

風也   さすが母さん…。

澄    この親にしてこの子ありだ!

風也   おまえが言える立場か。

百合   ま、待っててね。すぐに取ってくるから!

風也   へ?いいよいいよ。大変だろうし、そこらへんで…
百合   いいえ!いいから待ってなさい!

 百合走ってはけていく。

みどり  パワフルですねぇ。

澄    お母さんのああいうとこ、ときどきすごいと思う。

風也   うん…。

 スズはその場を離れず、若干中央へ。明日香が前から出てくる。
 その他のメンツは無感情ではけていく。

明日香  …。

スズ   …あ。ご、ごめん。

明日香  …(ため息)別に怒ってないよ。私も落ち着いてなかった。ごめんね。

スズ   …。

明日香  やっと二人きりになれたね。って何だこのセリフ、かっこいい。

スズ  (笑う)明日香は優しい。

明日香  …ありがとう。

スズ   説明、結局してなかったね。そこに座ってて。

 音楽が流れ始める。良子が出てくる。
スズが良子に向き直り、明日香を装置に座らせる。

良子   そこにいるのは誰?

スズ   …!

良子   …ああ、あなたね。

スズ   見えるの?

良子   他の人には見えないの?

 スズ、うなづく。

良子   そっか。だからいつも寂しそうにしていたの。

スズ   寂しそう…だった?

良子   うん。とても寂しそうだった。

スズ   寂しそうに…見えたかもしれないけど。私は寂しくない。こんなにたくさんの人に愛されて、大切にされて、守ってもらってる。だから、幸せ。

良子   そうなの?それなら…よかったねぇ。

 スズ、うつむいてしまう。

良子   ん?

スズ   …嘘。寂しい。誰にも見えない。誰にも聞こえない。私はただいるだけ。それって、すごく寂しい。

良子   …。
スズ   消えていくの。少しずつ、少しずつ。大事にされていたのに、されているのに、少しずつ消えていく。

良子   …ずっと、あなたは私たちのそばにいてくれたんだね。

スズ   …そんなふうに言ってもらえるなんて、思ってなかった。

良子   どうして?

スズ   私はいつか消えてしまうから。

良子   そんな寂しいこと、言わないで。

スズ   …どうして。

 良子、一呼吸置いて。

良子   ね、名前つけてあげるよ。

スズ   なまえ?

良子   そうだなぁ…『スズ』はどう?可愛いでしょ。

スズ   スズ…私が?

良子   そう。あなたが、スズ。私たちの大切な、大切な。

スズ   私は、その日から、スズになった。

 良子、微笑みながらはけていく。

スズ   それからは、よく良子に会いに行きました。良子はいつでも優しくて、身の回りであったおもしろい出来事を教えてくれました。見ていたから、知っている内容も多かったけど…でも、そんな時間はすごく幸せでした。

 明日香がスズと同じくらい前に出てくる。

明日香  じゃあ、あなたは…。でも。

スズ   そう。私はもうすぐ、消えてしまう。

 スズが目を閉じる。じっと見つめる明日香。

スズ   だけど、いいの。受け止めている。私は寂しくて独りぼっちだったけど、良子やみんなが私を愛してくれた。それに、今日…最後のお祭りの日に、明日香とお話することもできた。

明日香  …信じられないけど、ホントにそうなの?

スズ   信じられない?

明日香  う。いや、確かに今日の出来事を考えると…そうなのかも。

スズ   後で良子にも聞いてみて。きっと話してくれる。

明日香  うん。

 良子以外出てくる。明日香とスズはける。

澄    お母さん、えらい早かったね。

百合   お母さん頑張っちゃった。

風也   ありがとう。おかげで買わずに済んだよ、コレ。

 風也、鈴を鳴らす。

澄    だよねっ。ただでさえお金ピンチだもん。

風也   それは誰かさんがいっぱい屋台で食べ物買ったからでしょ。

百合   もう…あんまり使いすぎちゃダメよ、澄。

澄    は~い。

百合   風也も、ちゃんと止めてね。お兄ちゃんなんだから。

風也   は、はい。

みどり (笑う)ふたりとも、すっかり大人しくなっちゃって。

風也   え、僕はふざけてなかったよね?

