創作脚本

好きにならずにはいられない

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創作脚本

2013夏 全国大会出場作品 宮城県名取北高等学校

「好きにならずにはいられない」

作:安保健+名取北高演劇部

登場人物

アキ
今野君(タマ)
幸(アキの妹)


コロスたち

〈 初夏の午後の屋上 〉
〈 今野、トボトボ登場 〉

今野 「バカやろう(弱々しく)」
今野 「バカやろう、、、。」
今野 「バカやろう、、、、。」
今野 「言えないなあ、、、言えないなあ、、、言えないなあ、、、(弱々しく)」
今野 「あほんだら(弱々しく)」
今野 「あほんだら、、、。」
今野 「あほんだら、、、、。」
今野 「言えないなあ(情けなく)」
今野 「ああ~、、、ああ~、、、ああ~、、、。」
今野 「言えないなあ(情けなく)」
今野 「暴力反対、、、暴力反対、、、暴力反対、、、ああ~言えないなあ、、、言えないなあ、、、(弱々しく、何処までも情けなく)」
今野 「はぁ~ やっぱりできない。。。(何処までも情けなく)」
今野 「はぁ~はぁ~・・・はぁ~(弱々しく、何処までも情けなく)」

〈 アキが「好きにならずにはいられない」を歌いながら出てくる下手から登場し上下を行ったり来たりする。妹の唯一残った形見の服を着ている。 〉

アキ 「結婚して。」
今野 「!」
アキ 「結婚して。」
今野 「。。。。。。。」
アキ 「結婚して!」
今野 「。。。。。。。」
アキ 「結婚して!」
今野 「。。。。。。。。。」
アキ 「結婚して!」
今野 「えっ!僕?」
アキ 「だから、とても素敵な人のような気がして。」
今野 「ううそだ!」
アキ 「どうして?」
今野 「僕なんか身長161センチだし・・。」
アキ 「うそだ~!」
今野 「156センチ・・・。」
アキ 「うっそだ~!」
今野 「148センチだけど・・・。」
アキ 「素敵!私、149センチ!私のほうが1センチ上ね!」
今野 「ドキッ!なんかそれとっても傷つく!」
アキ 「ナイスカップルね。」
今野 「会ってまだ1分40秒しかたってないよ。」
アキ 「愛は長さじゃない!」
今野 「長さじゃない?」
アキ 「そう、何年も付き合ってもお互いに理解できない場合もある。私たちのように一瞬で分かりあえる場合もある。うんうん。」
今野 「わたしたち?」
アキ 「うん、私たちのように。」
今野 「うそだ!」
アキ 「なにが?」
今野 「(いじけて)僕をバカにしているんだ!」
アキ 「ちょっと君、前向きになりなさい!おかしいよ!」
今野 「君こそおかしいよ。」
アキ 「なにが?」
今野 「だって、僕たち会って2分30秒しかたっていないよ。」
アキ 「せこ!なにが2分30秒よ!だから愛は長さじゃないって。Do you understand?」
今野 「エッ、、、。」
アキ 「わがらないの?」
今野 「エッ、、。」
アキ 「こんなに私がたのんでるのに、わからないの?I’ll kill you!バッキュ~ン!」
今野 「だって僕たち他人だよ」
アキ 「ひどい!」
今野 「エッ?」
アキ 「何が他人よ!」
今野 「だって僕、君のこと全然、知らないよ。」
アキ 「知ってるくせに。」
今野 「えっ?」
アキ 「この私の美貌、私の美しさ。忘れたの?」
今野 「えっ??」
アキ 「あんた、金魚ねぶた知ってる?私は金魚のように美しいのよ。」
今野 「金魚?」
アキ 「そう、金魚、デメキン!」
今野 「デメキン??」
アキ 「デメキン知らないの?私のように目がおっきいんだから!」
今野 「お、おっきい!」
アキ 「あんたの目の五倍くらいはあるんだから。」
今野 「え!」
アキ 「きっと素晴らしい子が生まれるわよ。」
今野 「えっ、僕たち、まだ子どもだよ。」
アキ 「何言ってるの、女は16才になれば結婚できるんだから。」
今野 「君、いくつ?」
アキ 「28。」
今野 「えっ!」
アキ 「嘘!16。」
今野 「僕と同じだ。」
