創作脚本

鼻と糸とんぼ

2014全国高校演劇春季フェスティバル参加作品

『 鼻と糸とんぼ 』

安保健+宮城県名取北高校演劇部 作

登場人物

優(小学校4年生)
今野(小学校4年生)
マサエ(小学校4年生)
ゆき(小学校4年生)
将樹(小学校4年生)
すみ(小学校4年生)
優の妹(小学校1年生)
ぱち子(小学校4年生)
健太(小学校4年生)
今野の母
ヤス先生(今野と優の担任)
リカ(小学校4年生)

7月

< 川の流れる音 >
< 優がマスクして釣りをしている。 >
< 今野が釣りに来る。 >

今野  「となりいいですか?」
優   「うん、いいよ。」
今野  「(今野の魚がつれる。)あっ、つれた!」
優   「・・・・。」
今野  「(今野の魚がまたつれる。)あっ、すみません。」
優   「・・・。」
今野  「吉川優君だよね。」
優   「うん。どうしてして知っているの?」
今野  「だって、同じクラスだよ。」
優   「同じクラス?」
今野  「うん。覚えてない?」
優   「ごめん・・・。」
今野  「覚えていなくてあたりまえだよ。僕、学校にあまり行ってなかったから。」
今野  「場所代わりますか?ここ釣れるみたいですよ。」
優   「いいの?」
今野  「うん。(今野と優が場所を入れ替える。今野の魚がまたつれる。)あっ・・・すみません。この魚あげます。」
優   「いいの?」
今野  「うん、いいよ。」
優   「いいの?」
今野  「うん、川の音を聞いているだけでいいんです。」
優   「川の音?」
今野  「うん、水の流れる音。」
優   「どうして?」
今野  「ボク、病気で大きな手術した時、麻酔がなかなか覚めなくて、おしっこが出なくなった時があったの、その時、看護婦さんが水道の水を流してくれたら、なかなかでなかったおしっこが出たんです。その時から水の流れる音を聞くと、「お前は今、生きているよ」ってささやいている気がするんです。ハハハ、だから川の音を聞くとホッとするんです。だから、ここに居るだけでいいんです。あそうだ、食べる?(川の音が徐々に止まる。)」
優   「ボク、イイです。」
今野  「イイの?ここで食べるとおいしいよ。食べないの?食べなよ。」
優   「いいんです!」
今野  「ごめん、余計なことだね。」
優   「見せたくないんです、この鼻だれにも。」
今野  「鼻?」
優   「うん、ボクの鼻ヘンなんです。あっ、鬼ヤンマ!」
今野  「鬼ヤンマじゃないよ、あれは水引ヤンマだよ。」
優   「水引ヤンマ?」
今野  「うん。鬼ヤンマは黒と黄色のしま模様だけど水引ヤンマは黒と水色のしま模様だよ。」
優   「黒と水色のしま模様・・・本当だ!」
今野  「なかなか見ることできないよ。」
優   「トンボ詳しいんだね。」
今野  「好きなんだ。あそこにいるトンボ分かる。」
優   「どこ?」
今野  「あそこ。」
優   「いないよ。」
今野  「いるよ。あそこの草の根本のところに止まってるよ。」
優   「あれトンボ?」
今野  「うん、糸トンボ。」
優   「糸トンボ?」
今野  「うん、シッポが糸のように細いんだ。飛ぶとすぐ止まるんだ。弱いから長く飛べないんだ。まるで体育のできないボクみたいだね。それにボクと同じで水辺が好きなんだ。」
優   「体育できないの?」
今野  「うん、見るだけ。でも、一度でいいから運動会にでたいな。」
優   「でたことないの。」
今野  「うん。あまり走れないんだ。」
優   「走れないの?」
今野  「走れるよ、10メートルくらいなら、ハハハ、糸トンボよりボクのほうが上だね。」
優   「ボクは出たくないな。」
今野  「優君速そうだけど、出たくないの?」
優   「うん、マスクして走るから遅いよ。」
今野  「じゃあ、マスクとるといいよ。いいな、走れて。」
優   「・・・。(川の音が流れる。)」
今野  「あっ!」
優   「なに?」
今野  「きてる!」
優   「本当だ! (優の魚が釣れる。)」
優・今野「ハハハハハ  (笑いの中で照明が落ちていく。)」

7月 蝉の声、公園

< マサエの「だるまさんがころんだ」で将樹が街頭を押して入って来る。 >
< すみが水道を押して入って来る。 >
< ゆきとぱち子が入って来る。 >
< マサエ「だるまさんがころんだ」で入ってくる。 >

マサエ 「だるまさんが転んだ。だるまさんが転んだ。だるまさんが転んだ。」
将樹  「ゆき!」
ゆき  「なに?」
将樹  「タイタニックやろうぜ!」
ゆき  「うん。」
将樹  「ぱち子、写真とっていいぜ。」
ぱち子 「パチ、パチ、パチ!」
将樹  「カメラはパチじゃなくてカシャ、カシャだよ。」
ぱち子 「将樹君、わたしのカメラはパチなの!」
将樹  「ごめん、そうだった。ぱち子、イイ写真とって。」
ぱち子 「テアンデイ、コチトラ、エドッコヨ!まかしとき。パチパチパチ!」
ゆき  「まさき君、もうやめよう。」
将樹  「どうして?」
ゆき  「はずかしいよ・・・。」
将樹  「もう少し続けよう、みんな、僕たちをナイスカップルだって言っているよ。そうだよね、ぱち子?」
ぱち子 「(カメラに熱中して)テアンデイ、コチトラ、エドッコヨ!カシャ、カシャ、カシャ!」
将樹  「あれ、ぱち子、カシャ、カシャじゃなくってパチ、パチじゃなかった?」
ぱち子 「テアンデイ、コチトラ、エドッコヨ!カシャ、カシャ、カシャ!」
マサエ 「へへへへ・・。」
将樹  「なんだ?」
マサ  「エへへへ。」
将樹  「なんだよ。」
マサエ 「へへへ、将樹くん、今度はわたしの番ね。」
将樹  「それは無理だな。」
マサエ 「どうして?」
将樹  「だって、ボク、ゆきが好きなんだもん。」
マサエ 「えっ、私でなかったの?」
将樹  「マサエ、人生は自分の思い通りにならないんだよ。ボクは例外だけど。それにマサエ、ナマっているよ。」
マサエ 「(嘘泣き始める。)エヘエヘエヘ、ワァァ!」
ゆき  「ごめんね、マサエちゃん。かわるよ。」
将樹  「そうだね、女の子を泣かしちゃ男すたるね。ボク、女の子の涙に弱いんだ。」
マサエ 「へへへへ。(マサエと将樹がタイタニックをする。)」
将樹  「どう?ローズになった気分は?」
マサエ 「ローズ?」
将樹  「タイタニックのヒロインだよ。」
マサエ 「タイタニックのヒロインはローズじゃなくてノーズだよね。」
将樹  「ノーズ?ローズだよ。ぱち子ローズだよね。」
ぱち子 「テアンデイ、コチトラ、エドッコヨ!カシャ、カシャ、カシャ!」
すみ  「へへへへ、ノーズだよ、将樹君。」
将樹  「ローズだよ。」
マサエ 「ふん、あんたの負けね、だから、私と結婚しなさい。」
将樹  「だめだよ、ボクは自由なんだ。」
すみ  「ちぇ、気取りやがって。マサエちゃん、代わってイイ?」
マサエ 「いや!」
将樹  「そんなこと言うなよ、マサエ、ボクのために代わってくれよ。」

