創作脚本

アストロン・ミュートス

H27仙台商業高校 県大会参加作品

「 アストロン・ミュートス 」
作:仙台商業高校演劇部

登場人物

一葉 ・・・ 1年生
十花 ・・・ 1年生
みこ ・・・ 2年生(里美のいとこ)
百恵 ・・・ 3年生
千鶴 ・・・ 3年生(部長)
小亀 ・・・ 3年生(千鶴の親友)
里美 ・・・ 天文部顧問
センコマ ・・・ 神様(まがまがしい声。1行だけの台詞)

舞台は、上手奥の方が高くなっており、屋上・高台として使う。手前は部室。
2010年の夏休み。場所は夜の屋上。天文部の合宿中。

千鶴 「うわ~、夜の屋上ってまたイメージ違うね」
小亀 「そうだね」
百恵 「空の明るさが西と東で違う」
千鶴 「仙台があるから仕方ない」
小亀 「それに比べると、東はもう海しかないから、水平線近くまで星が見えるね!」
千鶴 「あれさ、さそり座のシャウラじゃない?」
小亀 「本当だ」
百恵 「どこどこ?」
小亀 「あそこにアンタレス見えるよね?」
百恵 「うんうん…ってことは、あれか!」
小亀 「そうそう」
百恵 「シャウラってもっと青白い星じゃなかったっけ?」
千鶴 「あー、確かに青白くないね」
小亀 「今シャウラは、水平線に近いから青白い波長の光はけっこうカットされるんだよ。朝日や夕日と同じ状態」
百恵 「あ~、なるほど。それで色が若干違うんだ。…あっ、あれは船じゃない?」
千鶴 (望遠鏡を操作して)「どれどれ~まずは船から見るか~」
小亀 「星見る前に船かよ…」
千鶴 「お~見える見える。確かに船だ。こんな夜に漁やってるのかな?」
百恵 「そうなんじゃない?ちょっと私にも見せて」
千鶴 「いいよ」
百恵 「あ、本当だ。確かに漁船の明かりだ。集魚灯かな」
小亀 「集魚灯?」
千鶴 「あの~イカとか集めるやつ」
小亀 「あ~あれか」
百恵 「小亀も見る?船」
小亀 「望遠鏡の倍率チェックってことで、どれどれ」
千鶴 「風が気持ちいいね~」(寝転がる)
百恵 「千鶴、…パンツ見えるよ」
千鶴 「暗いから、見えないよ。それより、コガも百恵も寝転がってみなよ。満天の星」
百恵 (寝転がる)「うわ~立っている時と景色が全然違う」
小亀 「汚れるよ」
千鶴 「この日中太陽に照らされて温かいコンクリート。その熱を背中で感じるのも何か好きなんだよね~。だから別にいいの!」
百恵 「あ~なんかそれ分かる気がする」
千鶴 「気持ちいいでしょ?」
百恵 「うん」
小亀 「立ってたって、流星群見れるから」
千鶴 「ふっ、寝ていた方が有利なのは証明済み」
小亀 「じゃ、どっちが先に見つけるか勝負だ!」
千鶴 「望むところだ!」
百恵 「じゃ私審判…」
千鶴 「流れた!」(空を指さして)
小亀 「流れた!」(千鶴とほぼ同時に)
百恵 「引き分け…」
小亀 「流れた!」(空を指さして)
千鶴 「流れた!」(小亀とほぼ同時に)
百恵 「引き分け…」
千鶴 「流れてない!」(ボケ)
百・亀 「じゃ、言うなよ!」(ツッコミ)

BGM、夏の部室。ただし、震災後のため借りてる部室。特に天文部らしいものは何もない。とにかく暑い。蝉の鳴き声が聞こえる。小亀は幽霊となって、黒い丸いものを抱えて、部屋の片隅に座っている。

十花 「暑い~」
一葉 「暑い~」
十花 「涼しい~」
一葉 「え?」
十花 「やばい、超涼しい~」
一葉 「どこが?」
十花 「反対の事言ってみる」
一葉 「何で?」
十花 「織田信長が言ってたじゃん、心頭滅却すれば火もまた涼しって」
一葉 「それ違くね?」
小亀 「いや、信長だよ」
十花 「本能寺の変で死ぬ間際に言ったんじゃないかって」
一葉 「それ誰か聞いてたの?」
十花 「さぁ?」
一葉 「ふっ、じゃ言ったかどうか分かんないじゃん」
十花 「そう言われればそうだね」
小亀 「なるほど」
十花 「でも、言ってみな。涼しくなるから」
一葉 「本当に?」
十花 「本当本当」
一葉 「涼しい~」(30点)
十花 「だめ。気持ちが入っていない。こうだよ。涼しい~。はいどうぞ」
一葉 「涼しい~」(50点)
十花 「涼しい~」
一葉 「涼しい~」(70点)
十花 「涼しい~」
一葉 「涼しい~♪」(90点)
十花 「お、いいね~表情もつけようか。こんな感じで」
一葉 「その変顔マネしろって!?」
十花 「こればっかりは無理か」
一葉 「涼しい~♪」(変顔付き90点)
十花 「ただの馬鹿に見える」
一葉 「はぁ!てめえだろ!やらせたの!」
小亀 「あはは、ところで、お二人さん…」

千鶴、急いで入ってくる。

十花 「こんにちは。先輩どうしたんですか?」
千鶴 「ピンクの冊子見てない?夏休みの宿題なんだけど…」
十花 「これですか?」
千鶴 「そう、それ。ありがとう。ここでやって、置きっぱなしだったから」
十花 「あ、そうなんですか。わざわざこんな暑いところでやらなくても…」
千鶴 「家狭いし、まだエアコン付けてもらってないんだよね」
一葉 「まだついてないんですか…」
千鶴 「家でやるより、ここでやった方が集中もできるし、何か落ち着くんだよね」
十花 「そうなんですか」
千鶴 「ちょっと提出だけして来るから」
一・十 「はーい」

百恵入ってくる。

百恵 「どこ行くの?」
千鶴 「課題の提出。間宮先生だから、今日出しにいかないと点数引かれる…」
百恵 「あ~千鶴君。どうして君は課題の提出が遅れたのかな?」
千鶴 「あまり似てないよ。じゃ」

千鶴はける

百恵 「けっこう頑張ったんだけどなぁ」
一葉 「千鶴先輩、夏休みの宿題ここでやってたらしいんです」
百恵 「仮設だと、落ち着いて勉強も出来ないんだろうな」
小亀 「ねえみんな…」