アキ 「16は大人よ。私のおばあちゃんなんか14才で結婚したんだから。」
今野 「うそだ !14才で結婚できない。」
アキ 「何言ってるの、できるんだから。無理矢理結婚させられたのよ。」
今野 「そんなら、離婚すればイイじゃないか。」
アキ 「あんた知らないの?第二次世界大戦前の日本の女は夫がイイと言わない限り離婚できなかったの。」
今野 「嘘だ。」
アキ 「法律で決まっていたんだから。男はずるいよね、自分の都合のいいように法律を作るんだから。女は弱いと思ってるんだから。あんたの負けね、私と結婚しなさい!」
今野 「僕が148センチで弱いと思って結婚させ奴隷にしようと思っている。ライオンのオスみたに、自分は何もしないで僕を働かせようとしているんだ。」
アキ 「素敵!ライオンのオス!(うっとりする)タマちゃん、ライオンのオスって素敵ね。」
今野 「タマちゃん?だれ!」
アキ 「あんたでしょ、たまちゃん。」
今野 「えっ僕?」
アキ 「決まってるじゃない。」
今野 「どうして僕がタマなんだ。」
アキ 「チャリンチャリン付けると似合うよ、タマちゃん♪」
今野 「チャリンチャリン?」
アキ 「チャリンチャリン、鈴だよ。」
今野 「鈴?僕ドラえもん?なんで僕鈴付けるの?」
アキ 「だって、タマちゃん、ライオンなんだから。」
今野 「ライオンは首に鈴なんか付けないよ。」
アキ 「猫ってライオンの仲間でしょ。」
今野 「僕、猫じゃない。」
アキ 「じゃあ、ライオン?」
今野 「えっつ、僕ライオン? 好きだけど・・・・。」
アキ 「どこが好きなの?」
今野 「(デレデレして)耳とか、鼻とか、あのプニプニの肉球!」
アキ 「フンッ!やっぱり猫好きなんじゃない。あんたの負けね、だから私と結婚しなさい!」
今野 「そんな、むちゃくちゃだよ、、、、、、あああああ~わかった!君は結婚詐欺だ!僕がここから飛び降りようとしているの見て、保険金を一杯掛けて、僕を追い詰めて自殺させてお金をガッポリ得ようとしているんだ!と、と、と、とにかく、君、さっきI will kill youって言ったじゃない。僕を殺すって言ったじゃないか!」
アキ 「違うよ、killじゃなくってcoolだよ。I will cool youって言ったんだよ。」
今野 「、、、なんだよそれ!coolってなんだよ。」
アキ 「cool 落ちついてって意味だよ。タマちゃんが私の愛の告白に興奮してたんでタマちゃんの心を私が落ち着かせよって思って。」
今野 「嘘だ!僕にバッキュ-ンしたじゃない。」
アキ 「君のハートにバッキュン、恋いのバッキュン、愛のバッキューン!」
今野 「、、、、、、、。」
アキ 「フンッ!あんたの負けね、だから私と結婚しなさい!」
今野 「勝ち負けじゃないよ、結婚は!」
アキ 「なに言ってるの結婚は生活なのよ。生きて行くことは自分と戦うことなのよ。愛は耐えることだよ。我慢して私と結婚しなさい。」
今野 「めちゃくちゃだよ!」
アキ 「Love is patience知ってる?」
今野 「えっ?」
アキ 「Love is patience愛は耐えること、聖書の言葉だよ。」
今野 「聖書?」
アキ 「聖書も知らないの!フン、あんたの負けね、だから私と結婚しなさい!これは神様のお言葉です。」
今野 「そ、そんなアー、神様なんて嘘だ~。」
アキ 「神様は私たちを祝福してます。」
今野 「無理だよ。」
アキ 「なにが無理なのよ、私たちが幸せになることがどうしていけないの?」
今野 「自分だけが幸せなだけじゃないか。」
アキ 「あんたは相当のエ・ゴ・イ・ス・トね、自分のことしか考えていない。」
今野 「君だって自分のことだけしか考えていない。ひどいよ、僕は君に何もしていない。どうしてこんなに僕をいじめるの?」
アキ 「走ろう!」
今野 「え?」
アキ 「走ろう!追いかけて来るから走ろう!」
今野 「だれが?」
アキ 「見て!私たちの結婚に反対する人たちが追いかけてくる。逃げよ!タマちゃん!」
今野 「何これ!」
アキ 「駆け落ち!」

