創作脚本

父を騙す

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創作脚本

2015全国高校演劇春季フェスティバル参加作品

「 父を騙す 」

安保健+名北演劇部 作

登場人物

祖父(平田彰) 大正14年(1925年生まれ)89歳、認知症(レビ小体)ためしばしば幻覚を見る。
横田五郎    大正14年生まれ(海軍の軍人)
父 50代
母 40代
青年平田(18歳) 孫優 高校3年生(18歳)(ダブルキャスト)
カナ 優の妹 小学生(10歳)
祖母
静江 平田彰の恋人
菅井 老人介護のケアーマネージャー
横田の母
少女たち

桜の咲く5月

舞台は薄暗い。真夜中、舞台にベットが一つある。

高校3年生の優が楽しそうに寝言を言っている。

優  「ハハハ・・・ハハハハ・・・・ハハハハ。ゆきちゃん、ボクのゆきちゃ~ん!」
(ゴジラのテーマ曲が鳴り優がうなされる。)
優  「うううううう」
(突然止む。)
優  「夢か~。」
(舞台が薄暗くなる。優がまた寝る。)
優  「ゆきちゃん・・・メロンパン・・・ゆきちゃん・・・コッペパン・・ジャムおじさん・・・アンパンマン。」
(ゴジラのテーマ曲が再び鳴り優がうなされ。)
優  「うううううう」
(突然止む。)
憂  「あ!夢か~」
優と祖父の声「ゆきちゃん、橫田ああ、ゆきちゃーん、橫田ああ、ううううう」
(舞台が薄暗くなる。優がまた寝る。)
(祖父が幕の裏から出てきて優のベットの側で何度も「橫田」と叫ぶ。)
祖父 「横田、、横田・・・。」
優  「おじいちゃん・・・来ないでえええええ!。」

(ゴジラのテーマ曲と共に、優のベットが独りでに動き下手に優を乗せて消える。)
(祖父が「橫田」がいなくなったと思い「橫田」と叫びながら探し回る。騒ぎに祖母が必死に止めようとする。)

祖母 「おとうさん、おとうさんやめて、おとうさんやめて、おとうさんやめて、おとうさんやめて!」
(祖父が、はっと我に返る。)
祖母 「(暴れるのを止め静かな声で)おとうさん、風邪引きますよ。夜中ですよ、」
祖父 「(はっと我に返り暴れるのを止め静かな声で)ここはどこ?」
祖母 「あなたのうち家ですよ。」
祖父 「そうか、ここは秋田か。」
祖母 「おとうさん、しっかりしてくださいよ。ここは宮城ですよ。」
祖父 「じゃあ、秋田に行く。」
祖母 「おとうさん、しっかりしてください、秋田の家は、もう、ないんですよ。ここが私たちの家ですよ。」
祖父  「嘘だ!」
祖母 「おとうさん、しっかりしてください!」
祖父 「ああああ!逃げろ!逃げろ!あぶない!あぶない!逃げろ!逃げろおおお!」
祖母 「おとうさん!」

(空爆の音、上手から戦争当時の人たち(祖父の幻覚)が逃げ惑い老夫婦と共に上手に消える。)
(ベットの背後にあった幕が取り除かれ、居間が現れる。居間に、後ろ姿の父が一人、ぽつんと立っている。寝不足ぎみで欠伸をしながら背伸びをする。母(妻)が疲れた様子で上手からやって来る。)

母  「(新聞と手紙を持って来て)おじいさん、昨日は特にひどかったですね。」
父  「今日が日曜日で助かった。もうクタクタだ。」
母  「このごろ、ひどくなって来ましたでしょ。」
父  「進んできたかなあー。」
母  「おばあさんは限界ですね。おばあさんは一睡もしていませんよ。」
父  「このままだと、おばさんが倒れてしまう。」

(妹がランドセルを背負って眠そうに上手からやって来る。)

妹  「はあああ。」
父  「カナ、大丈夫?食べなさい。」
妹  「うん、でも、眠い。どうしておじいちゃんは、あんなに暴れるの?」
父  「じいさん、年取ってボケたんだね。」
妹  「ボケって?」
父  「自分が誰だか分からなくなって変なことするようになるんだ。」
妹  「じゃあ、パパもボケてるね。」
父  「(嬉しそうに)パパ、ちょっと傷ついたな。」
妹  「ごめんねパパ、本当のこと言って。」
父  「カナは正直で偉いな。」
父  「(父は手紙を見る。)じいさんに手紙だ。」
妹  「(好奇心を示して)珍しいね、おじいちゃんに手紙なんて。」
父  「日本回天会からだ。」
妹  「日本回天会?パパ、なに?」
父  「回天かあ、カナに説明するのは、ちょっと難しいな。」
妹  「パパ、分かった。回転って、回転寿司でしょう。」
父  「違うよ。回天って爆弾を積んだ乗り物だよ。」
妹  「おじいちゃん爆弾を積んだ乗り物に乗っていたの?」
父  「戦争だったんだ。」
妹  「戦争?爆弾が爆発したらおじいちゃん、死んでたね。」

(優が眠そうに上手からやって来る。)