< マサエしぶしぶすみとタイタニックをやる。 >

すみ  「へへへへ、ノーズ、ぼくたち幸せだね。へへへ、マサエちゃん、ボク、デカプリンに似ているよね、そっくりだよね、へへへへ。」
今野  「すみ君、タイタニックのヒーローはデカプリンじゃなくて、デカプリオだよ。それに、いろいろ考えたんだけどノーズじゃなくってローズだと思うんだけど。」
マサエ 「ふん、ノーズよ。」
すみ  「そうだ、そうだ、ノーズだ!」
今野  「ノーズは鼻だよ。」
すみ  「ハハハハハ、花はフラワーだよ、今野君。」
今野  「(自分の鼻を指さして)こっちの鼻だよ。」
将樹  「そうだよ。ローズだよ。」
マサエ 「じゃあ、将樹くん、ローズはなに?」
将樹  「ふん!」
マサエ 「あんたの負けね、ゆきちゃんと別れなさい。」
今野  「ローズはバラだよ。」
将樹  「そうだよ、バラだよ。」
マサエ 「ばかばかしい。(マサエはタイタニック止める。)」
すみ  「(ひとり取り残されて)あああ、マサエちゃん、ぼくはどうなるの。ぱち子やろう。」
ぱち子 「(ぱち子はカメラに夢中)テアンデイ、コチトラ、エドッコヨ!カシャ、カシャ、カシャ!」
すみ  「今野く~ん、ボクとタイタニックしない?」
今野  「えっ?僕たち男同士ですよ。」
すみ  「うん、そうだけど小学生だから許せるじゃない。」
今野  「いいけど・・・。」
マサエ 「でたああ・・・小学生だから許せる。お医者さんごっごのすみ!バカタコ!」
すみ  「ウェェェ~ン(嘘泣きする)」

< 健太登場。優がいるのを見て出て行こうとする。 >

将樹  「あっ!健太、遊ぼう?」
健太  「ボク、ちょっと・・・。」
将樹  「タイタニックだぞ。女のこと遊べるよ。」
健太  「ごめん!(走り去る。)」
将樹  「どうしたんだ、あいつ。」
マサエ 「あああ、もうやめた。」
将樹  「うん、ゆきちゃん、帰ろ。」
マサエ 「ぱち子も帰ろ。」
ぱち子 「テアンデイ、コチトラ、エドッコヨ!」

< マサエ、ゆき、将樹、ぱち子退場。 >

すみ  「へへへへへへ(へへへを言い続けながら退場。)」
今野  「(いつのまにか優が公園にいるのに気づく。)優君いたの?」
優   「うん。」
今野  「みんなと遊ばないの?」
優   「今野君はやったことある?」
今野  「なに?」
優   「タイタニック?」
今野  「ボク?」
優   「うん。」
今野  「ないよ。」
優   「やりたい?」
今野  「やりたいけど・・・。一度でいいからやってみたいね。」
優   「ボクもタイタニックやりたい。」
今野  「一緒にやろう。」
優   「女の子とやりたいんです!」
今野  「そうですね、女の子ですね、タイタニックは。だれとやりたいですか?」
優   「それはちょっと・・・。」
今野  「ゆきちゃんですか?」
優   「えっ!」
今野  「優君のゆきちゃんを見る目は普通ではありません。あっ、決して異常ではありませんよ。僕たちの年齢では良くあることです。ゆきちゃんのこと考えてごはん食べれないとか、夜、ゆきちゃんの家の前にじっと立ってるとか、ハハハハ、あ、これはボクたちの年齢ではよくあることです。大人になるとマズイと思いますが。」
優   「・・・。」
今野  「女の子と付き合うのはとてもむずかしいですね。ゆきちゃんを好きなライバルがたくさんいます。特に将樹君は強敵です。ボクたちには魅力的に見えないけど、女の子にはなぜかモテる。」
優   「人生って本当に不公平ですね。将樹くんはあんなにウスッペラなのに・・。」
今野  「でも、もてる。」

< 切ないピアノが流れる。ゆきと将樹が楽しそうにスキップして通り過ぎる。 >

優・今野「・・・・。」
優   「やっぱりもてるんですか!」
今野  「はい。」
今野  「これが運命というものです。」
優   「すごい、今野君、まるで大人だ。」
今野  「50歳になっても子供の人もいます。多分、将樹君は50歳になってもあのままだと思います。」

< 切ないピアノが流れる。ゆきと将樹が楽しそうにスキップして通り過ぎる。 >

優・今野「あああああ。」
優   「・・・むずかしすぎてボクには分からない・・・。」
今野  「それに・・・もてるには・・・。」
優   「なんですか?」
今野  「いいですか言って?」
優   「いいよ、言って。」
今野  「そうですか。じゃあ言います。マスクです。」
優   「マスク?」
今野  「マスクしてはもてません。とったほうがいいと思います。マスクしている犯罪者が多いですよね。モテますか?もてませんよね。」
優   「・・・・今野君はだれとタイタニックしたい?」
今野  「ボク?」
優   「うん。」
今野  「将樹君。」
優   「えっ!」
今野  「うそだよ。マサエちゃん。」
優   「ええっ!(もっと驚く)」
今野  「ボク、マサエちゃんが、いいなあ。ボク、目の大きい子が好きなんです。」
優   「大きすぎない?デメキンみたいだよ。それに怖いよ。」
今野  「すこし怖いけど、でも、瞳がキラキラ輝いてきれいだよ。それに強いよ。」
優   「でも、強すぎるよ。」
今野  「ボクにない強さだよ。ボク、欲しいなマサエちゃんの強さ。」
優   「ボクだったらないほうがいい。食いついたら離れない気がする、恐ろしい。」
今野  「マサエちゃんの一途なところもいいな。」
優   「でも、マサエちゃんは将樹君が好きだよ。」
今野  「そうですね。ボクは遠くから優しく見守ってるタイプなんです。片思いでもいいんです。ブラームスはシューマンの奥さんのクララ・シューマンが好きでシューマンが死んでからもずっと陰で奥さんを助けていたんです、一言も好きだといわずに。」
優   「カッコいいね。ブラームスってだれ?シューマイってだれ?」
今野  「シューマンだよ。シューマンもブラームスも有名な作曲家だよ。」
優   「やっぱり今野君、タイタニックしよう。」
今野  「うん、いいよ。」