澄    いや、連帯責任でしょ。

風也   なんでだよ。

百合   あまりふざけてると余所見して怪我するわよ。気をつけなさいね。

澄風也  はーい。

みどり  …めんこい。

百合   じゃあお母さん、先に家帰ってるけど…。あ、そういえば村長っていらっしゃってるのかしら?

澄    良子婆ちゃん?会ってないよ。
百合   引っ越しのこと報告に行こうと思ったんだけど…。明日香ちゃんなら知ってるかな。

風也   あぁ、そっか。

みどり  明日香ちゃん、まだ戻ってきませんね。

 心配そうなみどり。

百合   じゃあ、見かけたら声かけておくね。

風也   ありがと。

百合   はいはい。じゃあね。

 百合、はけようとするが黙っている澄を見て止める。

百合   …どうかしたの?

澄    理由、教えて。

百合   理由って?…まだ納得してないの?

澄    …だって、わざわざ県外に出なくたって…。

百合   それは、いろいろあるの。まだ澄には分からないだけ。

澄    お母さん、この村が嫌いなの?だから少しでも遠くに行こうとして、

百合   そんなわけないでしょ。お父さんのこともあるし、たまたま立ち退きが重なっちゃっただけよ。

 何か言おうとする澄の前に、風也が出てくる。

風也   母さん。大丈夫だから、行っていいよ。

百合  (ため息)ごめんね。

 百合明日香たちの方向へはけていく。

澄    大丈夫じゃないもん…。
風也   澄の気持ちも分かるけど、もう少し母さんのことも考えてあげな。父さんが単身赴任してから、一人で頑張ってたんだよ?

澄    そりゃあ、そうかもしれないけど。でも、だったらちゃんと理由を教えてくれればいいじゃない。鈴坂が嫌いなら、はっきりそう言えばいいじゃない。

風也   母さんは鈴坂を嫌ってなんかいないよ。

澄    じゃあどうして立ち退きを喜んでたの!

風也   澄にそう見えただけだ。母さんはうれしいなんて一言も言ってない。

 澄、言葉に詰まる。

風也   僕らの引っ越しは…もう、しょうがないことだよ。だからさ、今日はみんなでお祭りを楽しもうよ。そういうつもりだったじゃないか。

みどり  そう、そうですよ。ね?

 澄はうつむいたまま。

風也   それにしても、明日香ちゃん大丈夫かなぁ。どうする?僕たちも探しに行こうか?

みどり  そうですね。

澄    私が行く。

 驚く二人。

澄    一応誰か待ってた方がいいよね。お兄ちゃんたちはここにいて。

風也   …うん、じゃあ任せる。

 澄、走って百合がはけた方向と反対にはけていく。

みどり  …お疲れ様です。

風也   はは、ありがとう。

みどり  風也くんは、複雑な立場ですね。
風也   そう、かな。とりあえず、澄にはもっと大人になってもらわないと困るよ。

みどり  そうですね。でも、そこが澄のいいところではありますよね。

風也   そうなの?

みどり  私は羨ましいです。
     …風也くんは、立ち退きについてどう思ってますか?

風也   え?うーん…やっぱり、しょうがないことだと思うよ。道路の建設は国からの命令らしいし、反対しても、ね…。みどりちゃんは?

みどり  私は…よく分からないです。賛成すべきなのか、反対すべきなのか…。

風也   そっか。難しいよね。明日香ちゃんもさっき言ってたけど、みんな立場は違うんだから。

みどり  澄の考え方も、おばさんの考え方も、やっぱり全然違いますからね。

風也   うん。母さんはさ、もともと鈴坂の人じゃないから。生活が不便だって言ってたりして。なのに澄にはそれを隠すんだ。大人って分からないね。

みどり  …お父さんもね、そうなんです。

風也   え?