優  「(ため息)あああ おはよ」
母と父 「おはよう」
妹  「兄ちゃん、よだれ。」
優  「ハッ!」
父  「(優に)おまえも寝不足か?」
優  「眠れるワケないでしょ。」
父  「そうだな。」
優  「おじいちゃんは?」
母  「寝てるよ。」
優  「いい気なもんだ。一晩中騒いで!おじいちゃん、夜中に、オレの部屋に入って来て、わけのわからない名前をしゃべっていたよ。横川、横山、橫田だったか、まるであの世にいたみたいで、ぞっとしたよ。昨日、せっかくいい夢見てたのに。しまいにはゴジラに踏みつぶされる夢まで見たよ。受験生の僕は滅茶苦茶だよ。せっかくの日曜なのに、ボッとして勉強できないよ、今日は。」
妹  「でも、それって、おじいちゃんだけの責任じゃないよね。夢見たお兄ちゃんの責任だよ。」
優  「なんて妹だ。人の揚げ足ばっかりとる。」
母  「優、しゃべってばかりいないで、ごはん食べて。」
妹  「でも、どうして、おじいちゃんは、兄ちゃんの部屋ばっかり行くんだろう。きっと、兄ちゃんが好きなんだよ。」
優  「なんてヤツだ、食欲なくなることばっかし言う。」
妹  「兄ちゃんも夜中、けっこううるさかったよ。ゆきちゃんって誰?」
優  「ゆきちゃん?」
妹  「兄ちゃん、夜中、ずっと叫んでたよ、ゆきちゃーん、ゆきちゃーん、メロンパ~ンって。」
優  「嘘だ!」
母  「優、早く食べて。」
優  「もういい(優が忙しく食器をかたづける。)」
妹  「嘘じゃないよ~だ。これが証拠。」
兄  「なんだこれ?」
妹  「なんでしょう、兄ちゃんのゴジラ。」
兄  「あああ!」
妹  「このゴジラゆきちゃんからもらった。兄ちゃん、このゴジラゆきちゃんにプレゼントしたの?兄ちゃん、いくらゴジラ好きでも、女の子は喜ばないでしょ、ゴジラなんか。だからフラれるんだよ。兄ちゃん何度もフラれているんでしょ、ゴジラなんか女の子喜ぶ、喜ばないでしょ、お花だったらいいのにね。でも、もうフラれちゃったのね。(母の携帯が鳴る。)」
優  「お兄さんをペラペラとバカにして!」
母  「なにやってるの!電話聞こえないでしょ!(携帯に)はい、わかりました。お待ちしております。」
父  「だれから?」
母  「ケアーマネージャーの菅井さん。」
父  「みんな、昨日の騒ぎでイライラしているんだ。」

(下手から祖父がやって来る。)

妹  「あっ、おじいちゃん。おじいちゃんのごはん持ってくる。」
父  「えらいなカナ(カナが祖父の膳を持ってくる。)」
妹  「えへへへ、(カナが祖父の膳を取りにいく。)」
母  「おじいさん、ごはんですよ。(通りすぎようとする祖父を椅子に着かせる。)」
祖父 「ああ。」
妹  「はい、おじいちゃん ごはん。」
祖父 「入ってない。」
妹  「入ってるよ。」
祖父 「入ってない。」
母  「カナ、ふりかけかけないと・・・。」
妹  「あっそうだ、おじいちゃんはふりかけかけないと、ごはんが入ってることが分からないんだ。 はい。(カナがごはんにふりかけをかける。)」
(優が立って台所に水を飲みに行こうとする。)
祖父 「危ない!」
優  「えっ?」
祖父 「危ない!」
優  「なにが?」
祖父 「落ちるぞ!」
優  「落ちる?」
祖父 「よく見ろ!」
優  「なにが!」
祖父 「大きな穴があるじゃないか!」
優  「どこ?」
祖父 「そこに!お前の足もとに?」
優  「ないよ、おじいちゃん!いい加減にしてよ!」
祖父 「ある!気をつけろ!落ちる!」
妹  「おじいちゃん、ないよ。」
祖父 「穴だ!」
(優がイライラして祖父の言う幻覚の穴に思いっきりジャンプする。)
祖父 「あああ!危ない!」
母  「やめなさい!」
妹  「おじいちゃん、なにもないよ。」
祖父 「・・・。」
(間)
母  「おじいちゃん、ごはんですよ。」
祖父 「うん」
母  「カナ、学校に行きなさい、遅れるよ。」
妹  「うん、行く。パパ、今日の授業参観に来てね。」
父  「いつもパパはカナの授業参観を楽しみにしてるよ。」
母  「忘れものない?教科書は?」
優  「忘れるワケないでしょ、こいつは、面倒くさいから教科書全部持ってくんだ。それに朝、起きたらランドセルしょってるんだ。」
母  「カナ、重くない?」
妹  「重いけど忘れるよりいいよ。兄ちゃんみたいに授業参観にランドセル忘れてかないよ。」
優  「なんてやつだ・・・。」
父  「カナはちゃっかりしてるな、ランドセルしょって。」
妹  「じゃあ行ってきます!」
優  「カナ、お兄さんに何か言うことはないか?」
妹  「なに?」
優  「朝からこんなにお兄さんをいじめていいと思っているのか!」
妹  「ごめんなさい兄さん、へへへ・・・」
優  「なんだ・・・。」
妹  「お兄様、もう二度とします!(妹走って出て行く)」
優  「なんてやつだ・・・お兄様をバカにして。」
母  「どうしたんですか、おじいさん」
祖父 「この人、誰?」
母  「優ですよ。」
祖  「優・・?」
母  「孫の優ですよ。」
祖  「優・・ああああ!」
(祖父が優から離れ、優を指さして)
祖父 「生首!」
優  「あ?」
祖父 「生首!」
優  「えっ」
祖父 「生首!」
優  「俺?」
父  「じいさん、優だよ」
祖父 「生首!」
父  「(ピシャリと手を叩いて)じいさん!優だってば!」
祖父 「優、優か・・・。」

(まじまじと憂をみる。祖父が自分の部屋に戻ろうとする。)

父  「じいさん、どうしたの?」
祖父 「帽子取ってくる。」
母  「おじいさんごはんは?」
祖父 「ごはん?」
母  「まだ、途中ですよ。」
祖父 「もういい、終わった。」
母  「おじいさん、散歩ですか、背広持ってきますね。」
父  「じいさん、散歩いいね。」
祖父 「うん。アツシのところに行く。」
父  「アツシさんは死んだよ」
祖父 「死んだ・・・。」
父  「うん、2年前。」
祖父 「そうか・・弟は死んだか。」
父  「じいさん、覚えてない?」
祖父 「覚えてない・・・。」
父  「アツシさんに会えないよ。」
祖父 「アツシ死んだか・・・散歩に行く。」
父  「気をつけて。」
母  「おじいさん、散歩、一緒にいいですか?」
祖父 「ああ、いいよ。」

(母と祖父が上手に退場)