里美登場。

里見 「こんにちは」
部員 「こんにちは」
里美 「これから職員会議なんだけど、文化祭について話し合うのよ。みんなはどうしたい?」
百恵 「体育館は使えるみたいだし、私は無理のない範囲でやってもいいのかなとは思います」
里美 「例えば?」
十花 「私は模擬店やりたいです!」
一葉 「天文部だよ?」
十花 「うん」
百恵 「模擬店って、何やりたいの?」
十花 「焼きそば?とか?」
一葉 「ありきたりじゃん」
十花 「天の川焼きそばとか名前つけて、マヨネーズで天の川を書くとか…」
一葉 「焼きそばにマヨネーズって普通かける?」
十花 「え?かけないの?」
一葉 「かけないよ」
百恵 「かけないね」
小亀 「そんなんじゃなくてさ」
一葉 「なんだろうな、私ならたこ焼き?」
十花 「それもありきたりじゃん」
一葉 「星座たこ焼きとか名前つけて、星座の形にたこ焼き並べて売るとか。どう?」
十花 「ふ~ん」
里美 「まあ模擬店出して盛り上がりたいってところかな?」
百恵 「やれてそんなところかなと…」
小亀 「私はこの恒星投影機を使ってプラネタリウムがやりたいです」
里美 (小亀の存在をかすかに感じるような気がした)
百恵 「どうしたんですか?先生」
里美 「ん?ああ、何でもない。千鶴はどう考えているかな…」
百恵 「それは本人に聞いてみないと…」

千鶴戻る。

千鶴 「あれ、先生どうしたんですか?」
里美 「千鶴、これから文化祭をどうするかの職員会議があるんだけど、どう思う?」
千鶴 「私は今年文化祭無理じゃないかと思います」
小亀 「チヅ、今年もこれやろうよ!」
里美 「どうして?」
千鶴 「体育館は使えるようになるみたいですけど、まだ行方不明者が4,000人以上居るんですよ?お祭り騒ぎしている場合じゃないと思います」
百恵 「そうか、千鶴はそう考えるか」
一葉 「先輩、町の復興のためには不自由な中でもやったほうがいいという考え方はないですか?」
十花 「そうですよ。やった方が絶対楽しいです」
百恵 「進路の気晴らしにもなるしね」
千鶴 「そっか…」
里美 「うん、だいたいみんなの意見は分かった。堅い先生多いからどうなるか分からないけど、とりあえず賛成してくるよ」
小亀 「うん、先生、がんばってきて」
里美 (また、小亀の応援を感じるような気がした)
小亀 「先生、浜高祭やろうよ」
里美 (この思念は、どこから来るんだろう…気のせいだろうか…)
千鶴 「先生どうしたんですか?」
里美 「ううん、じゃ会議に行ってくるね」
全員 「は~い」

里美はける

百恵 「もし浜高祭やることになったら、部活週一じゃ準備間に合わないよね?」
小亀 「今年も毎日やればいいじゃん」
一葉 「看板とか、装飾系はがんばりますよ?」
千鶴 「一葉そういうの得意だもんね」
一葉 「はい。任せて下さい」

千鶴自分のバッグから本を取り出す。

千鶴 「そう言えば、これ。見て」
百恵 「何それ」
千鶴 「よくわかる星座図鑑」
百恵 「どっから持って来たの?」
千鶴 「物資の中から見つけてきたんだ。みんなで読もう」
十花 「星座図鑑って、なに書いてあるんですか?」
千鶴 「星座にまつわる話が載ってるよ。例えば…2人は何座?」
十花 「ハイハイ、私乙女座」
千鶴 「えーと、乙女座はね~あったあった。金の時代、地上には人間と一緒に暮らすたくさんの神様がいました。銀の時代を迎えると、人間たちは働かないと食べ物を得られなくなったので、争いごとが起きるようになりました。争いごとが起きると、地上の神たちは、一人、二人と天に帰っていきましたが、女神アストライアは地上に残り、手に持った天秤に人間の魂を乗せ、善悪を一瞬にして判断し、正義を助け続けていました」
十花 「おお~かっこいい」
千鶴 「銅の時代を迎えると、神と人間の間に生まれた英雄たちが活躍し、争い事は一旦しずまるのですが、英雄たちが死ぬと鉄の時代が訪れました。人間たちは殺し合うようになり、悲しみに暮れた女神アストライアは、とうとう神の国に帰ってしまい、星座になりました」
十花 「へ~」
百恵 「その時使われた天秤が、てんびん座なんだって」
一葉 「私てんびん座…え、待って私十花に使われるの?」
十花 「まあ、そういう運命かな」
一葉 「他には…」
十花 「何でスルーしてるんだよ」
一葉 「うっせーうっせー」
十花 「もう…」
一葉 「これ」
十花 「どれ?…ほうほう」
一葉 「つまりは、こういうことですね」
一葉 「我が名はヘラクレス。剣を手にすれば向かうところ敵は無い」
十花 「ヘラクレスよ、そなたはその剣によって妻と子供までも殺めてしまった」
一葉 「ゼウス様それは…」
十花 「このままでは神の国に置いてはおけぬ。そのけがれを洗い流すために『12のクエスト』を用意してやった。クリアするまで帰って来るでない。さあ行け」
百恵 「ドラクエかよ」
小亀 「こうしてヘラクレスは下界へと降り立ったのであった。クエストを1つ、また1つとクリアしていき、そしてある日」
十花 「ヘラクレスよ、沼の洞窟にすむ怪物ヒュドラを退治してまいれ」
一葉 「ははー」
小亀 「洞窟にて」
一葉 「ヒュドラ!その首もらったー!!」
十花 「うお~~!! 首がー落されたーーー。でもまだ8本あるもんね~」
一葉 「こいつ…うざ。こうなったら…ザ・ワールド。時よ止まれ」