〈 アキと今野が逃げる。コロスがアキと今野を追いかける。ステージをグルグル回る。コロスが「ドコドコドコ」と言いながら二人を捜す。やがて今野は一人で逃げる。〉

ポール・アンカの「Crazy Love」が流れる。

〈 海の近くの公園、アキと幸がいる。〉

突然、曲が止まる。

アキ 「また、動かなくなったね。」
幸  「(CDプレーヤーを見ながら) うん。」
アキ 「曲が強烈だからね。」
幸  「うん」
アキ 「もう、換え時だね。」
幸  「まだ、使えるよ。」
アキ 「いつ、買ったんだっけ?」
幸  「6年前だよ。」
アキ 「もうそんなになる。」
幸  「うん、こっちに来てから買ったんだよ。」
アキ 「そうだっけ。もう6年も経つんだ。」
幸  「うん。」
アキ 「思い出した!幸の誕生日に買ったんだ!」
幸  「そうだよ。」
アキ 「新しいの買いなよ、幸。」
幸  「気にいってんだ、これ。」
アキ 「幸はえらい、古い物を大切にする。思いやりがある。」
幸  「・・・迷惑じゃないかなあ・・・。姉ちゃん。」
アキ 「なにが?」
幸  「相手が。」
アキ 「相手?」
幸  「うん、だって、この歌Crazy loveでしょ。」
アキ 「大丈夫、大丈夫、男は少しいじめたくらいがいい。男はすぐ調子に乗ってくる。コノヤロ!ふざけんな!調子乗ってじゃねえよ!バーカ!バッシ!バッシ!バッシ!バッシ!バッシ!バッシ!バッシ!バッシ!すっきりさわやか!すっきりさわやか!すっきりさわやか!すっきりさわやか!パチッ!あっ、蚊!オスだ。」
幸  「姉ちゃんホント男嫌いね。」
アキ 「男であろうが、女であろうが、蚊であろうが、恋した者が勝ち!恋は戦いなの!勝か、負けるか、弱肉強食の戦い!愛の奴隷になるか!愛の女王になるか!女が男の後ろ付いて歩く時代はもうとっくに終わった!とにか最後はワ・タ・シ・ 勝つ!ハハハハハハハハハハハガルガルガル。」
アキ 「(自分に戻って)シュウ~ハ~。」
幸  「どうして?」
アキ 「私は何度も裏切られた。」
幸  「何度もって?」
アキ 「21回。」
幸  「えっ?」
アキ 「21回。」
幸  「21回って21人?」
アキ 「正確には22人かもしれない。」
幸  「姉ちゃん、苦労したんだね。」
アキ 「幸、特にカッコいい男は要注意だよ。」
幸  「どうして?」
アキ 「カッコいい男はみんなからチヤホヤされる。だから自分が偉いと思っている。したがって、ワガママで性格が悪い。とにかく、男は信用できない。」
幸  「でも、いい人もいるよ。」
アキ 「私は、そう思わない。あっ!(蚊を潰す)また、オスだ。」
幸  「どうして、オスだってわかるの?」
アキ 「オスは血を吸わないから潰しても赤くない。幸、潰すんだったら、オスの蚊だよ。」
幸  「生き物、殺しちゃいけないよ。」
アキ 「幸はやさしいね。幸といると傷ついた私の心は癒えて行く。」
幸  「傷ついた心?」
アキ 「うん、男に傷つけられた心が癒えていく。ユウタに二股かけられ私は傷ついた。キョウヘイには三股をかけられ私は傷ついた。ケンスケには私が心を込めて作った手作り弁当を私のダイッキライなワタナベリョウに食わせ、君の弁当、うまかったよって平気で嘘をいわれ私は傷ついた。(天に向かって)バキューン!」