優  「本当に、気ままだね。年取るとああなるんだ。」
父  「だいぶ、進んできたね。良い時と悪い時が交互に来る。優、じいさんをあまりせめるなよ。」
優  「分かっているけど・・・悪い時のほうが多くなってきた。ボクのことが分からなくなってきたよ。」
父  「もう、90だからね。昔は秀才で、海軍にいっていた。足も、とても速やかった。」
優  「おじいちゃんが? とうさんは走るの遅いよね。」
父  「とうさんは、なにをやっても、じいさんの足下にも及ばなかったな。じいさんは当時のエリートだからな。」
優  「なんかわかるような気がする。だから父さんはコンプレックスの固まりになったんだね。ボクは幸せだな、できないおとうさんで。」
父  「とうさん、ちょっと傷ついたな。」
優  「とうさん、横田って知ってる?」
父  「横田?」
優  「じいさん、夜中にボクのことを橫田って呼ぶんだ。」
父  「じいさん、お前のことを橫田って呼ぶんだ、生首じゃなくて。」
優  「とうさん、ボクは真面目だよ。橫田って誰?」
父  「詳しいことは分からないけど、じいさんの戦友だね。」
優  「戦友・・。」
父  「回天って知ってるか。」
優  「回天?」
父  「知らないか、ゴジラは知っていても回天は知らないか、じいさんが悲しむな。」
優  「なに、回天って?」
父  「人間魚雷だよ。」
優  「人間魚雷・・。」
父  「爆弾を積んで軍艦に突っ込んでいくんだ。特攻は知ってるか?」
優  「特攻?」
父  「知らないか、特攻。」
優  「なに特攻って?」
父  「自分の命を犠牲にして国のために死んで征くんだ。」
優  「零戦(ぜろせん)?」
父  「そうだな、正確には零戦(れいせん)だ。回天はうごき出したら生きて帰ることができない必死だ。」
優  「必死?」
父  「必ず死ぬことだよ。じいさんはお前と同じ歳に回天に乗っていた。」
優  「おじいちゃんがボクと同じ歳に回天に・・・」
父  「回天、学校で習ったことないか?」
優  「習わないよ、受験に出ないから。」
父  「じいさんや、橫田さんがかわいそうだな。」
優  「橫田って人も回天に乗っていたの?」
父  「乗っていた。」
優  「橫田さんはどうなったの?」
父  「詳しくは分からない、じいさん、言わないから。でも、じいさんの心の暗い奥底に回天と共に沈んでる。時々、じいさんの記憶から回天が浮かんでくる。」
優  「どうしたの、父さん?」
父  「家の桜も咲いたね。桜は同期の桜って、じいさんたちの短い命の象徴だ。」
優  「とうさん、今日は詩人だね。とうさんにもあるの? おじいちゃんみたいな苦悩が。」
父  「時代が違うからね。おとうさんのはちっぽけだよ。」
優  「ボクも、そう思った。」
父  「とうさん、ちょっと傷ついたな。遠回しに聞いてもいいかもしれないね。もう、聞けない気がする。これが最後の気がする・・・。」
優  「とうさん、聞いたら。」
父  「じいちゃんにコンプレックス持っているからな、とても聞けないな。」
優  「ファザコン、とうさん、ずるい。」
父  「とうさん、また、ちょと傷ついたな。」
優  「ごめん、やっぱりボクも聞けない。ボクたち弱いね。」
父  「平和な時代のボクたちは弱いんだ、やさしいけど。だから父さんはお前を優しい子、優ってつけたんだ。」
優  「見直したよ、おうさん。ボク、とうさんの子で幸せだよ。」
父  「父さんもお前ができた子だったら、子供にまでコンプレックスを持ってしまう。あまりデキのよくない子で良かったな。」
優  「とうさん、ボク、ちょっと傷ついたな。」
父  「傷ついたか・・・僕たち弱いね。」

(母と祖父がやってくる。)

父  「どうしたの?」
母  「部屋に戻るみたい。」
父  「じいさん、どうしたの?」
祖父 「戻る、何処に行くのか忘れた。」
優  「おじいちゃん。」
優  「聞きたいことあるけどいい?」
祖父 「あぁ」
優  「おじいちゃんは僕の歳になにしていたの?」
祖父 「おまえ、何才だ?」
優  「18」
祖父 「18か・・・。そうか18か・・・。」
優  「橫田って誰?」
祖父 「・・・橫田・・・。」
優  「駄目みたいだね。」
父  「今日はだめだね。」
優  「回天か・・・(スマホを見て)これが回天か・・俺、図書館に行ってくる、これ、かたづけるね。」
母  「ありがとう、優。」

(優が退場する。)
(チャイムが鳴る。ケアーマネージャーの菅井が来る。)

母  「はい!」
菅井 「ごめんください!(声のみ)」
母  「どうぞ。(声のみ)」
菅井 「おじゃまします。(声のみ)」
母  「菅井さん、お待ちしておりました。」
菅井 「おじゃましてます。」
父  「お世話様です。」
母  「こちらへ。」
菅井 「ありがとうございます。」
菅井 「彰さんは、いかがですか?」
母  「相変わらず昼も夜も動き回っています。ここにきて、前より、ずっと、ひどくなっているんです。」
父  「おばあさんが大変です。」
菅井 「そうですか。」
母  「おばあさん、おじいさんの世話で、あまり眠れなくて、体重も急激に減ってきています。」
菅井 「今、何キロですか?」
母  「三十四キロです。」
菅井 「随分痩せましたね。まだ、同じ部屋で寝ていますか?」
母  「はい。」
菅井 「別々の部屋で寝たほうが良いと思います。」
母  「私も、そう思うんですけど・・・。私たちに迷惑をかけたくないから、おじいさんと一緒に寝ているんです。おばあさんがいないと、おじいさんさん、騒ぐから。」
父  「おばあさんが倒れてしまいます。」
母  「あまり具合が悪いときは点滴を打ってもらっています。昨日はフラフラで点滴を打ってもらいました。」
父  「電話の件はどうなりましたか?」
菅野 「今日お伺いしたのはその件です。今、お話ししてもいいですか?」
父  「大丈夫です。」
菅野 「そうですか・・・。」
(祖父が出てくる。)
祖父 「誰?」
母  「ケアーマネージャーの菅井さんですよ。」
祖父 「出て行け!」
母  「どうしたんですか、おじいさん。」
祖父 「騙されない。」
父  「じいさん、なにを言ってるんだ。」
祖父 「うるさい、出て行け!お前もグルだろう」
父  「じいさん、やめてください。」
祖父 「うるさい!騙されない!」
父  「騙すなんて・・・。」
祖父 「うるさい!訴えてやる。」
(祖母が騒ぎにやってくる。)
祖母 「なにやっているのですか、おとうさん!」
祖父 「(興奮して)こ、こ、こいつらが騙そうとしてるんだ!」
父  「騙すなんて止めてください!」
祖父 「うるさい!」
祖母 「おとうさん、部屋に戻りましょう!(菅井に)すみません、驚かして。おとうさん、行きましょう。」
祖父 「俺はもう騙されない!」
祖母 「おとうさん、しっかりして!(祖父が我に返る)(菅井に)すみません。」
母  「菅井さん、すみません。」
菅井 「彰さん、大変ですね。」
父  「・・・はい。」
菅井 「・・・空きができたそうです。」
父  「空きが。」
菅井 「はい、この前、お話しました山内病院です。認知症の専門の病院です。来週の木曜日入院可能です。」
母  「おばあさんのためにも一日でも早いほうがいいです。」
父  「問題はじいさんです。うんとは言わないだろうな、入院に暴れるかもしれません。」
菅井 「本人が納得して入院することが一番いいのですが・・・本人の意思を尊重しなければなりません。」
父  「そうですよね。おばあさんと一緒なら納得して行くと思いますが・・・。」
菅井 「私も、それが良いともいます。」
母  「無理です。お医者さんからも止められています。おばあさんの体力は限界です。」
菅井 「そうですか。」
父  「いろいろ考えたのですが、診察に行くと言って病院まで連れて行って、そのまま入院させるしかないですか。」
菅井 「そうですが・・・ご家族でしっかり話し合って決めてください。」
父  「木曜日に、連れていけなかったらどうなりますか?」
菅井 「また、順番を待つしかないですね。」
父  「わかりました。何とかタクシーで病院に連れて行きます。」
菅井 「そうですか。できれば、山内病院の相談院の佐藤さんと相談してみてください。これが電話番号です、では、私はこれで。」
母  「お忙しいところわざわざすみませんでした。」