時間が止まる。ヘラクレスはヒュドラの首7本をその早業で落す

一葉 「1,2,3,4,5,6,7!そして時は動き出す」
十花 「何!気が付けば首が1本に!!」
一葉 「ヒュドラよ、悪く思うな」
小亀 「その時、岩陰からヒュドラを助けるべく1匹のカニがその自慢のハサミを振り回しながら、ヘラクレスに突進していくのであった」
十花 「よくも親友のヒュドラを、もう許さないぞーー。必殺シザーハンド(カニ)」
一葉 「あん?何だこれ」(足首を挟んだカニを摘み上げ、踏みつぶす)
十花 「うわ~~!! こうしてヘラクレスに対して勇敢に立ち向かうカニの姿にイイネを押したゼウスはカニを星座にすることに決めたようです」
百恵 「オイオイゼウスって、フェイスブックしてたのかよ」
一葉 「カニかわいそう。まだ天秤の方が、女神に使われていたんだから、いいよね」
十花 「だね、カニはただ出て来て踏まれて終わりだもんね…。先輩たちは何座ですか?」
百恵 「私たち2人ともかに座」
十花 「…いや~蟹って勇敢ですよね~イイネ。ピコン」
千鶴 「いいよ、別に」
一葉 「ああ、先輩、これ借りて勉強したいんですけど、いいですか?」
千鶴 「私は、ぱらぱらと見たからいいけど、百恵どうする?」
百恵 「いいよ、持っていても」
千鶴 「じゃ、来週までに返してね」
一葉 「はい。わかりました」
千鶴 「よし、今日は終わりにするか?」
百恵 「そだね」
千鶴 「次の部活は、来週の水曜日ね」
一・十 「はい」
千鶴 「お疲れ様でした」
3人 「お疲れ様でした」
小亀 「また来週…か。お前らそれで本当に天文部かよ!」

4人帰る。小亀はプラネタリウムで解説する仕草。

小亀 「デネブ、ベガ、アルタイル。ベガとアルタイルはそれぞれこと座とわし座のアルファー星です。アルファー星というのは、その星座を代表する星のことです。このベガとアルタイルは、天の川を挟んで位置しており、七夕ではベガは織姫、アルタイルは彦星として紹介されています。夏の夜空を見上げると、とても明るい1等星なので、すぐに見つけることが出来ます…」

里美入ってくる

里美 「あーよかった。みんな帰ってた」
小亀 「先生…」
里美 (小亀の意思を感じるが、やはりどこから感じるかまでは分からない)
みこ 「失礼しまーす」
里美 「何か感じない?」
小亀 「誰?」
みこ 「あ~居る」(小亀の方を向く)
小亀 「え!?」
みこ 「ん~うちの学校の女子生徒っぽいよ」
小亀 「ええ!!」
みこ 「ちょうど私くらいの身長。あそこ」
里美 「だよね…。やっぱりみこの方がおばあちゃんの血濃いね」
みこ 「うん。人前ではあまり言わないけど、私けっこうはっきり見えちゃうんだよね」
小亀 「おお~、じゃあ、これも見えますか?」(恒星投影機を見せる)
みこ 「…何でこの部屋に居るんだろう…」
小亀 「やっぱダメか…」
里美 「小亀かなぁ」
小亀 「先生…。分かっているなら何とかしてよ!模擬店なんかじゃなくて天文部らしいことやってよ」
みこ 「小亀って、さっき言ってた人?」
里美 「うん。その思念?みたいなのまでは読み取れないの?」
小亀 「この恒星投影機使ってプラネタリウムやってよ!」
みこ 「そこまでは…。何も教わったわけじゃないし」
里美 「…そう」
みこ 「…適当に試してみる?」
里美 「うん。あ、ちょっと待って」

里美、一応廊下を確認する

里美 「誰もいない、やってみて」

みこ、正座して小亀と正対する。一度合掌してから。

みこ 「小亀さんですか?」
小亀 「…はい」
みこ 「小亀さーん、返事してみて下さい」
小亀 「はい!」
みこ 「小亀さーん!」
小亀 「返事してるってば!」
みこ 「だめだ。私の力でじゃ何も分からない」
里美 「ダメか。…みこさあ、しばらく天文部に入ってくれない?」
みこ・小亀 「ええ!?」
里美 「小亀の霊かもしれないし、どうしても気になっちゃうの。みこ、お願い」
みこ 「う~ん」
里美 「うち、いま部員4人だし、5人以上で部じゃない?部員になればみんな喜ぶし、天文部に来て!」
みこ 「…そこまで言われたら…」
里美 「ありがとう!今日の会議で浜高祭やることに決まったから、準備も始めなきゃいけない」
小亀 「浜高祭やるんだ…」
みこ 「うん分かった。手続きは?」
里美 「入部届は後で渡すから書いて私にちょうだい。それから、来週一緒に部室に来てもらえれば」
みこ 「放送部どうするかな…」
里美 「それは自分で何とかしなさい」
みこ 「え~」

2人はける

小亀 「なんだあいつ…」

次週の部活。千鶴入ってきて椅子に座り、何か考えている。そこへ入ってくる百恵。

千鶴 「そういえば、百恵ってさ、専門だっけ?」
百恵 「あ、進路?」
千鶴 「うん」
百恵 「うちの美容院で、お母さんの手伝いするのに資格取ろうかと思ってさ。千鶴は就職だっけ?」
千鶴 「あのね、おじいちゃん船流されたんだけど、また海出たいからって、船注文したんだよね」
百恵 「うわ、がんばる~」
千鶴 「私も海好きだからさ、おじいちゃんの後継いで、漁師になろうかなって…」
百恵 「はぁ?」
小亀 「ええ!?」
千鶴 「海に出て、行方不明者の手がかりも探したいんだ」
小亀 「チヅ…」
百恵 「親はOKなの?」
千鶴 「お母さんには話したんだけど…」
百恵 「おじいさんは?」
千鶴 「私に出来る仕事だとは思ってないと思う」
百恵 「うーん、喜ぶんじゃないかなあ」
千鶴 「そうかなぁ…。まあ新しい船が届いたら、昔みたいに船に乗せてもらって、手伝いながら技を教えてもらおうかと」
百恵 「行動で示すのね」
千鶴 「うん」
百恵 「なるほどね」

十花と一葉入ってくる。

十花 「必殺!シザーハンド(カニ)!…あっ、こんにちは」
一葉 「こんにちは」
千鶴・百恵 「こんにちは」
十花 「あ、先輩、浜高祭やることになりましたね!」
千鶴 「あ~そういえばそうだね。何やる?」
十花 「模擬店やりたいです」
百恵 「そういえばこの間も言ってたね。やきそばとたこ焼きだっけ?」
十花 「はい」
一葉 「でも、けっこう他とかぶってるらしいんですよ」
百恵 「定番だしねー」