〈 ポール・サイモンの「恋人と別れる50の方法」が流れる。〉
〈 妹とアキが退場 〉
〈 段ボールの大きな箱がオロオロやって来る。止まったり動いたりする。〉
〈 段ボールに今野が入ってる。後からアキがやってくる。〉

アキ 「なにやってるのタマちゃん。」
今野 「うあああああ、、、ニャンニャン・・・。」
アキ 「逃げるな、タマ!」
今野 「あおえかめんじゃらくにぺほ、、、、ワンワン・・・。」
アキ 「どうしたのタマちゃん。」
今野 「違うよ、、、。」
アキ 「じゃあ誰?やっぱり、タマちゃんだ~。」
今野 「違うよ、僕、タマじゃないよ。」
アキ 「どうして、タマちゃんじゃないの?」
今野 「だって、僕、箱だよ、猫じゃないよ。」
アキ 「ばれたね、タマちゃん。」
今野 「えっ?」
アキ 「どうしてタマが猫だってわかったの!」
今野 「ああああああ、、、。」

〈 箱を剥がす 〉

アキ 「たーまちゃん、あんたの負けね。」
今野 「そんなあ、めちゃくちゃだよ。どうして僕にこんなにきつく当たるんだ。」
アキ 「あんたは私と結婚する運命なの逃げたら地獄よ。ふん、男ってホント勝手ね。きちんと男らしく責任取りなさい。愛が憎しみに変わると怖いのよ。女の愛の執念は海より深く、空より高い。陰湿で、暴力的で、カマキリの母ちゃんなんか、父ちゃんを食べうんだから。もう、逃げられないんだから、うふふふふ、Do you understand?」
今野 「そんなあ、、、、怖いよう。」
アキ 「今回だけは、あんたの裏切りを許してあげる。でも、次は許さない。信じてる私は許さない。がんばれ~。」
今野 「裏切りって、なんだよ。」
アキ 「あんたは、私から逃げた。ひどい、ばあちゃんが言っていた、男は土壇場で裏切るって。じいちゃんは戦争の時、上官に置いてきぼりにされたって。命からがら逃げてきたって。私はあんたに置いてきぼりされた。」
今野 「そんな、オーバーだよ。君が無理やり結婚させようとしているだけじゃないか。僕が君を置いてきぼりにして逃げたって、戦争じゃないんだよ。」
アキ 「あんたは女心っていうのが、まるで判っていない。これは戦争。」
今野 「戦争?女心?」
アキ 「女は繊細で、弱いのよ!」
今野 「うそだ!君は強い!少なくとも僕より1センチ高いし、僕より強い!」
アキ 「私は、あんたに愛の告白してから一週間あんたのことを考えて寝ていないのよ。」
今野 「嘘だ!一週間寝ていなかったら人間じゃない、科学的に生きていけない。Do you understand?」
アキ 「最低、男は科学的だとか言って、へ理屈をこねまわす。タマちゃんだけは他の男と違うと思ったのに。最低!Do you understand?」
今野 「 、、、、。」
アキ 「わたしは、ここで、一週間、雨の日も風の日もずっとあなたを待ってたのよ。あなたは、このわたしのケナゲな乙女心を弄んで踏みにじったのよ。がんばれー。」
今野 「うううう、嘘だ!絶対に嘘だ!」
アキ 「どうして!」
今野 「だって、ここ一週間、ずっと晴れていた。雨なんか一日も降ってない!」
アキ 「だから男は最低!」
今野 「えええっつ!嘘は嘘だ!雨なんか降ってない!」
アキ 「降ってた!一週間、ずっと降ってた!」
今野 「嘘だ!降ってない!」
アキ 「私の心は一日も晴れることなく土砂降りだった。あんたに逃げられ、あんた裏切られ、みんなにバカにされ、わたしの心はザアザアザアザアザアザアザアザア (コロスの集団が竜巻のように走り回る。) 激しい雨が降ってたのよ!」
今野 「ああああああああ!(情けなく倒れる。)」