(菅井が退場)

父  「(独り言で)最悪、無理矢理タクシーに乗せるしかないか・・・。」

(父と母が退場する。)
(繰り返し旋律がながれるハッペルベルのカノンが流れる。老人の祖父が現れる。もんぺ姿の少女たち下手から上手に上手から下手に笑いながら老人である祖父の周りを走る。)

(少女たちの歌声)

少女たち「少女たち 花も蕾の若桜」
「5尺の命 ひっさげて」
「国の大事に 殉ずるは」
「我ら学徒の 面目ぞ」
「ああ紅の 血はもゆる」

(少女たちの歌の中、祖父が上手に退場。)

(下手から2人の若い青年の平田彰(若い時の祖父)と横田五郎が  声を合わせて回天の操縦の手順を言いながら登場する。最初、横田が登場する。)
(上手から巨大な黒い棺のような7メートルの人間魚雷「回天」が登場する。)

二人 「電気縦舵機起動」
「起動弁全開」
「ベント弁閉鎖」
「金氏弁閉鎖」
「縦舵機排気弁全開」
「操空塞気弁全開」
「縦舵機発動弁全開」
「安全弁全開」
「燃料中間弁全開」
「潤滑油導水弁全開」
「人力縦舵作動確認」
「海水タンク調節弁閉鎖」
「調圧ロット作動確認」
「調深ロット作動確認」
「特眼鏡作動確認」
「電動縦舵機固定装置解脱」
「電気縦舵作動試験 電動縦舵機ヨシ」
「傾斜計作動試験」
「発進用意ヨシ!」
「ハッチ発動銲(かん)を押し発進」

横田 「何秒だ?」
平田 「1分10秒」
横田 「難しいな・・・。1分以内にできないと、敵艦に命中できない。」
平田 「うん」
横田 「もう一度いくぞ!断じて行えば鬼神も避ける!」
平田 「鬼だって我らの回天には勝てない!」

二人  「電気縦舵機起動」
「起動弁全開」
「ベント弁閉鎖」
「金氏弁閉鎖」
「縦舵機排気弁全開」
「操空塞気弁全開」
「縦舵機発動弁全開」
「安全弁全開」
「燃料中間弁全開」
「潤滑油導水弁全開」
「人力縦舵作動確認」
「海水タンク調節弁閉鎖」
「調圧ロット作動確認」
「調深ロット作動確認」
「特眼鏡作動確認」
「電動縦舵機固定装置解脱」
「電気縦舵作動試験 電動縦舵機ヨシ」
「傾斜計作動試験」
「発信用意ヨシ!」
「ハッチ発動銲(かん)を倒し発信」

横田 「59秒」
平田 「合格だな」
横田 「うん」
平田 「遅れを取ったら敵艦に命中できない。」
横田 「敵艦の土手っ腹に命中させてやる」
平田 「どうせ死ぬなら空母のほうがいいな」
橫田 「敵艦撃沈せり、巨大空母撃沈せり。」
平田 「巨大空母か。」
横田 「うん、回天の炸薬は1トン600キロだ。 間違いなく1万トンクラスの巨大空母も1発で撃沈できる。」
平田 「回天ならできるな。」
横田 「できる。神風特攻隊も零戦に爆弾を積んで命がけの作戦をしている。」
平田 「俺たち回天が神風に遅れをとってはならない。」
横田 「そうだ!それに、軍艦の土手っ腹に命中できるのは回天だけだ。」
横田 「そうだ!回天のほうが零戦より上だ。」
平田 「そうだ!」
横田 「俺の恋人はメリケン空母」
「待ってておくれよ 太平洋で」
「魚雷もろとも 心中ダーイ」
「ハハハハ」
「どうだ、うまいだろう、俺が考えた。」
平田 「・・・・。」
横田 「もう一度いくぞ!(平田が「いよっ」とかけ声をかける。)」
「俺の恋人はメリケン空母」
「待ってておくれよ 太平洋で」
「魚雷もろとも 心中ダーイ」
横田・平田「ハハハハハハ」
(二人で笑いながらふざける。)
(上官を見つけ横田と平田は直立不動で客席を見る。)
(上官は声のみで会話する。)
上官 「横田兵曹」
横田 「はい」
上官 「訓練に励んでいるか」
横田 「はい」
上官 「休憩はゆっくり休んだ方がいいぞ。」
横田 「はい」
上官 「横田五郎兵曹、平田彰兵曹、愛する自分の国家にその尊い生命を捧げることは何よ りも崇高な行いである。なおいっそう訓練に励んで欲しい。」
横田・平田「はい!」
上官 「いま、祖国は一歩も引くことのできない戦況に直面している。形勢を逆転するには もはや、回天しかない。」
上官 「横田五郎兵曹!」
横田 「はい!」
上官 「平田彰兵曹!」
平田 「はい!」
上官 「諸子は神である。諸子の出撃が決まった。7月1日に大津島よりイ四四潜水艦で沖縄に向かう。いまさら言うまでもないが覚悟はできているな。」
横田・平田「(喜びに満ちて)はい!」
上官 「見事、敵艦を撃沈して本懐を遂げて欲しい。」
横田・平田「はい!」
上官 「出撃の前に思い残すことないように、身辺を整理しておきなさい。」
横田・平田「はい!」
上官 「ただし、分かっていると思うが、決して家族に悟られないように。」
横田・平田「はい!」
横田 「いよいよだな。」
平田 「うん」
横田 「やっと来た!やるぞ。」
平田 「おう。」
横田 「(回天に囁くように)頼んだぞ回天、おまえが俺の棺桶だ。おまえと一緒に戦うぞ。」
平田 「横田、おれも一緒だぞ。」
横田 「そうだ、お前も一緒だ・・・平田、最後の休暇だな。」
平田 「・・・うん。」
横田 「帰ったら、回天だ。」
平田 「おう」
(横田・平田が“海ゆかば”を歌う。歌の途中でハッペルベルのカノンが流れる。)
「海ゆかば 水潰く屍」
「山いかば 草むす屍」
「大君の辺にこそ死なめ」
「かえりみはせじ」
横田 「(回天に)待ってろよ回天!」