そこへ里美登場

里美 「こんにちは」
何人か 「こんにちは」
里美 「何してたの?」
千鶴 「浜高祭の出し物何にするか決めてました」
里美 「どこまで決まった?」
千鶴 「模擬店やろうという流れなんですが、焼きそばもたこ焼きも他とかぶってるらしくて…」
里美 「え~今年は模擬店か…。今年も頑張ろうね。ところで、話し合いに一人混ぜてほしい生徒がいるんだけど」
百恵 「え?」
里美 「入って入って」
みこ 「こんにちは」
千鶴 「こんにちは…」
里美 「おととい天文の授業に入ったんだけどさ、興味あるらしくてね。ここに誘ってみたのよ」
全員 「え!?」
みこ 「天文部に入れてもらえませんか」
百恵 「先生、やる~!これで5人だから、肩身狭くなくなる!」
里美 「そういうこと」
千鶴 「まずこっちおいでよ」
みこ 「はい」
千鶴 「よーし、じゃ自己紹介!」
里美 「じゃ、後はよろしくね」
4人 「はーい」

里美はける

千鶴 「じゃ、1年生からゴー」
十花 「私からでいい?」
一葉 「うん」
十花 「え~と、1年の丘元十花です。中学では剣道部に入っていて、中総体では個人戦で準優勝しました」
一葉 「人少ないしね」
十花 「そゆこと言わないで…。でも浜高に剣道部無かったし、一葉に誘われたので天文部に入部しました。よろしくお願いします」
みこ 「よろしくお願いします」
一葉 「1年の空木一葉です。中学では美術部に入っていました。ギリシャ神話とか大好きで、小さい頃から星座に興味があったので、十花誘ってここ来ました。よろしくお願いします」
みこ 「よろしくお願いします」
百恵 「じゃ、私から?」
千鶴 「うん」
百恵 「えと、日食観察とか公認欠席になるっていうんで、天文部に入って3年目。公認は部員を集めるための作戦だと今頃悟った3年の山田百恵です。よろしく」
千鶴 「今頃かよ!」
みこ 「よろしくお願いします」
千鶴 「じゃあ私。3年の鳥海千鶴です。宇宙にロマンを感じて天文部部長やってます。よろしくね。じゃ、簡単に自己紹介お願いします」
みこ 「はい。2年の万事みこです。放送部に入っていたんですけど、この学校の機材使えないので、ほとんど活動していないんですよ」
百恵 「うんうん」
みこ 「活動していない部にいるよりは、活動している部がいいかなって思ったのと、夜空見るのが好きなので、天文部に来ました。よろしくお願いします」
千鶴 「みこちゃんね。ちょうどこれから浜高祭で何するか話し合うところだったの」
百恵 「模擬店やろうかなって、なってるんだけど」
一葉 「十花の提案した焼きそばと、私が提案したたこ焼きは、他と競合するのが判明して…」
みこ 「そうだったんですか」
千鶴 「話し合ってみないとわかんないけど、かぶっていない方が楽だよね」
百恵 「メニュー変えるか?」
十花 「変えるしかないですよね?」
百恵 「入ったばっかりだけど、みこちゃんは何やりたい?」
みこ 「えっと、あの、私は星を見たり、宇宙について考えたりするのが天文部だと思っていました」
小亀 (顔を上げ、みこの方を見る)
千鶴 「普段の部活はそうなんだけど…」
みこ 「じゃあ、模擬店以外は考えていないんですか?」
千鶴 「去年は手作りプラネタリウムをやったんだけど、津波で全部持っていかれちゃって…。天文部の財産ゼロ」
小亀 (手に持った恒星投影機を見る)
みこ 「そうなんですか…。1から作り直すとかは出来ないんですか?」
小亀 「そんなことしなくても、これ使えばいいのに」
百恵 「プラネタリウムの星を映す機械の部分?恒星投影機っていうんだけど、その部分作るのって大変なのよ。スクリーンの方は、段ボール切って作ったので、何とかなるとは思うんだけど」
小亀 「だから、これもう一度使ってよ」
千鶴 「投影機は、プラスチックの半球に天球の型紙を貼って、その通りに穴をあけていくのよ。明るい1等星は3mmのドリルで。2等星は2.4mmのドリルで…」
百恵 「あの作業は大変だったね。毎日毎日二人で残って作ってたもんね…。あっ…」
千鶴 「…」
十花 「そうだったんですか…。百恵先輩はもう一回作りたくはないって事ですか?」

百恵 「ごめん…」
一葉 「え?」
千鶴 「いいよ。いずれどこかで言わないといけないって思っていたから」
百恵 「そう…」
千鶴 「投影機作ったのは私と、津波で犠牲になった小亀」
小亀 (顔を伏せる。その様子をチラ見するみこ)
一葉 「そうだったんですか」
千鶴 「コガが5等星まで穴開けるってがんばってさ…。これくらいのプラスチックのボールに全部で3000個くらいの穴開けたのよ」
百恵 「私はスクリーン用に段ボール集めて、何となくドーム作って…」
千鶴 「内側を、白く塗って」
百恵 「日が暮れて暗くなった教室でさ」
千鶴 「自分たちで作った星座が映された時は感動したな~」

BGM。照明暗くなり、ホリゾントに満天の星が映し出される。とともに、過去へタイムスリップ。美浜高校の部室。小亀が電動ドリルで半球に穴をあけ続けている。

小亀 「赤径20度の紙、1.2mmくらいずれてるよ」
千鶴 「そんくらい許してよ」
小亀 「お前昔からこういう作業へったくそだなぁ…」
千鶴 「うるさいな、紙という平面を半球に貼る時点で歪むことになってるでしょーが!」
小亀 「折り鶴とかさ、何かつぶれたゴキブリみたいになってさ…」
千鶴 「その展開図作るのだって大変だったんだからね!」
小亀 「つぶれたゴキブリ千個作ってさ、千匹ゴキ…」
千鶴 「ちょっと聞いてるの!っても~」

段ボールを持った百恵登場

百恵 「ただいまー」
2人 「おかえりー」
百恵 「このぐらいの大きさでいい?」
小亀 「それだと大きすぎない?」
百恵 「大きい方が組み立て楽じゃん」
小亀 「そっか」
百恵 「あと、スプレーも買ってきたよ」
小亀 「ありがとう」
百恵 「よ~し、もう一往復行ってきますか」
千鶴 「じゃあ私も行こうかな」
小亀 「おう、頼む」
百恵 「段ボールあとどれくらい必要なの?」
小亀 「10人ぐらいは入れるドームにしたいし…」
千鶴 「え~と、その大きさのやつだと20弱?」
百恵 「は?そんなに運ぶの!?」
小亀 「頼むよー」
百恵 「仕方ないな…」
千鶴 「コガ、ちゃんと外で色塗るんだよ」
小亀 「はーい」
百恵 「段ボール外に置いておくね」