< 二人はハミングしながらタイタニックをする。 >

優   「ゆきちゃ~ん」
今野  「まさえちゃ~ん」

< ヤス先生登場 >

今野・優「ああああああ・・・。」
優   「トンボゴッコです。(優と今野がトンボの真似をする。)」
ヤス先生「みんなは?」
今野  「帰りました。でも、ぱち子がどこかに隠れてシャッターチャンスを狙ってるかもしれません。」
ヤス先生「今野君、元気でね。」
今野  「お世話になりました。」
優   「今野君転校するの?」
今野  「うん。」
ヤス先生「明日、お母さん来れる?」
今野  「聞いてみます。」
ヤス先生「じゃあ、できれば3時ごろ来てって言って。」
今野  「はい。」
優   「いつ転校するの?」
今野  「運動会が終わった次の日。」
優   「じゃあ、来週の月曜日だ。」
今野  「うん。ヤス先生、お願いがあります。」
ヤス先生「なに?」
今野  「ボク、運動会にでたいんです。」
ヤス先生「本当に?」
今野  「100メートルだけでいいんです。」
ヤス先生「走って大丈夫?」
今野  「ゆっくり走ります。先生、百メートルですよ。マラソンじゃないですよ。心配いりません。」
ヤス先生「そうだけど・・・。」
今野  「どうしてもボク運動会でたいんです。」
ヤス先生「お医者さんは?」
今野  「いいって言ってます。」
ヤス先生「分かった、でも、無理しないでね。」
今野  「はい。」
ヤス先生「じゃあ、体力つけないとね。」
今野  「気力もです。山また山です。」
ヤス先生「山また山?」
今野  「はい、山を越えると向こうに越えなければならない別の山があるんです。」
ヤス先生「今野君、いつも思うけど、小学生と思えないこと言うね。」
今野  「ヤス先生にそんなふうに言われると光栄です。ボクは名探偵コナンかもしれませんよ。実はボク、病院で大人の人とばかり話をしていたんです。ボクの病院には小学生がいませんでしたからね。」
優   「今野君、今度、また、これしに行こう。(フィッシュングの真似をする。)」
今野  「うん、いいよ。じゃあ、ボクは、ヤス先生、さようなら。運動会がんばろう、じゃあね。」
優   「・・・。」

< 今野が微笑みながら退場。 >

ヤス先生「優君、これなに?(フィッシュングの真似をする。)」
優   「釣りです。ボク、初めてだ。」
ヤス先生「初めて?」
優   「ボクから「遊ぼう」って言ったの。」
ヤス先生「釣り好きなの?」
優   「はい。」
ヤス先生「優君いいことしたね。今野君は本当は転校じゃないの。」
優   「なんですか?」
ヤス先生「入院なの。」
優   「入院?今野君病気なんですか?」
ヤス先生「うん。長くかかるみたい。」
優   「どんな病気ですか?」
ヤス先生「言えないけど、とてもつらい病気。」
優   「とてもつらい・・・そうですか。」
ヤス先生「うん。釣り楽しんでね。」
優   「はい。」
ヤス先生「・・・優君、まだ、マスクとれない?マスク取れたらみんなと給食たべれる。」
優   「・・・・。」
ヤス先生「お母さんから写真見せてもらったけど優君の鼻、前と同じ。2ミリだけ低くなってるっていってるけど、分からない。」
優   「写真、見たんですか?」
ヤス先生「うん。おかしくない、普通だよ。」
優   「おかしいです!」
ヤス先生「鼻の骨が折れたけど、手術でもとに戻った。」
優   「うそです!戻っていません!ボクには何度みても引っ込んでいて醜いです。」
ヤス先生「そう、見えるだけ、あの時のショックでそう見えるだけ。思い込んで見ると、見えないものが見えることがある。」
優   「見えるものは見えるんです!」
ヤス先生「言いずらいんだけど、健太君のことも考えて。」
優   「ボクはもういいです。あれは事故ですから。ボクも健太君が近くでバットを振ってるのが分かりませんでした。ボクも悪いんです。」
ヤス先生「それはわかるけど・・・。優君がマスクしていると健太君いつまでも優君の鼻をバットで打ってしまったことを思い出すと思うの。」
優   「でも、ボク・・・(詰まる)この鼻、みんなに見せるの嫌です・・・。」
ヤス先生「そうだけど・・・健太君、野球クラブ止めてしまったよ。」
優   「止めたんですか。」
ヤス先生「うん。優君にしたことを考えるとバットが振れないって。」
優   「でも、ボク・・・。」
ヤス先生「・・・取りたい時、取ってね。気を付けて帰るのよ。」
優   「ヤス先生・・・お願いがあります。」
ヤス先生「なに?」
優   「一度やってみたいことがあるんです・・・。」
ヤス先生「なに?」
優   「怒らないでください。」
ヤス先生「怒らないよ、優君。」
優   「じゃあ言います。(間)ボクとトンボゴッコをやってください!あっ間違えた!ボクとタイタニックやってください!」
ヤス先生「私と?」
優   「はい。」
ヤス先生「すてき!」
優   「いいですか?」
ヤス  「やろう。」

< タイタニックの音楽が鳴る。 >
< ヤスと優がタイタニックをやる。 >
< ぱち子が現れる。 >

ぱち子 「テアンデイ、コチトラ、エドッコヨ!カシャ、カシャ、カシャ。(ぱち子がガッツポーズする。)」
優・ヤス先生「ああああ!(ヤス先生と優が逃げる。)」
優   「(優が戻って来る。)ああああどうしよう。パパラッチぱち子にスクープされた。ボクはもうおしまいだ。(台に横になる。)おしまいだ。あああおしまいだ。(空が見える。)なんて青い空なんだ・・・。(優寝てしまう。)」

< 照明が落ちる。Little Green Bag の音楽が流れる。 >
< マサエが変な踊りをしながら現れる。誰かをのぞいている。公園の長椅子に優が寝ている。お互いに見つめ合う。マサエが闘牛士になる。優が闘牛になる。倒れる優。(Little Green Bag の音楽が止まる。)そこにゆきが手を振って現れる。 >