(カノンが流れる。もんぺ姿の少女たちが明るく歌いながら上手から下手を横切る。)
(少女たちの笑いと歌声)

少女たち「出てこい、ニミッツ、マッカーサー」
「出てくりゃ、地獄へ逆落とし」
※ 「比島決戦の歌 」(作詞 西条八十 作曲 古関裕而)
(少女たちが笑う)

(少女たちが去る。静江が平田を待っている。平田がやって来る。)

平田 「(息をはずませて)待った?」
静江 「ううん。」
平田 「元気?」
静江 「うん」
平田 「おばさんは?」
静江 「元気」
平田 「これ。(タバコを差し出す)寛さんに渡してくれ。」
静江 「いいの?」
平田 「うん。寛さん、帰ってくる。」
静江 「時々、でも、兄さん、今は無理みたい。」
平田 「そうか、これ、君とおばさんに(キャラメルと羊羹を差し出す)」
静江 「なに?」
平田 「キャラメルと羊羹、軍の配給だよ。」
静江 「いいの?」
平田 「うん、いい、まだ沢山ある。」
静江 「ありがとう、どうしたの?」
平田 「(静江の視線を避けて)桜きれいだ。」
静江 「本当、きれい。」
平田 「俺は・・俺は・・。」
静江 「え?」
平田 「桜、きれいだな。」
静江 「うん。」
平田 「俺は・・俺は・・。」
静江 「(期待して)なに?」
平田 「お前とキャラメルが食べたい。」
静江 「食べよう。」
平田 「俺は・・俺は・・すっっっ。」
(飛行機の轟音、平田敬礼する)
平田 「紫電改だ」
静江 「これ(人形を差し出す)」
平田 「なに?」
静江 「マスコット」
平田 「ありがとう。」
静江 「それが一番いいできだと思う」
平田 「きれいだ、大切にするよ。」
静江 「いつまで居れるの?」
平田 「明日帰る」
静江 「明日」
平田 「うん・・・。」
静江 「次はいつ来るの?」
平田 「(自分を奮い立たせて)また、すぐ来るさ」
静江 「また、来てね!」
平田 「うん、来る!」
静江 「(小指を差し出す)指切りしよう。」
平田 「うん。」
静江 「また、春に桜見よう。」
平田 「うん。」
静江 「仕事行かないと、じゃ、行く。」
平田 「静江!」
静江 「なに?」
平田 「これみて!(お手玉をジャグリングをする。)」
平田 「あげるよ。元気で!」
静江 「うん!彰さんも、元気で。」

(静江が去る、紫電改の轟音、平田が敬礼し退場する。)
(横田の家)

横田 「ただいま。」
母  「お帰り。来ると思っていたよ。」
横田 「さすがだね、母さん。やっぱりかあさんにはかなわないよ。」
母  「そりゃそうさ、御馳走はないけど・・。」
横田 「母さん、こんなにいいの。」
母  「いっぱいお食べ。」
横田 「うん。母さんは食べないの?」
母  「私は、もう食べたから良いの。」
横田 「じゃあ、頂きます。」
母  「食べなさい。毎日、大変かい?」
横田 「順調、順調だよ。母さんは?困ってない。」
母  「困ってないよ。」
横田 「今が大切な時だからね。」
母  「本土、決戦になるのかね。」
横田 「うん、多分、近いうちなると思う。」
母  「兵隊さんはみんな頑張ってるのかい。」
横田 「うん。平田も頑張ってるよ。」
母  「平田さんって、同期の?」
橫田 「うん。あいつがいなかったら、ここまで来れなかったと思う。」
母  「そう。今度、お暇ができたら家に連れてお出でよ。」
横田 「うん、暇ができたらね。」
母  「どうしたの?」
横田 「なにが?」
母  「少ししか食べない。疲れているの?」
横田 「母さん、ぼくも大分大きくなったんだ、そういつまでも大食いじゃないよ。」
母  「そうだね。はい、これ。」
橫田 「これは?」
母  「このお守りを持っている人は、必ず帰ってくるんだよ。若い人が飛行機で敵艦に体当たりして、死んでゆくなんて、本当にもったいないことだね。必死でなくても勝てる方法がないものかね。」
横田 「母さん、負けるわけにはいかないんだよ。」
母  「そうだけど。」
横田 「・・・。」
母  「セツさんとのお見合いどうする。」
横田 「今回は取り消すよ。」
母  「美人さんでいい人だよ。」
横田 「取り消し、今は忙しいから。」
母  「いいの。」
横田 「うん、やっぱり、見せて。」
母  「きれいな人だね、おまえにお似合いだよ。」
横田 「そうかなあ。」
母  「そうだよ。お見合いしてみたら。」
横田 「今、みんな、必死で頑張ってるんだ、できないよ。」
母  「・・・。」
横田 「うん。それより、明日、父さんの墓参りしよう。」
母  「そうだね。」
横田 「母さんも一杯飲んで下さい。」
母  「じゃあ、頂くよ。」
(二人は酒を酌み交わす。)
(横田は「浜辺の歌」をハーモニカを吹く。母は酒をうまそうに飲む。母が膳を持って退場。)