みどり  鈴坂村を埋め立てて、高速道路を建設する。村人には立ち退きを命じなさい。…最初に伝えられたのは、役員会の場だったそうです。

風也   そうだったんだ…。

みどり  お父さん、教えてくれなかった。でも知ってたんです。毎晩お酒飲みながら、お母さんに愚痴ってた。拒否権は無いのに、話し合いが長くてかなわんって。私、そんなお父さんを見ていたから、心から立ち退きを嫌がれなくて。

風也   いいんだよ。いろんな考えがあるんだから。みんな立場が違うんだから。

 みどり、微かにうなづく。

風也   お祭り、楽しもう。最後のお祭り。
みどり  …はい。もう日も暮れてきましたね。

風也   うん、そうだね。鈴まわりまであとどれくらいだろ。

 ふたりは話しながら装置の後ろにはけていく。
 場面転換。明日香とスズが爆笑しながら出てくる。

明日香  いや、やっぱり今は平成7でしょー。最近になってジャンプに変わっちゃったんだけどさ、山田くん可愛いの~。

スズ   そうなの?

明日香  そうなんだよ。澄は山Pがいい山P以外考えらんない、とか言ってた。

スズ   良子はさだまさしが好きだって。

明日香  それは比べるジャンルが違う。それに時代もだいぶ違う。

スズ   時代は変わるものね。

明日香  それ、スズが言うと重みがあるね。

 良子が出てくる。

スズ   ヘイセイセブンはどんな曲を歌ってたの?

明日香  それが聞いてよ!すっごいおもしろいの。この前Mステ見てたらさ、

良子   僕らは平成オンリー♪昭和でショーは無理♪

明日香  うわっ!

良子   あのけしからんガキどもの話かい?どうしてタモリさんはあんなガキどもに敬語を使うのかねぇ。

明日香  仕事だからでしょ。しかも婆ちゃん、今なにげに歌えてなかった?

良子   やっぱりどんな新人が出てきても、あたしゃ一生心変わりしないよ。

スズ   良子はえらい。
明日香  うん、私もすごいと思う。

良子   そうかい?照れるねぇ。明日香も今度私の部屋に聞きに来るといいよ。CDいっぱいあるから。

明日香  へえ、そうなんだ。確かに綺麗な歌声だよね。癒される。

良子   いやいや、バラードもいいが、ロックなところもいいんだよ。

明日香  ロック?

良子   しかも、芝居も上手だからねぇ。

明日香  え、婆ちゃん。それ誰の話?

良子   だから、タッキーの話だろ?

スズ   たっきー?

明日香  心変わりまくりじゃん。

スズ   時代は変わるものね。

良子   そんなことより、無事誤解は解いたのかい?

スズ   うん。今もたくさんお話してた。

明日香  ちょちょ。あの話は、シー、ね?

スズ   …あ、うん。

良子   なんだか嫌な感じだねぇ。まあ仲良くなったんならよかったよ。

明日香  婆ちゃん、本当にスズのこと知ってたんだね。

良子   ああ。もう長い付き合いになるよ。どうだ、スズはいい子だろ?

明日香  うん、何か小動物っぽい。

スズ   動物。(がーん)
良子   今日は最後の鈴坂祭りさね。スズもまじえて、お友達とたくさん楽しんでおいで。

明日香  …あ、そういえばみんなのこと忘れてた。

スズ   ごめんなさい。私が話を長くしたから。

明日香  いやいや。あーでもどうしようかな。まだ待っててくれたりして。

良子   行ってきた方がいいんじゃないかい?

 百合が出てきて、良子と明日香を見つける。

明日香  うん。

百合   村長。あら、明日香ちゃんもここにいたのね。

明日香  おばさん。

良子   あら…堀江さん、お久しぶり。お世話様で。

百合   いいえこちらこそ。お久しぶりです。

良子   お一人でお祭りを?

百合   娘に忘れ物を届けに来たんですが、その忘れ物を忘れていまして。今ようやく渡してきたんです。

良子   あら。

百合   お恥ずかしいことで。それで、村長に引っ越しのことでお伝えしたいことがありまして。

良子   …県外に出られるのかい?

百合   はい。うちの人の赴任先に近いところに。

良子   そうかい、寂しくなるねぇ。

百合   本当に残念ですが…仕方ないですから。

明日香  仕方ない…。
百合   あ、そうそう。それで、澄たちから明日香ちゃんに伝言を頼まれてね?