ゆき  「優く~ん!」
優   「・・・・。」
ゆき  「優君。」
優   「え?」
ゆき  「わたしよ。」
優   「ゆきちゃん?」
ゆき  「大丈夫?」
優   「うん。」
ゆき  「よかった。」
優   「ここはどこ?」
ゆき  「天国。」
優   「天国?」
ゆき  「うん。」
優   「天国かあ~。」
ゆき  「どうしたの?」
優   「なんでも、元気?」
ゆき  「うん」
優   「・・・・(嬉しそうに笑ってる)」
ゆき  「優君の笑い顔・・・。(恥ずかしがって。)」
優   「えっ」
ゆき  「ステキ!」
優   「ボク、初めてだ。」
ゆき  「なにが?」
優   「女の子にステキって言われたの。」
ゆき  「優君の笑いは私の太陽!」
優   「ホントに?」
ゆき  「うん」
優   「これ(一輪のバラの花を差し出す。)」
ゆき  「ありがとう」
優   「ゆきちゃん、バラの花だよ」
ゆき  「きれい!うれしい、初めて。男の人に花もらったの。」
優   「ゆきちゃん、バラの花、似合うよ。」
ゆき  「ホントに?」
優   「うん」
ゆき  「どおして?」
優   「ゆきちゃんはきれいだから。」
ゆき  「なんかテレちゃう。」
優   「本当のことだよ。」
ゆき  「優君も私の太陽」
優   「太陽とバラ」
ゆき  「太陽とバラ」
優   「うん」
ゆき  「すてき!」
優   「僕たちの愛は永遠、どんなに大きな、たとえ宇宙が私たちを滅ぼそうとしても、私たちの愛は滅びない決して。」
ゆき  「どうしたの優君?」
優   「なにが?」
ゆき  「優君の言ってること、大人の人みたい。」
優   「うん、ボク、タイタニック見て暗記したんだ。」
ゆき  「すごい優君。」
優   「ゆきちゃんのために毎日、タイタニック見て覚えたんだ。」
ゆき  「どういうこと言ってるの?」
優   「それはちょっと・・・。」
ゆき  「・・・でも、いいよ。優君が私のために暗記してくれたんだから。」
優   「うん、世界は僕たちのためにあるんだよ。ゆきちゃ~ん、大好き!(歌舞伎調で)」
ゆき  「どうしたの?」
優   「世界の中心で愛を叫んだんだ。」
ゆき  「ステキ!」
優   「ゆきちゃんも叫んでよ。」
ゆき  「ゆうく~ん、大好き!(バラの花を回して)」
優   「ボクたち幸せだね。」
ゆき  「うん。」
優   「やって欲しいことがあるんだ、ノーズ。」
優   「ゆきちゃんの名前だよ。だってゆきちゃんはバラじゃないか。」
ゆき  「ノーズは鼻だよ。」
優   「えっつ、、、ごめん、ローズだった。」
ゆき  「いい名前ね、ローズ。」
優   「うん、そうだよ、ボクは生まれる前からゆきちゃんをローズって呼ぼうって決めていたんだ。」
ゆき  「生まれる前から」
優   「うん、そしてボクは・・・。いつも苦しいことがあるとゆきちゃんの名前をノートに書いていたよ。」
ゆき  「私の名前を?」
優   「うん。ほら、見る。(ランドセルからハートの付いたノートを取り出す。)」
ゆき  「(ノートを読む。)きょうは将樹君と鬼ごっこしました、ゆきちゃん。それからマサエちゃんが入ってきてめちゃくちゃになりました、ゆきちゃん。そして、みんなでだるまさんごっこをしていたら、マサエちゃんがだるまさんなりました、ゆきちゃん。ボクはゆきちゃんと帰ろうとしました、ゆきちゃん。でも、ゆきちゃんは将樹くんと帰りました、ゆきちゃん。ゆきちゃんは、とても嫌がっていました、ゆきちゃん。かわいそうなゆきちゃん。ゆきちゃん、ゆきちゃん!・・・優君、ごめんね・・・。」
優   「いいよ、ゆきちゃん。モテナイまさきが悪いんだ。」
ゆき  「本当にごめんね。」
優   「いいよ。」
ゆき  「もう、まさき君の言うことなんか聞かないから、ごめんね。」
優   「うん、いいよ。」
ゆき  「わたし、優君のためならなんでもする。」
優   「ゆきちゃん、本当に。」
ゆき  「うん。」
優   「タイタニックしよう。」
ゆき  「うん!」