ひたすら穴をあける小亀。BGMとともに宣伝用具を持った百恵と千鶴下手袖から登場。

千鶴 「こんにちは~!天文部です!」
百恵 「10時30分から、課題研究室でプラネタリウムの上演をおこないまーす!」
千鶴 「宇宙飛行士の気分になれる旅をお送りしまーす」
百恵 「ぜひアストロノーツへお越しくださーい。よーし、次体育館か?」
千鶴 「屋台村」
百恵 「何で?」
千鶴 「はっと汁食べたい」
百恵 「あ~いいね。小亀の分も買っとく?」
千鶴 「いいんじゃね。…あ、それから綿あめも食べたい!」
百恵 「ええ~、それも食べるの?」

2人下手へ退場。小亀が恒星投影機を持って、部屋の入り口から入ってくる。

小亀 「ふう。終わった~。腹減った~」

小亀、テーブルに投影機を置き、椅子に座る。千鶴・百恵が何か文化祭で使ったであろう荷物を持って入ってくる。

百恵 「何座ってんの、まだ片づけ終わってないよ」
小亀 「いや~、けっこうお客さん来たね」
千鶴 「天文部がどんな活動しているか、アピールできたんじゃないかな?」
小亀 「来年部員増えるかな?」
百恵 「1年生入らなかったら、やばくない?」
千鶴 「4月にもう一回プラネタリウム上演して、1年生勧誘したら入ってくれる人いるんじゃないかな?」
小亀 「いいね!これ天文部の宝にしてさ、代々使ってもらえたらいいよね?」
千鶴 「うん、そうしよう!」
百恵 「今のうちから1年勧誘作戦立てる?」
小亀 「気が早いよ。まずは、向こうにある残りの荷物運んじゃおう」
百恵 「さぼってたくせに」
小亀 「いひひ」

荷物を置いて、百恵はける。千鶴・小亀も荷物を置く。

小亀 「チヅ」
千鶴 「ん?」
小亀 「部長、お疲れ様」
千鶴 「まあね、私さぼってないしね」
小亀 「は?さぼってただろ?」
千鶴 「さぼってないし」
小亀 「じゃこれ何だよ!」(ゴミ箱から何かを拾う)
千鶴 「知らない」
小亀 「どう見たって綿あめのゴミだろ!」
千鶴 「いやいやどう見たって割り箸とふくろ」
小亀 「いや、綿あめのゴミだろ!」
千鶴 「いや、リンゴ飴とかあんず飴とかいろいろあるじゃん」
小亀 「どっちにしろ食ってんだろ!」
千鶴 「いやいやいや」
小亀 「じゃあ誰がここに捨てるんだよ!」
千鶴 「お前じゃね?」
小亀 「今のは違う」
千鶴 「いやいやサボってないし」
小亀 「サボってただろ!」
千鶴 「サボってないし!」
小亀 「サボってただろ!!」

言い合いしているところへ百恵戻る

百恵 「2人とも!」

静まる。

百恵 「何さぼってんの。いくよ」
2人 「…はーい…」

3人はける。舞台上は3人がコロスとなって動き、地震の抽象的な表現。机をずらしたり、椅子を倒したりする。里美、部室に顔を出す。部室には机の下に隠れた小亀一人。

里美 「誰かいる?」
小亀 「はい」
里美 「小亀だけ?」
小亀 「今日は私だけです」
里美 「余震ひどいから避難するよ」
小亀 「わかりました」

小亀、コートだけ持って出る。里美もはける。照明暗くなり、千鶴にネライ。

千鶴 「お母さん!?…私は大丈夫。…わかった。私も浜高に避難するから」

千鶴はける。照明明るく。屋上で出会う千鶴と小亀

小亀 「チヅ!!生きてた!」
千鶴 「コガ!怪我してない?」
小亀 「大丈夫」
千鶴 「恒星投影機は?」
小亀 「ああ、それだけでも持ってくればよかったな」
千鶴 「うん、苦労して作ったけど、まあ仕方ない」
小亀 「ちょっと戻って取ってくる」
千鶴 「津波警報出てるし、お願い、ここに居て」
小亀 「すぐ戻るから大丈夫」
千鶴 「ねぇ…」
小亀 「ここで待ってて」

小亀はける。照明薄暗くなり、部室に戻った小亀をコロスたちが連れ去る。震災時のACの広告の音声が流れる。トップ1本の中に千鶴。そこへ河北新報を持った里美登場。二人とも疲れ切っている。

里美 「…千鶴!」
千鶴 「…先生、コガの手掛かりありましたか?」
里美 「…千鶴、落ち着いてね」

河北を千鶴に渡す。千鶴記事の一点を見つめる。涙がこぼれる。

千鶴 「恒星投影機なんてどうだってよかった。あんなもの取りに戻る必要なんか無かったんだよ。死んじゃったら意味ないよ、戻ってきてよ…。コガ…。ああ~」

里美、千鶴の肩を抱く

里美 「…」
千鶴 「ああ~ん、ああ~ん、先生…。コガが…私がコガに…うう。恒星投影機の話なんてしたから…。だからコガがそれを取りに戻って…コガを殺したのは私なんです…ああ~ん」
里美 「…あんな大きな津波が来るなんて、誰も分かんなかったんだよ」
千鶴 「でも、もっとちゃんと私が止めてれば…うっ…うっ…」
里美 「千鶴のせいじゃない。千鶴のせいじゃない」
千鶴 「ああ~ん」

照明ゆっくりとアウトし、タイムスリップ終了。里美トップ1本の中で電話。その脇では部室の現状復帰を粛々と行う。屋上は間借り校舎の屋上へチェンジ。

里美 「あ、もしもし、千恵子おばさんですか?…里美です。…はい。少しお聞きたいことがあるのですが…。はい、みこちゃんのことで。…みこちゃん、おばあ様に似て、確か霊感強かったですよね。今日学校の部室見てもらったんですけど、亡くなった生徒の霊がいるらしく、おばあ様の力をお借り出来ないかと思いまして…。はい…はい…。そうですか…。入院したんですか…。はい…。分かりました。大変お忙しいところ、ありがとうございました。…はい。おばあ様によろしくお伝え下さい」

明転。部室。里美とみこ、小亀がいる。

みこ 「おばあちゃん、私と話できたので、喜んでたよ」
里美 「そうなんだ。怪我の方はどうなの?」
みこ 「順調にいけば、2週間後には退院だって」
里美 「そうか、それは良かった。私も週末におばあちゃんに会いに行こうかな」
みこ 「喜ぶと思うよ」
里美 「うん。じゃ、とりあえず教わってきたことやってみて」
みこ 「やってみるけど、期待はしないでね」
里美 「だめ、ちゃんとやって」
みこ 「うぅ…」