明日香  はい。

百合   まださっきの場所らへんで待ってるから、来られたら一緒にまわりたいそうよ。

明日香  あ、ありがとうございます。

百合   どういたしまして。こちらこそありがとうね。今日はきっと、鈴坂の大切な思い出になるだろうから。

 スズ、明日香と良子の会話を聞きながら寂しそうにする。

百合   ではこれで失礼します。明日香ちゃん、またね。

明日香  さよなら。

 百合、はける。

良子   さて、じゃあ二人も行ってきな。鈴まわりまではまだ時間があるだろ。

明日香  うん。お婆ちゃんはどうするの?

良子   私は…もう少ししたら、屋台の方へ行くよ。

スズ   …じゃあ、私もそうする。

明日香  え?一緒に来ないの?

スズ   私が一緒だと、明日香が困る。それに、さっき良子を置いて行っちゃったから。

良子   あら、気にしてくれてたのかい。

明日香  別に私は大丈夫なのに。…まあいいけど。じゃあ、ちょっくら行ってくるね。

 明日香走ってはけていく。スズはゆっくりと良子の隣に寄り添う。

スズ   鈴まわりは好き。だから楽しみ。

良子   そうかい。それはよかった。
スズ   うん…。

良子   鈴の音はね、昔から魂を鎮めると言われているんだ。

スズ   魂を?

良子   ああ。土地神様をまつり、村の繁栄を祝う儀式。それが鈴まわりだった。…今では形式だけの行事になっちまったがねぇ。

スズ   …けど、それも最後。

良子   そうさね。…さ、スズ。

スズ   何?

良子   最後の鈴まわりまでまだ時間がある。私に構わず行ってきていいんだよ。

スズ   …良子も、明日香も優しい。

 良子、スズに優しく笑いかける。

スズ   ありがとう。

 スズ、はけていく。やがて良子もゆったりとはける。
 澄が走って出てくる。明日香を捜しているようだ。スズが装置の後ろから出てきて、その様子を眺めている。

スズ   澄は、真っ直ぐな子。多分、私の存在も無邪気に信じられるような、素直な子。
 澄はなおきょろきょろしながら歩いている。

スズ   でもその真っ直ぐさが、ときに痛々しい。引っ越しを告げられたときの澄の表情を思い出すたび胸が痛みます。

 風也・みどり・明日香が出てくる。澄が三人に気づく。
 風也が何かを澄に話している。褒めているようだ。

スズ   風也は、大人な子。澄と百合の間を取り持とうと頑張っていました。

 みどりが前に出てきて、それにならってその他のメンバーも出てくる。楽しそうにはしゃいでいる姿をにこにこしながら見つめるみどり。
 対称的なスズと四人。

スズ   みどりは、複雑な子。他の人の立場になって考えて、そうして悩んでくれていました。
     そして…明日香は、優しい子。一番、心を痛めてくれた。

 やがて四人ははけていき、スズだけが残される。それでもやはりスズは四人のいた場所を見つめつづける。

スズ   こんな光景を幾度となく見てきました。そのたびに、私は自分に言い聞かせるんです。仕方ないんだ、って。だって、こんなに生き方も考え方も違う四人でさえ、みんな結     局諦めてしまった。鈴坂が…「私」が、消えることを…。

 スズ、小さくため息をつく。照明が元に戻る。

スズ   おかしいな。分かってたことなのに。覚悟していたことなのに。どうしてこんなに寂しいんだろう。

 呟きながら舞台上を歩くスズ。

スズ   …でも、大丈夫。私には良子がいてくれる。良子だけは、今も諦めないで、私を見ようとしてくれている。良子の存在が「私」の支え。

 スズが中央で立ち止まり、空を見上げる。そのとき、ふいに照明が暗くなる。けたたましく響く救急車のサイレンの音。スズが機敏に反応し辺りを見渡す。
 人々のざわめきが響く。袖から声がきこえてくる。

澄    どこ!?どこの屋台っ?

風也   おじさんはあの辺って言ってたよ!

 四人が走って出てくる。それを見るスズ。ざわめきが大きくなる。

澄    っ…ここだ。

風也   崩れてるね。何でこんなことに。

みどり  急いで、準備したから…?

 澄、はけ口を指差す。

澄    ね、あそこ…救急車!

風也   どうして…?

みどり  だ、誰か下敷きになった人がいるんですか!?

澄    嘘!

風也   待って、あんまり近づいたら危ないよ。

 スズがふらふらしながら四人と反対方向に進みだす。

明日香  え…。

 照明がスズの目の前に当たる。(ヌキ)そこにはうずくまる良子の姿。

明日香  お婆ちゃん!