< タイタニックのテーマ曲が流れる。優とゆきがタイタニックをする。 照明が二人を照らす。 >

優   「ゆきちゃ~ん、ボク、死んでもいいよ~。」

< ぱち子が登場。 >

ぱち子 「テアンデイ、コチトラ、エドッコヨ!」

< ぱち子とゆきが消える。 >
< 元の公園、優が寝言を言ってる。妹が公園にやって来る。 >

優   「ゆきちゃ~ん、ボク、死んでもいいよ~。ゆきちゃん~、大好きだよ~、君となら死んでもいいよ~、ゆきちゃん~ゆきちゃん~。」
妹   「兄ちゃん。」
優   「あっ、ここは?」
妹   「公園。」
優   「夢か・・・。」
妹   「兄ちゃん、公園でおひるね。お母ちゃんに言おうかなあ。」
優   「ハハハハ、公園で寝てた、誰が?お前の言うことなんか誰も信じないよーだ。」
妹   「ふん、にいちゃん、ごまかした!」
優   「ボク、寝てましぇえん!」
妹   「兄ちゃん、へへへへへ」
優   「・・・。」
妹   「へへへへへ(いやらしそうに)」
優   「なに?」
妹   「へへへへへ」
優   「なに!」
妹   「兄ちゃん、死ぬ、死ぬって言ってたよ?お母ちゃんに言おうかな・・・。」
優   「た、た、たんなる寝言だよ。」
妹   「へへへ、あやしい?(手差し出す)」
優   「なに?」
妹   「へへへ」
優   「なに?」
妹   「口止め金(きん)。」
優   「なに?」
妹   「だから口止めきん。」
優   「ハハハハ単なる夢に口止め金?」
妹   「よしこちゃんのお姉ちゃん、ゆきちゃんでしょうローズって。」
優   「まままま・・・まあさか~。」
妹   「ガチャポ~ん!あたりだね。兄ちゃんはすぐ顔に出る。私の女のカンをバカにしちゃあいけない。」
優   「・・・なにが欲しい。」
妹   「やっぱり。ローズってよしこちゃんのお姉さんだった。」
優   「なにが欲しい!」
妹   「マネ、マネ、マネ~。」
優   「生意気に、小学1年生のくせに金で解決しようとする。ほら。」
妹   「セコ!30円・・・。兄ちゃん、私をバカにしてるの。」
優   「ほら。」
妹   「セコ!20円・・・。兄ちゃん、私、学校でなんて呼ばれてるか知ってる。」
優   「・・・。」
妹   「ジャイヤンチビまる子。」
優   「ふん、いくらだ。」
妹   「ワン サウザンド エン、ワン サウザンド エン。」
優   「え?」
妹   「ワン サウザンド エン。」
優   「ワン サウザンド エン、、、、、。」
妹   「にーちゃん、エイゴ分からないんだ!」
優   「わかるよ。115円だよ!」
妹   「バーカ、千円だよ。」
優   「お兄さんにバカだと、えっ!千円!」
妹   「安いと思うよ。」
優   「ばーか、誰が、お前なんかに千円だすか!。」
妹   「へへへへ・・・後悔するよ。へへへ・・・(携帯を差し出す)このトップシークレット見る。」
優   「なに?」
妹   「やめた方がいいよ。」
優   「・・・なにが?」
妹   「よしこちゃんのねえちゃん。」
優   「どうして!」
妹   「これは、オ・ン・ナ・の・カン。」
優   「ふん、小学1年生のくせに。」
妹   「自分だって小学生のくせに。小学1年生をバカにしちゃああいけない。特に私の男と女の観察力をあなどってはいけない。」
優   「小学1年生が観察力?ハハハハ」
妹   「よしこちゃんの姉ちゃん、ちょっと、かわいいからみんなにモテる。みんなにちやほやせれるからワガママ、したがって性格が悪いんだよね。」
優   「ふん、生意気に、小学1年生のくせに。」
妹   「ッッッッッッ兄ちゃん高望みなんだよ・・・。それに・・・へへへへ。」
優   「なに!」
妹   「兄ちゃん、手紙出したでしょ。」
優   「えっ!」
妹   「証拠残しちゃダメでしょ。」
優   「えっ!」
妹   「だから、ダメでしょ。お花だったら証拠にならないのにねえ~。」
優   「証拠?なに!」
妹   「だから・・・テ・ガ・ミ。」
優   「手紙・・・。」
妹   「女は怖いのよ。カマキリのかカアチャンなんかトウチャンを食べるんだから。」
優   「なななんだよ。」
妹   「兄ちゃんのラブレターみんなのにメールでまわってるよ、直筆でバッチリ、ほら。」
優   「えっつつつつ!!!」
妹   「僕たちの愛は永遠、どんなに大きな、例え宇宙が僕たちを滅ぼそうとしても、僕たちの愛は滅びない、決して。みんな言ってるよ、兄ちゃんが世界の中心でバカを叫んでるって!!しかも全部ひらがな!!!」
優   「わわわわわわあああ。」
妹   「へへへへ(何かの包みを見せる。)」
優   「今度は何?」
妹   「これは高いよ。」
優   「えっ!」
妹   「だから高い。」
優   「何?」
妹   「見たい?」
優   「えっ・・・・。」
妹   「私、見つけたの。」
優   「見つけた・・・。」
妹   「うん。」
優   「何を・・・?」
妹   「フフフフ、見つけたの。」
優   「何を!」
妹   「お兄ちゃん、本当に嫌いなんだ。」
優   「何!」
妹   「本当にいらないのかなあ?なくていいのかなあああ?」
優   「なななにを!」
妹   「見たいいい。」
優   「だから何!」
妹   「フフフフ」
優   「・・・・。」
妹   「見たくないの~。」
優   「なにを・・・。」
妹   「たかいよ~。」
優   「高いって・・・?」
妹   「一億。一億円」
優   「一億円・・・。」
妹   「安いと思うよ~。」
優   「何が?」
妹   「だから、これ。一億。」
優   「ハハハハ(追い詰められて)一億が安い。」
妹   「フフフフ」
妹   「サービスしてあげる。大切な兄ちゃんだから。」
優   「もうイイ!(出て行きかける。)」
妹   「いいの兄ちゃん。」
優   「もうイイ!」
妹   「かわいそうな兄ちゃん、ほうううら。(箱を投げる。)」
妹   「あけなさい!あけるのよ!!」
優   「これはあああ、あああああああ!」
妹   「ハハハハ、あなたの醜い鼻よおおおおお!」

< 優が持っていた自分の鼻を落とす。妹が拾って逃げる。優が追いかける。妹が逃げる。二人は追いかけっこする。 >
< プロコフィエフのロメオとジュリエットの「モンタギュー家とキャピュレット家」の音楽が流れる。 >