みこ、センコマ様のご神体(石)を箱から出す。手伝う里美

小亀 「何始めるの?…石?」
里美 「これで全部だよね?」
みこ 「じゃあ始めるよ」

みこ、ご神体の上でおおぬさを左、右、左と3回振ったのち、おおぬさを置く。
数珠を取り出し手にかける。

みこ 「センコマ様、センコマ様、万事の名のもとに、お呼び奉りまする」
小亀 「センコマ様って?」
みこ 「センコマ様、センコマ様、私の耳になって下さい」
小亀 「ちょっと…」
みこ 「センコマ様、センコマ様、我に力をお貸しください。…ハァ!!」

みこの気合と共に、照明変化。SEが低く鳴る。みこの呼吸はここから先ずっと荒い。

センコマ 「万事みこか。ふっ…。よかろう」
小亀 「何だ!何が起こったんだ?」
みこ 「…小亀先輩の霊ですか?」
小亀 「…そうだけど」
みこ 「やはりそうでしたか…。あなたは今年の春3月11日に、この世を去りましたね」
小亀 「…うん…」
みこ 「ここに来て、居続ける理由を教えてください」
小亀 「うちはこの恒星投影機をもう一度使って欲しいんだよ。チヅにいくら言っても聞いてもらえない…」
みこ 「そうですか。しかしそちらの世界に持って行かれたものは、こっちの世界ではもう、使う事は出来ないのです」
小亀 「じゃあ、うちが命がけで守ったこれは、どうすればいいんだよ!」
みこ 「申し訳ありませんが、私にはどうすることも出来ないのです」
小亀 「どうすることも出来ないって…、じゃあ何でウチはここにいるの…。こんなもの!!」

投影機を投げ捨てようとするが出来ない。

みこ 「命の灯が消えてしまったあなたは、もう生きている人と関わることは出来ないのです。あなたの気持ちは、分かりました。私が千鶴さんに何とかお伝えしたいと思います」
小亀 「本当に伝えてくれるの?」
みこ 「はい。お伝えいたします」
小亀 「頼んだよ…」
みこ 「センコマ様、センコマ様、ありがとうございました」
小亀 「うちはずっとここで待っているから。待つことしか出来ないから」
みこ 「センコマ様、センコマ様、ありがとうございました」
小亀 「チヅによろしく…」
みこ 「センコマ様、センコマ様、どうぞお戻りください…ハァーッ!…」

照明戻り、SEはC.O. 同時にみこ倒れ込む。それを支える里美

里美 「大丈夫?」
みこ 「小亀先輩、恒星投影機の残骸を持っていて、すごく大切そうに持っていて、もう一度使ってくれって…」
里美 「じゃ、もう一回プラネタリウムやりたかったのかなあ」
小亀 (うなずく)
みこ 「だと思う」
里美 「小亀のために、今年もプラネタリウムやるしかないよね」
みこ 「でも、部では模擬店で固まってる」
里美 「千鶴がやらなければ小亀は納得しないだろうね」
みこ 「そうだと思う」
里美 「私もやれることはやるから、うまく話を持ってってよ」

里美、祭壇を片づける。

みこ 「も~」
小亀 (みこに頭を下げる)
みこ 「小亀先輩にもお願いされちゃったみたいだし。出来るだけ頑張ってはみるけど…ふぅ」
里美 「大丈夫?」
みこ 「センコマさまをお呼びするのって、こんなに疲れるんだ…」
里美 「そりゃ、神様だもんね」
みこ 「修行しないとなぁ」
里美 「立てる?」
みこ 「うん。どうやって話を持って行こう…」
里美 「千鶴説得するしかないでしょう」
小亀 「みこちゃん…」

部室を出る2人。それを見守る小亀。照明アウト。百恵、みこ、千鶴、1年生の順で入ってくる。廊下で既に話し合いは始まっていた風に。

みこ 「私たち文化部じゃないですか。文化部は活動内容を発表するのが文化祭なんじゃないですか?」
千鶴 「満足に活動できていない文化部多いよ?だから簡単にできる模擬店がいいんじゃないの?」
みこ 「でも、この部活は活動しているじゃないですか、もっと天文部らしい発表がいいと思うんです」
千鶴 「具体的には?」
みこ 「避難してる人とか、ボランティアの人とかも来てもらう訳ですよね?」
百恵 「うん、生徒会で、宣伝がんばるみたい」
みこ 「お客さんは、何を期待して浜高祭に来るんだろうって考えてみたんです」
百恵 「うん」
みこ 「私たちが作った食べ物でお腹を満たすために浜高祭に来るわけじゃないと思うんです」
千鶴 「みこちゃんの意見は分かった。でもプラネタリウムはやらないからね」
小亀 「チヅ!」
百恵 「千鶴、そんなに空気悪くしなくても…。1年生今の意見聞いてどう思う?」
一葉 「さっき、みこ先輩が言っていた、何を期待して浜高祭に来るのかっていう部分、私の中から抜けていたような気がします。何か、ただお祭り騒ぎをしたいと思っていました。それが、みんなを元気づけると思っていたのですが、考えが浅かったかもしれません」
十花 「じゃ、プラネタリウム以外だと何が出来るんですか?」
百恵 「展示とかかなぁ…」
十花 「展示で人来ますか?」
百恵 「それは…内容によるかな」
十花 「私はプラネタリウムがいいと思うんです」
千鶴 「だって、プラネタリウムのせいでコガ死んじゃったんだよ!」
小亀 「ちがうよ!」
百恵 「千鶴、ちょっと落ち着こうよ」
千鶴 「同じものをもう一度作るなんて、…出来ないよ」
十花 「…そんなの千鶴先輩の勝手じゃないですか?」
百恵 「十花も落ち着いて」
千鶴 「…私怖いの」
百恵 「千鶴」
千鶴 「恒星投影機作ったら、また誰か死んじゃうんじゃないかって…。そんなわけないって分かってる。でも、誰かが死ぬのはもう嫌なの。だから私はプラネタリウムはやりたくないの!」
小亀 「チヅ」
千鶴 「私の気持ちなんか分からないんでしょ!」
百恵 「千鶴!」