(横田がハーモニカを吹いている。)

平田 「うまいな」
橫田 「言ったか?うまくいったか?」
平田 「なにが?」
横田 「静江さんに会ったんだろう?」
平田 「ああ。」
横田 「言ったか?」
平田 「なにを?」
横田 「「静江、好きだ。」って。」
平田 「言えなかった。お前は?」
横田 「おれか?」
平田 「うん。」
横田 「すべて終わった。」
平田 「終わったって、終わったのか・・・。」
横田 「ああ・・・。」
平田 「お前も駄目だったか。貴様はうまくいくと思っていていた・・・。」
横田 「お前はいえないと思っていた。」
平田 「えっつ!」
横田 「すまん、でも言ってどうする。悲しむだけだぜ。」
平田 「そうだな。 でもやっぱ言いたかった・・・」
横田 「女々しいヤツだな。それに俺たちも未練が残る。」
平田 「そうだな。でも言いたかった。」
横田 「女々しいやつだな。じゃあ、言おうぜ。」
平田 「どこで?」
横田 「ここで!海に向かって言おう!」
平田 「おう!」
横田 「俺は好きだああああ、静江!」
平田 「えええええ!!!!」
横田 「どうした?」
平田 「だって今、静江って言った!お前も静江が好きだったのか!」
横田 「バカ、冗談だよ。」
平田 「なんてやつだ・・・。」
横田 「おれは静江が好きだ!」
平田 「ええええっつ!」
横田 「(かまわず)俺はセツが好きだあああ~」
平田 「俺は静江が好きだあああ~」
横田 「好きだあああ!!!」
平田 「好きだあああ!!!」
横田 「セツ!!!!」
平田 「静江!!!」
横田・平田「(遊びで抱き合う。)あああああ」
横田 「きれいな夕陽だ。」
平田 「きれいだ。」
橫田 「静江さんとみたいな。」
平田 「おう。」

(関が登場する。)

関  「いよいよだな。」
横田 「ああ」
関  「俺も後を追う」
横田 「靖国の門の前で待っているぞ。」
関  「それは嬉しい。」
横田 「どうした?最後の将棋か?相手になるぞ。」
関  「申し訳ない。お前達の貴重な時間を使うつもりはない。俺はお前とちょっとだけ話がしたい。」
横田 「別にいいが、平田がいるとまずいか、どうせ俺たちは3日後はイ四四潜水艦に乗っている。」
関  「どうかな。平田は聞かないほうが良いと思う。」
平田 「(明るく)関、一緒に死ぬ思いをした仲じゃないか。聞かせてくれ、そこまで言って聞かないと死んでも死にきれない。俺だけ仲間はずれにするなよ。」
関  「じゃあ言う。俺はこの戦争で日本が勝てないと思う。」
( 間 )
関  「負けると思う。」
平田 「貴様!なにを言う!」
横田 「平田!」
関  「勝てないものは勝てない。」
横田 「俺はそうは思わない。」
関  「そうか、爆弾一つとっても勝てない。」
関  「やつらの放射砲の爆弾は零戦に命中しなくても零戦を撃ち落とせる。」
横田 「どうやって。」
関  「零戦が近づくと爆発するからだ。当たらなくても撃ち落とせる。」
平田 「嘘だ!噂だ!」
関  「俺は本当だと思う。直援機で帰ってきた者が言っていた。それに今や特攻に練習機や旧式の戦闘機まで使われている。」
横田 「俺たちは勝てない日本のために死ぬことになるということか!」
関  「残念ながらそうだ。回天だって零戦と同じじゃないか。波が高ければたった高さ1メートルしかない潜望鏡は波のしぶきで前が見えない、敵艦に当てる確率は針の穴に目をつぶって糸を通すような物じゃないか。」
平田 「貴様何を言う!それでも通すのが俺たちじゃないか!なんのために命がけで練習してきたんだ!(平田が関に襲いかかろうとする。)」
横田 「止めろ!平田!」
平田 「もういい!」
関  「すまん、出発する前のおまえたちの気分を害するつもりはなかった。(帰りかける。)」
横田 「待ってくれ、関。」
関  「なんだ?」
横田 「どうしてお前は回天に乗る。」
関  「俺は回天に志願した。おれは志願してから考えた、どうしておれが回天に志願したかだ。おれは分かった。おれは回天志願するように教育された。回天の志願を断れないように教育されてきたんだ。横田分かるか?」
横田 「・・・。」
関 「国のために死ぬことが当たり前だと教育されてきた。それ以外考えさせないように教育されたんだ。だから俺たちは回天の志願を断るのが卑怯者で臆病者だと思われたくないと思うんだ。」
横田 「・・・。」
関 「俺は納得がいかないで死ぬのは我慢できない。炸薬で歯や目が粉々にふっと飛ぶのが耐えられない。」
横田 「それが戦争だ。(関が少し笑う。)」
横田 「どうして笑う?」
関  「すまん、そう教えられて来たからそう思うんだ。それが戦争だ、それ以外は考えるな。俺は考えに考え、回天で死ぬことに納得した。おれは天皇や国のために断じて死ぬのではない。新しい日本の礎になるために俺は死ぬ。」
横田・平田「・・・・。」
関  「すまん、じゃました。俺は死ぬ前に、どうしてもお前にこのことを聞いてもらいたかった。お前たちを動揺させるつもりはなかった。本当にすまん。武運を祈る。」

(関が去る。)