優   「返せ!ボクの鼻!」

< 妹が消えた方から、たくさんの巨大な鼻が行進して行く。 >

優   「ああああああああああああああ」

< 優がうなされている。そこへ今野君が登場。今野はやさしく語りかける。 >

優   「ああああああああ・・・。」
今野  「大丈夫?」
優   「ああああ。」

< 今野を鼻だと思う。 >

今野  「大丈夫?」
優   「ああああ、鼻、鼻、鼻、鼻・・・。」
今野  「大丈夫?」
優   「あああ、僕の鼻、僕の鼻・・・。」
今野  「はな?」
優   「うん、鼻なんだ・・。」
今野  「はな がどうしたの?」
優   「いるだろう?いっぱい醜い鼻が?」
今野  「花はどんな花でもきれいだよ。」
優   「違う!咲く花じゃなくて。」
優   「顔の真ん中にあるヤツだよ。大きなヤツ・・・。醜い鼻が行進してたんだ。」
今野  「いないよ。」
優   「うそだ!あっそうだ!ボクの鼻!ある・・・。ボクの鼻ある・・・。」
今野  「大丈夫、優君?」
優   「きみは?」
今野  「ぼくだよ。」
優   「今野くん?」
今野  「うん。」
優   「本当に?」
今野  「うん。」
優   「ここどこ?」
今野  「公園だよ。」
優   「ボク、ここでなにしてたんだろう。」
今野  「夢見てたんだと思います。」
優   「夢?ボク、ここに寝ていたの。」
今野  「うん。」
優   「ボク初めてだ・・・こんなところで寝てたの・・・。」
今野  「鼻の夢見たんですか?」
優   「うん、ボクの鼻がなくなったんだ。」
今野  「怖い夢見たんだね。」
優   「うん・・・。でもどうしてだろう?」
今野  「君の鼻が、今の君を嫌がって逃げたんだと思う。今の君が「醜いからお前を見せたくないって」マスクしてるみたいに。」
優   「どうすばいいの?」
今野  「マスク取るといいと思う。」
優   「でも、ボクの鼻醜いよ。」
今野  「じゃあ、醜くたっていいじゃない、自分の鼻だよ、受け入れてあげなよ。」
優   「いやだ!ボク、できそうもない・・・。この鼻をみんなに見せるの。」
今野  「ボクもアタマをツルツルになったことがあるよ。初めはとっても恥ずかしかったけど、でも、自分が思っているほど、みんな気にしなかったよ。」
優   「今野君、ボウズになったの?」
今野  「うん、薬で髪が全部抜けたよ。」
優   「薬で?」
今野  「うん。」
優   「今野君、偉いね。」
今野  「何が?」
優   「だって、禿頭をみんなに見せたんだよね。」
今野  「うん、でも、初めは恥ずかしくて病院の風呂の中でも帽子かぶっていたよ。でも、とったら、すっきりしたよ、特に頭と心が。」
優   「うちの父さんハゲにならないようにハゲにならない薬のんでるけど、ハゲになる薬もあるんだね。」
今野  「おとうさんハゲなの。」
優   「うん・・。」
今野  「ボクのお父さんもハゲです。」
優   「悲しいですね。僕たちもハゲるんでしょうか・・・。」
今野  「たぶん・・・。でも、優君のお父さん、家の中で帽子かぶってる。」
優   「かぶってないけど・・・。」

< ゆき、将樹、マサエ、すみ >

優   「(夢の中のゆきだと思って甘く)ゆきちゃ~ん。」
ゆき  「なに?」
優   「ボクのノート返して、ハートの付いたピンクのゆきちゃんノート。」
ゆき  「優君のピンクのノート?」
優   「う~ん。ああああああああっつ!」
ゆき  「どうしたの?」
優   「夢見てたあ・・・ごめん。」
ゆき  「どんな夢?」
優   「それはちょっと・・・ゆきちゃんには言えないよ。夢の中で夢見て、夢が醒めたらそれも夢で、夢が夢でもしかして、今も夢みているかもしれない。ゆきちゃん、ちょっと、言えないよ。」

< マサエが優の腕を思いっきりつねる。 >

優   「うぐぐぐ、あああ。」
優   「なんでお前がつねるんだ!」
マサエ 「夢ってなに?」
優   「へへへ、それはちょっと。」
マサエ 「どんな夢?」
優   「それはちょっと言えないよ・・・。」
マサエ 「どうして言えないの?」
優   「(ゆきちゃんとの夢を思い出して)へへへ、やばいよ。」
マサエ 「ふ~ん、あやしい。」
将樹  「どうせ、ふられた夢だよ。モテない男が見る夢だよ。それより、ゆきちゃん、行こう。」
マサエ 「うん、行こう。」
将樹  「マサエちゃんでなくてユキちゃんだよ。」
マサエ 「ちぇ!」
すみ  「へへへへ、マサエちゃん、ボクとあそぶ?」
マサエ 「いや!」
すみ  「(すみが嘘泣きし始める)エヘエヘエヘ、ワァー。」
将樹  「男はつらいね、すみ君。」
ゆき  「すみ君、かわそう。」
将樹  「ゆきちゃん、同情しなくていいよ。これ、すみ君の作戦だから、これ、うそ泣き。かわいそうなモテない男の最後の手だから、ハハハハハ。」
すみ  「ボクは本当に怒ってる!」
将樹  「怒ってる?」
すみ  「ボクはモテない人間だけど・・・」
将樹  「そうだよ。それが、どうしたの?」
すみ  「ひどい!わあああああああ!」

< すみがジグザグに走って退場 >

将樹  「どうしたんだろうすみ君?ボク、なんか言った?なんにも言ってないよね?」
ゆき  「すみ君、大丈夫かな?」
将樹  「大丈夫だよ、ゆきちゃん。いつもの通りだよ。」
マサエ 「バカバカしい。ゆきちゃん、帰ろ。」
ゆき  「うん。将樹君も行こう。」
将樹  「うん、モテる男はつらいね。(優と今野を指さして)モテない男もつらいけど、じゃあ。」

< マサエ、ゆき、将樹退場。 >

優   「なんてやつだ・・・。」
今野  「そうだね。」
優   「みじめな気がします。」

< 今野がふと空を見る。 >

今野  「空、きれいですよ。」
優   「ホントだ、きれいだね。地上はこんなにドロドロしているのに。」
今野  「こんなきれいな空がみれるボクたちは幸せだね。」
優   「心が洗われる・・・。今野君どうしたの?」
今野  「空、見ることができない人もいるんです。」
優   「いるの?」
今野  「うん。ねたきりで病室の天井しか見れないからです。ボクもずっと見れなかった。ボク、いつも思ってた。」
優   「なにを?」
今野  「この空を好きな人と見たいって。」
優   「マサエちゃん。」
今野  「その時は分からなかったけど・・見たいな。この夕日をみながらマサエちゃんとタイタニックをしたい。」
優   「男のロマンだね。」
今野  「うん。」

< 今野が指を空に向ける。 >

優   「なに?」
今野  「トンボ」
優   「あっ(トンボが今野の指に止まる。)すごいね。(ささやきながら)糸トンボだ。」
今野  「うん。」
優・今野「あああああ!」