千鶴一旦はけて、屋上へ。

百恵 「…ちょっと待ってて」

百恵千鶴を追う。しばしの静寂。

一葉 「……先輩は、あんなこと思ってたんですね」
十花 「…」
みこ 「PTSDってやつかもしれませんね」
一葉 「PTSDって?」
みこ 「心的外傷後ストレス障害。心に大きなダメージを受けると、それが引き金となって起こるんです。突然不安になったり、フラッシュバックしたりして、情緒不安定になるとかそんな感じ」
一葉 「そういえば、聞いたことあるかも」
十花 「私たちだけでやれないのかな?」
一葉 「作業しているのを見るだけで、やっぱり思い出しちゃうんじゃないかな?」
十花 「そっかー」

屋上に千鶴。追って入る百恵。部室暗く。

千鶴 「…ほんと、頼りない部長でごめん…」
百恵 「ううん。…気持ちの整理なんてそう簡単につくもんじゃないと思うし、千鶴の気持ちは千鶴にしか分からない」
千鶴 「百恵…」
百恵 「いいと思うよ」
千鶴 「何が?」
百恵 「苦しくて、いいと思うよ」
千鶴 「…」
百恵 「だって、生きてるから悩んだり苦しんだりするわけでしょ」
千鶴 「…生きてる…」
百恵 「小亀のこと、毎日毎日思い出しちゃうでしょ」
千鶴 「…うん」
百恵 「千鶴、見えるよ。浜高。2年間お世話になった校舎」

千鶴 「百恵、文化祭任せていいかな?私ブレーキかけてるよね」
百恵 「私はいいけど、千鶴いいの?最後までやらなくて」
千鶴 「私だけ、楽しい思いするわけには行かないもん」
百恵 「そっか…。それ言ったら、私だって同じなんだけどね。2年間だけど、小亀とは一緒にやってきたわけだし」
千鶴 「うん…」

百恵 「…わかった。任せて」
千鶴 「百恵、ごめんね」

里美、数枚の写真を持って登場。部室明るく。

里美 「あれ、3年生は?」
みこ 「ちょっと、どこか行ってます」
里美 「そう…。今、警察が写真届けてくれたの。去年のプラネタリウムの写真」
十花 「え、ちょっと見せて下さいよ」

里美、みんなに写真を渡す。小亀、それをしばし覗き込むが、寂しそうに戻る。

みこ 「へ~去年やってたプラネタリウムって、こんな感じだったんだ…」

写真を1枚づつ回す。

一葉 「この人が小亀先輩ですか」
里美 「小亀のこと知ってるの?」
一葉 「先輩たちからお話聞きました」

十花写真を見る。

十花 「めっちゃ変顔してますね」
一葉 「お前いつもこんな顔してんじゃん」
十花 「は?」
一葉 「してますよね」

里美 「何か似てる」
十花 「え、この顔に?」
里美 「違う違う、あなたたち二人が千鶴と小亀に」

十花 「やっぱり私言い過ぎたかな」
一葉 「これだけの事抱えてたんだよ。先輩は」

百恵と千鶴帰ってくる。

百恵 「ただいま。みんな何してんの?」
里美 「去年の浜高祭の写真だよ」
百恵 「どこから持ってきたんですか!?」
里美 「警察が届けてくれたの」
百恵 「見せて見せて」(写真を受け取る)
十花 「…先輩、さっきはすみませんでした」
千鶴 「…」
十花 「私先輩の気持ち理解してませんでした」
千鶴 「私もやり過ぎた。ごめん」
百恵 「懐かしい~。3人で写ってる写真だよ。見る?」
千鶴 「…見る…」(写真を受け取る。)

受け取った写真を、1枚ずつじっくり見る。

千鶴 「…コガ…笑ってる。写真撮るといっつもこの変顔なんだから」
百恵 「あ、これこれ。この段ボールドーム。私の力作」
十花 「うわ、けっこうでかいですね!」
百恵 「でも、これでも中に椅子10脚入れていっぱいいっぱいだったんだよ」
一葉 「そうだったんですか」
百恵 「千鶴」(写真を渡す)
千鶴 (受け取る)
百恵 「去年3人しかいなかったのによくやったよね。…天文部大好きだったもんね」
千鶴 「今も大好きだよ」
百恵 「千鶴、私は死なないから」
千鶴 「え?」
百恵 「絶対に死なないから」
千鶴 「百恵…」
百恵 「この空気、大事にしたいんだ」

百恵 「今年は後輩いるんだよ?私たちの伝統、伝えていかなきゃいけないんじゃないかなって。…1年生、写真見てどう思った?」
十花 「先輩たちがうらやましいです」
一葉 「文化祭楽しんでるのが写真から伝わってきました」
百恵 「みこちゃんは?」
みこ 「もう一度出来ないかなって、むしろこれを越えることをやりたいって思いました」
百恵 「千鶴、もう一度がんばってみない?」
小亀 「百恵…」
千鶴 「みんな…。コガがいたら、何やってるんだって言われちゃうよね」
小亀 「…チヅ」
十花 「先輩」

千鶴、窓の方に行き、空に語る

千鶴 「コガ、部員3人も増えたんだよ」
小亀 「知ってる」
千鶴 「1年生2人もいるんだよ。すごいでしょ」
小亀 「うん」
千鶴 「ねえ、私たち天文部じゃん。美浜高校天文部ここにありって感じのことやらないと、やっぱりダメだよね!」
小亀 「そうだよ、そう考えてこそ部長だよ!」
里美 「じゃ、後はよろしく。他の部の写真もいっぱいあったので、それ配ってくるから」
千鶴 「先生、ありがとう」
里美 「じゃ、また」(微笑む)
百恵 「はーい」