横田 「大丈夫か?」
平田 「何が?」
横田 「関の言ったこと。」
平田 「俺たちが教育に騙されたことか。」
横田 「ああ。」
平田 「どうして俺たちを教育が騙すことになるのか。横田、分かるか?俺には分からない。」
横田 「俺にも分からない。」
平田 「それより俺の回天が敵艦に命中できないのが俺は怖い。それに俺は・・・。死ぬのが怖くなってきた。炸薬が破裂した瞬間、俺の体は粉々に吹っ飛ぶ。覚悟の上だが俺は怖い。横田は怖くないのか。」
横田 「怖くないわけないじゃないか。」
平田 「そうか。」
横田 「そうさ。怖くて眠れなくなる時がある。この世から俺が消えてしまうのが怖い。」
平田 「お前もか?俺はどうしても震えが止まらなくなる時がある。」
横田 「頭では分かっていても、体が震える。痛い思いをするのは、この体だ。」
平田 「逃げたくなるときがある。」
横田 「俺だってある、でも、皆、耐えている。「野菊咲くわが日の本をいでたちて 我は征き征く 南の果てに」」
平田 「柿崎中尉の歌か?」
横田 「ああ、天武隊で亡くなった柿崎中尉だ。俺たちも同じだ。この日本を護るために俺たちは死ぬ。」
平田 「そうだな。」
横田 「そうだ平田、死ぬときは一緒だ。」
平田 「おう、そうだ!死ぬときはお前と一緒だ!」
横田 「行くぞ!平田!」
平田 「おう。」
横田・平田「俺の恋人はメリケン空母」
「待ってておくれよ 太平洋で」
「魚雷もろとも 心中ダーイ」
「ハハハハ」

(二人の笑い走り回り消える。カノンが流れる。やがて、一人、横田が必死に軍刀を振りまわし叫ぶ。2隻の回天が静かに登場する。)
(音楽がカノンから小室等作曲「ジャガーの目」のテーマ曲が流れる。)

(七生報国の鉢巻きした横田が登場して正面を見て敬礼して)
横田 「お世話になりました!行って参ります!
(七生報国の鉢巻きした平田が登場して正面を見て敬礼して)
平田 「お世話に鳴りました!行って参ります!
(二人は回天に乗り込む。)
横田・平田「電気縦舵機起動」
「起動弁全開」
「ベント弁閉鎖」
「金氏弁閉鎖」
「縦舵機排気弁全開」
「操空塞気弁全開」
「縦舵機発動弁全開」
「安全弁全開」
「燃料中間弁全開」
「潤滑油導水弁全開」
「人力縦舵作動確認」
「海水タンク調節弁閉鎖」
「調圧ロット作動確認」
「調深ロット作動確認」
「特眼鏡作動確認」
「電動縦舵機固定装置解脱」
「電気縦舵作動試験 電動縦舵機ヨシ」
「傾斜計作動試験」
「発進用意ヨシ!」
横田 「ハッチ発動銲(かん)を押し、発進!」
平田 「ハッチ発動銲(かん)を押し発進!ハッチ発動銲(かん)を押し発進!ハッチ発動銲(かん)を押し発進!動け!動けえええ!(平田の回天が動かない。)」

(横田の回天が静かにエンジン音とともに突撃する。平田の回天が動かない)

平田  「ハッチ発動銲(かん)を押し発進!ハッチ発動銲(かん)を押し発進!動け!動け!」
平田 「横田あああ!」

(横田の回天が動き,横田が潜望鏡を回し突撃する。横田の回天が下手に消えて行く。)

平田 「横田あああああ」
(平田の回天が、ゆっくり上手に消えて行く。)

(老人の平田が泣いている。軍服を着た18歳の横田やって来る。)

横田 「平田。」
祖父 「横田・・?」
横田 「ああ、元気か?」
祖父 「ああ」
横田 「あれやるぞ。」
祖父 「あれ?」
横田 「ああ、あれだ。じゃあ、いくぞ!」
横田 「「おれの恋人は、メリケン空母。待ってておくれよ・・・」どうした?」
祖父 「すまん、できない。躰が動かない。」
横田 「そうか、じゃああれやるぞ。」
祖父 「あれ?」
横田 「うん、あれだ。お前と良く一緒にやっったよな。」
横田 「「電気縦舵機起動、起動弁全開・・」どうした? 」
祖父 「すまん、できない。お前が薄れていく。お前が思い出せなくなる。」
横田 「さみしいこと言うな、平田。俺を忘れるなよ」
祖父 「ああ、ああ、分かった・・・。お前を絶対に忘れない。」
横田 「気にするな、平田。またな。・・じゃあな!(横田が消える。)」
平田 「横田!横田!橫田ああああああ!」
(音楽が流れる。)
橫田 「俺の恋人はメリケン空母」
「待ってておくれよ 太平洋で」
「魚雷もろとも 心中ダーイ」
「ハハハハハ」

(横田が退場する。)
(少女たちが笑いながら歌いながら上手から登場する。)

少女たち(少女たちが客席に向かって零戦のように大きく両手を広げ、敵艦に突撃するように)
「出てこいニミッツ、マッカーサー」
「出てくりゃ、地獄へ阪落としいいいい、ぶううううううんん。」

(爆弾が落ちる音)
(カノンとクロスして鳥の声)
(優と父が現れ庭の椅子に座る。)