< マサエが泣きながらやってくる。 >

今野  「マサエちゃん・・・。」
マサエ 「グスグスグス(優に弁当を差し出す。)食べて。」
優   「これ、なに?」
マサエ 「作ったの・・食べて・・・グスグス、わたしの作ったの食べれないの?」
優   「いいけど・・・。」
マサエ 「じゃあ食べて。」
優   「だけど・・・。」
マサエ 「わたしが心を込めて作った弁当、食べてくれないの!わーああああ。」
今野  「優君は人前で食べれないんです。給食も個室でないと食べれないんですよ。」
マサエ 「ぜいたく、どうして?」
今野  「マスクがとれないからです。ボクでよかったら食べますが?」
マサエ 「いいの?」
今野  「よろこんで頂きます!」
マサエ 「やさしいんだね。今野君、モテないけど・・。」
今野  「そうですね、ボク、モテませんね。(今野、弁当をあける。御飯の上に海苔で「将樹君、大好き!」って書いてある。)これは・・・。」
マサエ 「グス、グス、わたし、のりを切ってやっと作ったの「将樹君、大好き!」って。将樹君の樹の字、はさみでのりを切るの難しくて何回も失敗してやっと切ったのに、将樹君、お腹すいてないから、いらないって言っての。グスグス、そしたら、将樹君、今度はボクのために「ゆきちゃん、大好き!」っていう海苔弁作ってくれっていうの。ワアアアア・・・。」
優   「なんてひどいやつだ!」
マサエ 「将樹君の悪口言わないで!優君だって食べなかったんだから!」
優 「・・・。」
今野  「マサエちゃんは弁当で愛の告白をしたんですね。ボクのようなものが本当に食べていいですか?」
マサエ 「うん。」
今野  「はしありますか?」
マサエ 「これ使って。」
今野  「フォークですか?」
マサエ 「うん。」
今野  「フォークで食べるの。」
マサエ 「うん、そのフォークで将樹をグサっと刺して、それからこれ。(トマトケチャップを出す。)」
今野  「なに?トマトケチャップ?」
マサエ 「血。」
今野  「血?」
マサエ 「ふふふ、将樹の血。「将樹君、大好き」の将樹君の上にたっぷりかけて。」
優   「恐ろしい・・・。」
今野  「マサエちゃんの気が済むなら。ボクやります。」
マサエ 「今野君、やさしい・・・。」
今野  「弁当殺人事件ですね。ボクが実行犯だ。」
マサエ 「すてき!わたしが主犯ねへへへ!今野君、コナンみたい!」
今野  「はい、ボクは名探偵コナンかもしれません。おいしい、特に将樹君のところが。」
マサエ 「おいしい?」
今野  「うん、とてもおいしい。」
マサエ 「はじめて、おいしいって言われたの。将樹君は・・・一度も言ったことがない。」
今野  「この弁当明日、洗って返していいですか?」
マサエ 「将樹君は・・・一度も洗って返したことない・・・。」
今野  「大丈夫ですか?家(うち)まで送りますか?」
マサエ 「将樹君は一度も送ったことがなかった。今野君、私が好き?」
今野  「えっ!」
マサエ 「嫌い?」
今野  「いいんですか?」
マサエ 「なにが?」
今野  「好きになって?」
マサエ 「私、今野君が好き!マサエちゃんでなくてマサエってよんで今野く~ん。」
今野  「いいんですか?」
マサエ 「う~ん。」
今野  「じゃあ、いきましょう、マサエ。あっ、やっぱりボクはマサエちゃんでいいです。」
マサエ 「いいの?(二人はスキップし始める。)」
今野  「うん。マサエちゃん、ボクの名前知ってる?」
マサエ 「今野君でしょ。」
今野  「下の名前?」
マサエ 「ごめん、なんて言うの?」
今野  「将樹です。」
マサエ 「将樹君だったの!」

< マサエと今野が退場。 >

優   「うつくしい。なんてうつくしい愛の告白だ!殺人事件の後なのに。でも、あの将樹があの将樹で、この将樹がこの将樹で。あの将樹がこの将樹でなくて・・・あああわからない!世界は本当に複雑だ。」

< ゆきが悲しそうに歩いている。 >

優   「あっ、ゆきちゃん。」
ゆき  「将樹くんが・・・。」
優   「将樹ってどっちの将樹?」
ゆき  「え?」
優   「あの将樹?それともこの将樹?つまり性格のイイ将樹、ワルイ将樹?グット将樹か、バッド将樹か、モテる将樹、それともモテない将樹?モテない将樹がうつくしいモテる将樹になって、ああああもうどっちでもイイ。とにかく、ゆきちゃんが悲しんでる。」
ゆき  「なにいってるの優君・・・。」
優   「将樹君が、どうしたの?」
ゆき  「将樹君、ひどい・・・。」
優   「(悲しそうなゆきを見て)バット将樹だ!将樹君がゆきちゃんになにかしたんですか?」
ゆき  「将樹君ひどいの・・・。(涙を浮かべる。)」
優   「バット将樹のヤツ、ゆきちゃんになにをしたんだ!」
ゆき  「なにもしていないけど・・・。」
優   「じゃあ、どうして!」
ゆき  「リカちゃんと・・・。」
優   「リカちゃんと・・? あの4年3組出席番号13番身長134㎝のリカちゃんと?」
ゆき  「うん。将樹君と手をつないで歩いていたの。」
優   「あの4年生出席番号13番身長134㎝のリカちゃんと・・・。許せない! ゆきちゃんがいるのに!2又、バット将樹!」
ゆき  「男の人って最低!」
優   「ボクは違います!」
ゆき  「本当に?」
優   「うん。」
ゆき  「でもどうして、リカちゃんの出席番号まで知ってるの。」
優   「あっ、どうして知ってるんだろう・・・。」
ゆき  「最低!」
優   「でも、ボクは将樹くんのようにワガママではあいません。ボクは将樹くんのようにモテませんから安心です。すみくんよりモテますけど・・・。だから、、、、。」
ゆき  「だから、なに?」
優   「だから・・・。」
ゆき  「優君、将樹君のようにストレートに言わないとモテないよ。」
優   「・・・はい。」
ゆき  「優君、わたしが好き?」
優   「うん。」
ゆき  「じゃあ、マスクとって。」
優   「えっ、とるの?」
ゆき  「とれない?」
優   「いいけど・・・どうしてとるの?」
ゆき  「マスクとらないと本当に優君が好きかわからないよ。わたしのために取って。」
優   「ゆきちゃんのために・・・。」
ゆき  「うん。」
優   「じゃあ、取るね。」

< 優がマスクを取る。 >

ゆき  「ふふふ」
優   「おかしい?」
ゆき  「えっ、どうして?」
優   「だって、笑った・・・。」
ゆき  「わたし、笑った?」
優   「うん。」
ゆき  「ごめん、笑って。」
優   「どうして笑ったの? ボクの鼻おかしい?」
ゆき  「おかしくないよ・・・笑ってごめんね。だって、マスクの優君に見慣れていたからだよ。」

< 将樹登場。 >

将樹  「ボクが好きなのはゆきちゃんだけだよ。本当に本当だよ。」
ゆき  「本当に、本当?」
将樹  「うん。」

< 将樹とゆきが退場、優はアタマを抱える。今野君登場。 >

今野  「どうしたの?」
優   「ボク、みじめです。ゆきちゃんに、この鼻笑われた。ボク、もう終わりだ。」
今野  「笑われたっていいじゃないですか。」
優   「ひどい!」
今野  「自分の鼻だよ。」
優   「だから嫌だよ!」
今野  「ゆきちゃんが笑ったのは鼻を嫌がっておどおどしている優君じゃないのかなあ。」
優   「ボクの鼻を笑ったんだ!」
今野  「笑われたって生きていける。生きていけるなら笑われたっていいじゃない。今、生きてることが大切なんだよ。」
優   「今野君の言ってること何を言ってるいるか、さっぱり分からない!今野君は自分の鼻が変じゃないからそんなこと言えるんだ!」