 暗転。徐々に明るくなるが、全体的に暗い。
 スズがひとり、ぽつんと座っている。

スズ   …こんな、こと。

 ゆっくりと上を見上げる。

スズ   私は知っていました。すべて無くなってしまうこと。ものも、場所も、思い出も、人でさえ、簡単に、突然に、無くなってしまうこと。良子が、良子が事故に遭った…。みんなが言ってるのが見える。

 激しく地面を叩くスズ。

スズ   見たくない!見たくない!見るもんか!

 肩を震わすスズ。ふと、ひとつの鈴の音が聞こえてくる。
 スズはゆっくりと後ろを向く。百合が鈴を持って出てくる。携帯で誰かと話している。

百合   …ええ、それで今病院にいらっしゃるの。え?…祭りどころじゃないわよ。だって巻き込まれたのが村長だったのよ?…うん、子供達はとりあえず家に帰らせようと思って。

 スズが音も無く立ち上がって、百合をぼーっと見つめる。
百合   …うん、あ、ううん、まだ分からないけど、危ないらしいわ。それでお偉いさんたちみんな集まってて。

スズ   …百合。

百合   本当に。こっちはただでさえ引っ越しの準備で疲れてるってのに…こんな厄介事が起きちゃうなんて。早くおさらばしたいわよ、こんなとこ…。

 スズ、百合の言葉に反応し一歩ずつ距離を詰めていく。

百合   …あ、うん。ごめんなさい。そうね、いくらなんでも…。じゃあまた電話するね。

 百合が携帯電話を切る。背後にスズがいる。

百合   はぁ…疲れた。

 スズが百合の背中に手を伸ばし、徐々に腕が近づいていく。

スズ   あなた…嫌い。

 一瞬ためらい、すぐに腕を伸ばし、突き飛ばそうとする。

澄    お母さん!

 が、澄の声にはっとして動きを止める。澄が出てくる。

澄    お父さん、何か言ってた?

百合   …村長のこと、お気の毒でしょうがないって。

澄    そっか…。

百合   さ、いいから家に帰ってなさい。

澄    ね、良子婆ちゃん…大丈夫だよね。

百合   大丈夫よ。

 澄、声を出さずに泣き出す。そっと支える百合。そのまま、二人ははけていく。

スズ   …嘘。

明日香  あっ。

 明日香が反対方向から出てくる。

明日香  こんなところにいた、探してたんだよ。

 スズ、ゆっくりとふり向く。

明日香  …スズ?

スズ   良子は…?

明日香  先生が容態は安定してるって言ってたよ。だからさ、一緒にお見舞いに、

スズ  (遮って)嘘!

 スズの大声に驚く明日香。

スズ   危ないらしいって百合が言ってた。電話で。

明日香  …は…?

スズ   分かってたの。失うことがどんなに寂しいか。失われることがどんなに哀しいか。

明日香  ちょ、落ち着いてスズ。どうしたの?

スズ   人でさえ、簡単に無くなってしまう。遅かれ早かれ、いつかは!私も!良子も!みんなみんな消えるの!

明日香  スズ!

 スズをなだめようとする明日香。

明日香  変なこと言わないで。とにかく落ち着いて、ね?

スズ   …。

明日香  お婆ちゃんなら大丈夫だよ。大丈夫だから…ね、お婆ちゃんにはスズが必要なんだから。

 空気が張り詰めたような間。

スズ …必要?本当に?

明日香  え?

スズ   じゃあ、例えば百合にとって、私は必要だった?そう、たくさんいた!私から離れていった人はたくさんいたよ!そのたびに鈴の音は消えた!私はなに?私はだれ?私は幸せ!どこが!?消えていく私にどんな幸せがあるっていうの!

明日香  止めて…!

スズ   みんな無くなる!みんな失う!みんなみんなみんな!

明日香  止めて!

 一瞬の間。

スズ   どうして?どうしてそんな顔するの?

明日香  イヤだからだよ!

スズ   何が!?

明日香  私の大好きな鈴坂はそんなんじゃない!