里美はける

百恵 「千鶴」
千鶴 「今年もプラネタリウムやりたいって言ったら、付き合ってくれる?」
百恵 「当たり前でしょ」
十花 「よっしゃー」
一葉 「先輩!外側のデザイン、私にやらせて下さい」
百恵 「おお~、デザイン専門家がいるのって心強い」
千鶴 「何か去年よりも、グレードアップしそうだね」
百恵 「せっかくやるんだから、同じじゃつまんないでしょ。ただ、心臓部分の恒星投影機はどうする?」
千鶴 「天球の型紙は作れるけど、穴あけがなぁ…」
みこ 「私けっこう細かい作業は好きですよ?」
千鶴 「よし、じゃ、恒星投影機は私とみこちゃんで作ってみるか」
みこ 「はい!」
千鶴 「生徒会に出す企画書書こう。出店名どうする?」
一葉 「はい」
千鶴 「どうぞ」
一葉 「アストロン・ミュートスっていうのは?」
十花 「何それ?」
一葉 「古いギリシャ語で、アストロンが星、ミュートスが神話だから、それをくっつけたんです」
十花 「アストロン・ミュートスか。いいね!」
百恵 「何で知ってるの?」
一葉 「図鑑に載っていました」
百恵 「え、あそうなの」
千鶴 「よし、じゃ名前はアストロン・ミュートスでいこう!」
全員 「イェーイ!」
百恵 「じゃ、私たちは段ボールの調達に行くとしますか」
一・十 「はい」
千鶴 「決まると動くの早いね~」
百恵 「性分なので。細かいところは任せていいよね?」
千鶴 「みこちゃんと相談しながら適当に書くから」
百恵 「この辺だと、どこから段ボールもらって来れるかな?」
一葉 「まだ再開してる店少ないですからね…」
十花 「店より、支援物資配ってるところに行けば、あるかもしれませんよ?」
百恵 「あ~それは可能性あるかも」
千鶴 「いろいろ当たってみるしかないかもね。私たちの企画説明して、ついでに浜高祭の宣伝もしちゃえば、みんな喜んで提供してくれると思うから」
百恵 「だね、じゃ手分けして探すとしますか」
一・十 「わかりました」
千鶴 「じゃ百恵、外回りよろしく」
百恵 「うん、ちょっくら行ってくる」
十花 「いってきまーす」
一葉 「あ、先輩、看板も作るんですよね?」
百恵 「そうだよ」
一葉 「そのデザインもやりたいです」
百恵 「ん~予算内でやってね…」

3人はける

千鶴 「浜高祭参加申込書。天文部…。出店名、アストロン・ミュートス…。内容、プラネタリウム…。希望場所、教室…。必要備品、暗幕…、机何台?」
みこ 「何に使う机ですか?」
千鶴 「受付用と、ドーム支え用。あそうだ、さっきの写真」
みこ 「はい」
千鶴 「みこちゃん、机いくつ使ってるように見える?」
みこ 「う~ん、8台くらいですかね?」
千鶴 「じゃ、10台。とりあえず、百恵たち帰って来てからその辺確認しよう」
みこ 「はい」
千鶴 「椅子は、中15脚、外2脚っと」
小亀 「大きいの作るね」
千鶴 「参加申込書はこんなところでいいかな」
みこ 「いいと思います」
千鶴 「さて、恒星投影機どうするかな」
みこ 「穴あけは、電動ドリル使うんですよね?」
千鶴 「うん」
みこ 「じゃ、マイドリル持ってきますね」
小亀 「みこちゃん、頼んだよ」
千鶴 「マイドリルあるんだ」
みこ 「頂きものですけどね」
千鶴 「あの、みこちゃんさ、みんな帰ってくるまで残っててもらっていいかな?」
みこ 「どうしたんですか?」
千鶴 「コガに、…今日の事報告しに行きたいから」
小亀 「チヅ…。うちはここにいるよ」
みこ 「分かりました。じゃ、私残ってます」
千鶴 「それじゃ、お願いね」
みこ 「はい」

千鶴、荷物を持ってはける。

小亀 「ほんとは手伝いたいんだけどね」
みこ 「小亀先輩」
小亀 「みこちゃん、ありがとう。チヅがやっと動いてくれた」
みこ 「いえ、私が力になるのはこれからです」
小亀 「って、うちの声聞こえているの?」
みこ 「はい」
小亀 「え、いつから…」
みこ 「実はセンコマ様の力を借りてから、ずーっと聞こえています。きっとセンコマ様が私に仕事をしっかりして欲しいんだと思います」
小亀 「あの、センコマ様って?」
みこ 「私の家系に代々伝わる神様みたいなものです」
小亀 「そうなの」
みこ 「さっきも言いましたが、私小亀先輩の力になります。これも万事の名のもとに生まれた私の宿命です」
小亀 「…宿命か」
みこ 「思い残すことがあれば、何でも言って下さい」
小亀 「…うちが死んだのはチヅのせいじゃない。チヅのせいじゃないんだ。部室に戻ったのは自分の意思だから、チヅにその事だけは伝えたい。あ~あ、本当は一緒にプラネタリウム作りたかったな…」
みこ 「先輩…」
小亀 「それから、大好きな家族にも言いたいことが…」
みこ 「どうぞ、ぜんぶ言って下さい」
小亀 「母さん、産んでくれてありがとう。父さん、守ってくれてありがとう。先に死んじゃってごめんな。うちの生きた17年はとても濃かったよ。きっとみんな大変だったんじゃないかな。心に穴が開いちゃったと思う。天文部に入れなければ、死なせることもなかったとか考えちゃうかもしれない。けど、最後まで大好きなチヅと、そして美浜高校天文部として過ごせることが出来てよかったよ。父さん、母さん、幸せだったよ。ありがとう…」
みこ 「わかりました。小亀先輩の感謝の気持ち、きちんと伝えます」
小亀 「あ~…何か体が軽くなった気がする。よーし、そろそろ星になるか」

千鶴入ってくる

みこ 「千鶴先輩、どうしたんですか?」
千鶴 「さっきの写真さ、コガの所に持って行って見せようかと思って」
みこ 「あ、これですか?はい」
千鶴 「ありがとう」
小亀 「チヅ、そろそろ行くから」
みこ 「チヅ、そろそろ行くから」
千鶴 「へ?」
小亀 「みこちゃん…」
みこ (小亀に合図)
小亀 「チヅ、…うちが死んだのは(チヅのせいじゃない)」()内口パク
みこ 「…うちが死んだのはチヅのせいじゃない。部室に戻ったのはうちの意思だから」
千鶴 「みこちゃん、ふざけないで」
みこ 「いいから、みこちゃんの話、聞けよ!!」
千鶴 「え!?」
みこ 「お前と出会えて本当によかった。うちにとって最高の親友だったよ。うちは、チヅのこと遠くで見守るから。…しわしわのくっちゃくちゃになるまで、こっちに来るんじゃねーぞ!」
千鶴 「コガ…、コガなの…」
小亀 「やっと気づいてもらえた」
千鶴 「コガ…」

小亀 「じゃ、美浜高校天文部部長、鳥海千鶴、頑張って生きろよ!」
千鶴 「わかった」

小亀、ゆっくりと歩いて光の中(舞台奥)に消えていく。BGM。みこ、崩れるように座る。千鶴必死にみこを支える。空に向かって叫ぶ千鶴

千鶴 「私、コガの分まで頑張って生きるからー!」

BGMと共に幕

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