< 健太登場。 >

今野  「健太君。」
健太  「うん。(健太がバットを持って優に近づく。)」
優   「うあああ(優が逃げる。)」
健太  「待って!優君!ボクは打(ぶ)たないよ!」
優   「ホントに!」
健太  「うん。」
優   「じゃあ、それなに?」
健太  「これでボクの鼻打って。」
優   「えっ。」
健太  「ボクの鼻を思いっきり打って。」
優   「打つの?」
健太  「うん。」
優   「どうして?」
健太  「ボクが優君の鼻を打ったみたいに打って欲しいんだ。そうすればボクも優君のマスク気にしなくなる。五分と五分になる。」
優   「嫌だ!」
健太  「じゃあ、マスク取って。」
優   「嫌だ!」
健太  「じゃあ、ボクはどうすればいいの!(うつむく)」
今野  「優君、どうしても嫌ですか?」
優   「うん。」
今野  「じゃあ、マスク取ってください。」
優   「嫌だ!」
今野  「じゃあ、ボクが健太君の鼻をこれで打ちます。健太君いい?」
健太  「うん。」
今野  「ボクは優君がマスクと取ると約束するまで健太君を打ちます。健太君いい?」
健太  「うん。」

< 優が逃げようとする。 >

今野  「優君!逃げちゃだめ!うああああ」

< 今野の迫力に負け健太が逃げ出す。優がオロオロする。 >

健太  「うああああああ」
今野  「あああああああハアハアハアハ・・」

< 優が逃げる。今野が倒れる。 >

健太  「大丈夫、今野君。」
今野  「うん。」
健太  「うまく、いかなかったね。」
今野  「うん。やるだけのことはやったのだけれどね。ごめんね、ボクの予想どおりにならなかったね。ボク、名探偵コナンになれないね、ハハハ。」

< 照明が落ち始める。 >
< スポットに優 >

優   「今野君が走る運動会がついにきました。」

< 運動会の歓声 >
< シルエットで子供たちが応援する。 >

優   「ボクは今野君が走るのを遠くから隠れるように見ていました。今野君は必死で走りました。みんながゴールしたのに、今野君は半分も走っていませんでした。みんな今野君を笑っていました。」
みんな 「ハハハハ」
優   「みんなに笑われても今野君は一生懸命走っていました。何度も転びました。転ぶたびにみんなは・・・」
みんな 「やーい、だるまさんが転んだ!やーい、だるまさんが転んだ!」
優   「今野君は必死に走りました。転んでは笑われ、転んでは笑われ、でも、走ります。なんでなんだ!なんでなんだ!どうして走るんだ!ボクは今野君が重い十字架を背負って必死に丘を登っていくキリストを思い出しました。(あたりは静かになる。)ボクは胸が熱くなりました。ボクは今野君の姿に自分が恥ずかしくなりました。マサエちゃんが泣きながら今野君を応援していました。ついに今野君は走り通しました。運動場はしーんとしてました。ボクの番がきました。(優が台に立つ。)」
優   「みんなボクの前を走っていました。ボクはビリでした。その時、ボクは必死に叫んでいる声を聞きました。へとへとになりながら今野君はボクを必死に応援していました。今野君は糸トンボのような細い体から必死に声を絞り出していました。ボクは、ボクは、わああああああああああああああああああああああ」

< 優がマスクを取って必死に走る。 >

< 暗転、救急車の音がする。 >
< 病院、今野がベットに横になっている。母が側にいる。 >

今野  「ここは?」
母   「病院。」
今野  「ボク運ばれたの?」
母   「うん。」
母   「苦しい?」
今野  「少しだけ。」
母   「きのうからずっと眠っていたよ。あまり、無理しないでね。」
今野  「うん。」
母   「このまま入院だって。」
今野  「予定通りだね。」
母   「そうだね。」
今野  「明日、調子良かったら髪切って?」
母   「いいけど、どうして?」
今野  「髪が抜けていくの見るの嫌いなんだ。抜ける前にきった方が良いよ。」
母   「わかった。」
今野  「ボク、とても辛い。」
母   「・・・。」
今野  「ハハハハ、山また山だね。一つ山を越えると向こうに別の山がある。」
母   「そうだね。」
今野  「おかあさん、百メートル走ったよ。見た?」
母   「うん、」
今野  「ボク走れたんだ。やればできるんだね。」
母   「この調子でがんばろう。」
今野  「うん、ボク、ポンには負けないよ。」
母   「ポン?」
今野  「ボク、自分の病気をポンとよぶことにしたんだ。」
母   「かわいい名前だね。明るくてイイ名前だね。おまえは、本当に大人だね。」
今野  「かあさん、ボクはコナンですよ。ボクは3年間、病院の天井を見て大人になったんです。」
母   「そうだね、お前は本当に偉いね。もう少し寝なさい。」
今野  「うん。優君と、また、釣りにいきたいなあ。」
母   「じゃあ、お得意の想像の世界で優君と釣りをすればいいね。」
今野  「うん、想像の世界だと、どこへでも行ける。この天井が空になる。」
母   「このベットは魔法のベットだね。」
今野  「うん、お母さん、今度は思い出もあるよ。見た、優君マスク取ったよ。」
母   「一等賞もとったね。」
今野  「優君、一等賞も取ったんだ。すごいね。ボク、百メートル走れたんだ。」
母   「元気になったら、もっと、走れるようになるよ。」
今野  「うん、すこし寝ていい?」
母   「いいよ、ゆっくり眠りなさい。」
今野  「うん。」

< 母親の見守り中で、今野がつぶやく低い声で、徐々に大きく。 >

今野  「だるまさんがころんだ。だるまさんがころんだ。だるまさんがころんだ。」
マサエ 「(マサエの声)だるまさんがころんだ。だるまさんがころんだ。だるまさんがころんだ。(将樹、公園の舞台装置を一つ運んで出てくる。だるまさんがころんだ。(すみ、公園の舞台装置を一つ運んで出てくる。)だるまさんがころんだ。(ゆき、公園の舞台装置を一つ運んで出てくる。)」

< 照明が明るくなると公園になっている。 >

ぱち子 「テアンデイ、コチトラ、エドッコヨ!」

< みんな楽しく遊ぶ。 >
< タイタニックの音楽が流れる。 >
< 今野とマサエがタイタニックに乗って登場。想像の世界で今野が海原を糸トンボになって飛んで行く。 >

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