 スズ、びくっとして押し黙る。

明日香  大事なのはスズ自身でしょ!確かに何人かは、スズを好きじゃなかった人がいたかもしれない。けど、その人たちのために、そうしてちゃんとスズを好きな人たちまで疑ってしまうの?

スズ   …だって。

明日香  笑っててよ!…鈴坂はいい村だ、って、素敵な村だ、って…そう思わせてよ!スズが笑っていてくれないと、お婆ちゃんも私もみんなも笑えない!

 明日香は必死にスズを見つめつづける。

明日香  自分勝手かもしれない。でも、私にはスズが必要なんだから!失いたくないんだから!ずっと、これだけ言いたかった。諦めんな!!

スズ   …!

明日香  スズだけじゃなくて、全員!私たち全員!諦めちゃったら何にも残らないよ!例え何かを失ったとしても、何かを無くしたとしても、諦めなければ、ずっとそれは残るじゃない!私たちの中に残るじゃないっ!

 明日香一気にしぼりだして、ぜいぜい息をする。

スズ   残る…?

明日香  残るよ。残るっていうか…消させない。絶対無くならせたりしない!

スズ   …無理だよ。

明日香  え?

スズ   どんなに想っていたって忘れてしまう。絶対に無くならないものなんて無い。人の想いを縛れないように、風化する記憶を縛りつけることはできない。

明日香  それは、そうかもしれないけど…。でも、やっぱり諦めちゃったら

スズ   哀しいよ。すごく哀しい。

明日香  …じゃあ、スズはどうしたいの?

スズ   私…?

明日香  私たちにできることは何?

スズ   …わからない。だけど。明日香、私…消えるのが怖くて、無くなってしまうのが怖くて、ずっと怖かった。分かったの。少しずつ、必要とされなくなっていくこと。誰かが村を出ていったとき、誰かが死んでしまったとき、大切にされていたはずなのに、寂しさしか残らなかった。

明日香  うん…。
スズ   消えていくのが分かった。

 鈴の音が響き出す。

スズ   少しずつでも寂しかったのに…突然、それは襲ってきて。本当に、今度こそ消えてしまうんだって、そう覚悟したの。でも、ダメなの。私はもうすぐ消えてしまう。なのに、だから、もっとみんなのそばにいたくて。

明日香  …。

スズ   …明日香、聞こえる?鈴が鳴ってる。最後なのに。最後なのに、鈴の音が聞こえるの。

 スズが明日香にしがみつく。

スズ   私、消えたくない…!一緒にいたい!ずっと一緒にいたいよぉ!

 明日香がしっかりスズを抱きかかえる。
照明が二人に当たり、優しげな鈴の音が響く。暗転。やがて鈴の音は消える。
 音効で工事の音が流れる。キャストがその音にまぎれて装置をはけさせたり、位置を動かしたりする。やがて、明日香がもといた位置に戻り、他のキャストははけていく。

明日香  …。

 みどりが出てくる。

みどり  明日香ちゃん、どうしたんですか?

明日香  うん…ちょっと、いろいろ思い出してた。

みどり  …そうですか。そうですよね。

 みどり、ゆっくりとまわりを見渡す。

みどり  変わってしまいましたね。いろいろ。

明日香  うん…。

みどり  建物が無いと、まっさらでなんだか広く見えますよね。

明日香  そうだね。
 二人、なんとなく沈黙。

明日香  ね、そういえば澄たちは…

 明日香のセリフをさえぎって澄の声がきこえてくる。

澄    寒いー!なんでこんなに寒いのよー。

 澄、風也出てくる。

風也   我慢しろよ。寒いって言うから寒いんだって。

澄    じゃあ暑い!うわっ暑っ!脅威の暑さ!…やっぱり寒いよぉ嘘つき!

風也   うるさいなぁ、もう…。

みどり  二人とも、相変わらずですね。

風也   あ。ごめん、もう来てたんだね。久しぶり。

みどり  お久しぶりです。

澄    あ!みどりと明日香だ!

風也   気づくの遅いよ。

澄    久しぶり!元気してたっ?

みどり  してましたよ♪そちらはどうでしたか?