優  「天気いいね。」
父  「そうだな、満開だ。」
優  「おじいちゃん、今日、行くんだね。」
父  「じいさんとおばあちゃんを引き離したくないが、おばあちゃんはもう限界だ。じいさんには本当にすまない。」
優  「仕方ないよ。病気だからね。おばあちゃんは納得している?」
父  「うん、納得している。もうじき、じいさんは私たちのことが分からなくなる。」
優  「回天も忘れるのかなあ。」
父  「かもしれない。」
優  「回天についていろいろ調べたよ。」
父  「そうか、受験勉強しないで図書館で回天を調べていたか。」
優  「ごめん、父さん。」
父  「いいよ。受験勉強だけが勉強じゃないからね。」
優  「どうしたの、とうさん?」
父  「おまえのことを心配しているんだ。戦争になると、おまえのような人のいい若者や貧しい若者が犠牲になる。」
優  「おじいちゃんの時代ってどんな時代だったんだろう。僕と同じ歳に回天で出撃したんだよね。」
父  「うん、苦労したろうなあ、死ぬのが当たりまえの時代だ。」
優  「そのおじいちゃんが施設にいく。」
父  「多分、二度と、ここには戻れない気がする。」
優  「おじいちゃん行くかなあ。」
父  (決心してきっぱりと)騙して連れていく。そういえば、とうさんが小さい時、じいさんがテレビに向かって、「おれはこいつに騙された」って叫んでいたことがあったな。」
優  「こいつって誰?」
父  「誰なのか思い出せない。」
優  「騙されて回天に乗ったってこと?」
父  「そうだな。」
優  「おじいちゃんみたいに騙された人がいたのかなあ。」
父  「多分、いたろうなあ。たくさんの青年達が特攻や南方へ出兵して死んだからね。」
憂  「父さん、ゴジラって知ってる? 」
父  「ゴジラ?どうしだんだ、藪から棒に。」
優  「ゴジラって、結構、深いんだ。」
父  「深い・・フラれたゴジラか?フッたのはだれだっけ?」
優  「とうさん、やめてくれよ。」
父  「そうか、すまん。ゴジラはゴリラのゴとクジラのジラを取ってゴジラってつけたんだ。だからゴジラはクジラとゴリラの間の子だ」
優  「違うんだよ。」
父  「父さんはゴジラがシェーしたのを見たことがあるぞ。」
優  「シェーって?」
父  「シェーだよ、こうやるんだ。シェー!」
優  「似合うね、父さん。」
父  「(喜んで)そうか、父さん、これよくしたよ。」
優  「ゴジラがそんなことするんだ。」
父  「思い出した!ジャンプしながらシェーするのもあった。こうするんだ、シェー、シェー、おまえもやらないか、おもしろいぞ!(父と何度かシェーする。)」
優  「とうさん、ボクはマジメだよ。」
父  「父さんもマジメだよ。父さん、子供の頃、これよくしたんだよ。」
優  「多分、父さんのゴジラは堕落したゴジラだ。」
父  「堕落したゴジラ?じゃあ、おまえのゴジラはなんだ。」
優  「本当のゴジラだよ。」
父  「本当のゴジラ?本当のゴジラってなんだ?」
優  「南方で見捨てられ、飢え死にした10万人の日本兵の怨念なんだよ。」
父  「怨念?」
優  「うん、怨念。」
父  「怨念って恨みだぞ。」
優  「死んだ日本兵が自分らを見捨てた日本を恨んでゴジラになってやって来る。だから、ゴジラはハワイやオーストラリアに目もくれないで、日本めざしてやって来る。おじいちゃんを見ていると本当のような気がしてきた。」
父  「よく調べたな。ゴジラも時代とともに堕落して行くんだ。平和な時代のゴジラはシェーするんだ。」
優  「平和なゴジラは、とうさんみたいに少し滑稽だね。」
父  「とうさん、ちょっと傷ついたな。ゴジラが日本兵か・・・。」
優  「ゴジラも認知症なったんだね。」
父  「そうだな・・・騙していいぞ。」
優  「えっ?」
父  「とうさんがじいさんのようになったら騙して連れて行っていいぞ。」

(母とカナが登場)

父  「じいさんは?」
母  「準備している。」
優  「行くの?」
母  「散歩かもしれないけど。」
カナ 「みんなで病院まで行こう。」
父  「そうだな。おばあちゃんは?」
母  「家に残るって。」
父  「そうか、残るか。」

(祖父が現れる。)

父  「じいさん・・・。」
祖父 「天気いい。」
父  「そうだね。」
祖父 「アツシのところに行く。」
父  「そうだね、行こう、アツシさんのところ。アツシさんのところ遠いよ。」
祖父 「そうか遠いか。」
父  「うん、遠い。歩いていけないよ。」
祖父 「アツシのところに行く。」
( 間 )
父  「じいさん、タクシー呼んでもいい、じいさん。」
祖父 「ああ、いい。アツシのところに行く。」
父  「おばあちゃん、呼んできて。」
母  「はい。」
父  「じいさん、今日は家の桜も満開だよ。じっくり見よう。」
祖父 「そうか、きれいだ。」
優  「おじいちゃん、回天、覚えてる? おじいちゃん、橫田さん、覚えてる?」
祖父 「回天・・・? 橫田・・・?」
優  「うん、橫田・・・。」
祖父 「橫田・・。」
祖母 「おとうさん、体に気を付けてね。」
祖父 「おまえは行かないのか?」
祖母 「私はここであなたを待ってます。」
祖父 「待っていてくれるか。」
祖母 「あなたの帰りをみんな待ってますよ。」
祖父 「わかった、行ってくる。」

(紫電改の轟音が響く。)

祖父 「電気縦舵機起動」
「起動弁全開」
「ベント弁閉鎖」
「金氏弁閉鎖」
「縦舵機排気弁全開」
「操空塞気弁全開」
「縦舵機発動弁全開」
「安全弁全開」
「燃料中間弁全開」
「潤滑油導水弁全開」
「人力縦舵作動確認」
「海水タンク調節弁閉鎖」
「調圧ロット作動確認」
「調深ロット作動確認」
「特眼鏡作動確認」
「電動縦舵機固定装置解脱」
「電気縦舵作動試験 電動縦舵機ヨシ」
「傾斜計作動試験」
「発進用意ヨシ!」
「ハッチ発動銲(かん)を押し発進!」

(途中で、小室等作曲「ジャガーの眼」のテーマ曲が流れ橫田と過ごした時間が流れて行く。)

祖父 「お世話になりました。行って参ります。」

(参考文献)

柿崎 実 中尉・海兵72期
天武隊 昭和20年5月2日 発進 沖縄
遺詠  「野菊咲くわが日の本をいでたちて我は征き征く南の果てに」
回天搭乗員 矢崎少尉の唄
俺の恋人はメリケン空母
待ってておくれよ 太平洋で
魚雷もろとも 心中ダーイ
関と平田の会話は横田寛「ああ回天特攻隊」(光人社文庫)の第9章 この海のつづくところ「新しき祖国を夢見て」を参考に作りました。
横田寛 「ああ回天特攻隊」 光人社文庫
小島光造「回天特攻」光人社文庫
武田五郎「回天特攻学徒隊」光人社文庫
渡辺大助「特攻 絶望の海に出撃せよ」光人社文庫
片山利子「回天 菊水の流れを慕う若者たち」展転社
小渕利明「特攻回天戦」光人社文庫
島尾敏雄「魚雷艇学生」新潮文庫

NHKドキメンタリー
「青春 人間魚雷」
「特攻:城山三郎」

映画
「ああ人間魚雷回天」
「出口のない海」
「日輪の遺産」(映画の中で主人公がマッカサーの車の前に両手を広げで「比島決戦の歌」(作詞 西条八十 作曲 古関裕而)を歌い「出てこいニミッツ、マッカサー」と歌うシーンがあります。そのシーンをヒントに少女たちが両手を広げ零戦になるシーンを思いつきました。)

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