澄    無論元気なり!ね、お兄ちゃん。

風也   うん。だいぶあっちの生活にも慣れたよ。

みどり  私たちは近いからいいですけど、ここまで来るのは大変だったでしょ。

風也   まあね。でも、母さんも協力してくれたし…。

澄    しぶしぶだったけどねぇ~。

風也   それはまぁ、仕方ないって。

明日香  何かいろいろあったみたいだね…。

風也   けど、よかったよ。鈴坂に来れて。

明日香  …今は、鈴坂じゃないよ。

澄    確かに、殺風景になっちゃったねぇ。これから道路作るの?

みどり  はい。とりあえず建物の取り壊しが終わったところらしいです。

風也   ここが元々のどこなのかも分からないね。

澄    うーん、あたしの第六感ではここからあのへんがあたしたちの家だ。

風也   そんなに広いわけないだろ。

澄    あーそういう現実的な突っ込みって最低~。夢がない~。

風也   はぁ?何でそうなるのさ。

明日香  あーもう二人とも、言い合いストップ!…やっぱり変わってないね。

みどり  変わってないですね。なんだかうれしいです。

明日香  ね、今日の目的覚えてる?

澄    魔王と戦う。

風也   んなわけないだろ。

澄    ジョーダンだもん。ちゃんと持ってきたよ、これ。

 澄、鈴を取り出す。

澄    はい、お兄ちゃんの分も。

風也   今度は忘れなかったね。

みどり  鈴坂祭りでは忘れてましたもんね。

澄    え?そうだっけ。

明日香  澄も少しは成長してるんだね。

風也   だといいんだけど…。

澄    何?失礼だなーっ!

みどり  はいはい落ち着いて。

明日香  じゃあ、さっそく始めようか?

みどり  そうですね。どこからまわりましょうか?

澄    あっちがいい!

風也   何で?

澄    なんとなく!

 三人、(明日香以外)はけていく。明日香、ついていこうとして、ふと鈴を取り出し鳴らしてみる。

明日香  …。

 スズ(?)が出てくる。明日香、気づいて後ろを向く。

明日香  …スズ?

 スズ(?)反応しない。ぼんやりと明日香を見ている。

明日香  スズ!どうして、ううん、そんなことどうでもいい。会いたかった…。
     …スズ?どうしたの?

 スズ(?)明日香の前をすりぬけて歩いていこうとする。

明日香  スズ?

 スズ(?)足を止めるが明日香のことは気にしていない。自由に歩き回っている。

明日香  …。

 明日香は呆然としているが、やがてスズに近づいていく。

明日香  スズ、聞いて。今日ね、澄と風也くんがわざわざ来てくれたんだ。最後の鈴坂祭りの日、鈴まわりができなかったから。私たちだけでもやりたいねって、そう提案したら、来てくれたんだよ。スズのために。

 やはり反応しないスズ(?)

明日香  スズ、ごめんね。スズのこと、守ってあげられなかったね。諦めないなんて言ったくせに、結局…。ごめん、ごめん。

 スズ(?)が明日香に近寄ってくる。明日香はスズを見つめるが、やはりスズ(?)は明日香の前を通り過ぎる。スズ(?)はけようとする。

明日香  待って!

 何故かスズ(?)止まる。

明日香  スズ、私、忘れない。絶対にスズを忘れない!…ありがとう。

 スズ(?)明日香に向き直って、首を傾げてはけてしまう。取り残され、うつむく明日香。
 澄が出てくる。

澄    こら、明日香!遅刻だぞ。…どうしたの?

明日香  …お礼、言ってたの。

澄    誰に?

明日香  鈴坂に。

澄    …あはは、それかっこいいね!

 みどりと風也が出てくる。

みどり  明日香ちゃん、どうかしたんですか?
明日香  あ、ごめん。何でもないよ。

澄    明日香はねー、鈴坂とお話してたんだよねー?

風也   え?すごいね。

 明日香、苦笑する。

みどり  じゃあ、今度こそ始めましょう。鈴坂に感謝を込めて。

明日香  …うん。ありがとう。

 四人、鈴まわりを始める。鈴の音と子どもたちの声が響く。
 照明が変わり、スズ(?)が照らされる。子どもたちの声が止む。
 スズ(?)は鈴の音を聞いているが、ゆっくりヌキが消えていくと同時にはけていってしまう。
 やがて照明がつき、誰もいない舞台に鈴の音が響いている。

 閉幕。

 

本番中の様子

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