〈 激しい雨の音、雷 〉

アキ 「ふん、あんたの負けね、だから私と結婚しなさい!」
今野 「でもでもでも・・。」
アキ 「でも、なに!」
今野 「ううう・・嘘だ!」
アキ 「なにが?」
今野 「だって、ボク、女の子に好きだって言われたことない・・・。みんなボクのことバカにする。みんな、ボクのことキューピーってバカにする。」
アキ 「素敵!わたしのあだ名はマヨネーズ!」
今野 「嘘だ!マヨネーズって言われて喜ぶ人なんかいない!」
アキ 「君、もっと前向きにものを考えなさい。人生は前向きな方が生きていて楽しいのよ。キューピーって言われてうれしいと思えばいい。「私はキューピーちゃん大好きだよ!キュウピーちゃん、素敵!キュウピーちゃんのようなな子どもが欲しい!キュウピーマヨネー!!」って言えばいい。」
今野 「バカにするんだ!」
アキ 「あんたは、あたしの気持ちがまるで分かっていない!私はあんたを受け入れようとしている!あんたは私のこの献身的な愛がまるで分かっていない!」
今野 「君こそ全然、分かっていない!ボクがどんなに辛い思いしたか君は全然分かっていない!ボクがこの16年かどんなに辛い思いをしていたか君は全然分かっていない!」
アキ 「(間) 知ってるよタマちゃん、タマちゃんが学校に行けなくなったこと。」
今野 「えっつ!ボクが学校に行けなかったこと・・・。」
アキ 「タマちゃんがキューピーキューピーってバカにされていたこと知っていたよ。タマちゃんが毎日いじめられて苦しんでいたこと知っていたよ。」

〈 今野の退場とクロスして、母がエルビス・プレスリーの「I can’t  help falling love with you」をハーモノカで吹きながら幸と一緒にやってくる。 〉

幸  「お母さん、うまくいったね。」
母  「父さんの大好きな曲だからね。」
幸  「お母さん、父さん好き?」
母  「(少し照れて)今でもフォーリン・ラブでしょ。」

( 母がハーモニカを吹きながら退場。夕焼けの公園。)

幸  「ねーちゃん」
アキ 「なに?」
幸  「直ったよ。」
アキ 「うん。」
幸  「どうしたの姉ちゃん?」
アキ 「なにが?」
幸  「今日の曲。」
アキ 「今日の曲?」
幸  「うん、ねえちゃんと会わない気がする?」
アキ 「そうかなあ?」
幸  「でも、いい曲だね。」
アキ 「うん、I can’t help falling in love with you!」
幸  「どういう意味なのねえちゃん?」
アキ 「好きにならずにはいられない。」
幸  「好きにならずにはいられない?」
アキ 「うん。」
幸  「好きになるって・・・。
アキ 「なに?」
幸  「自然に好きな人に引きつけられるだよね、きっと、だから、好きにならずにいられないんだよ。」
アキ 「そうなんだ・・・。」
幸  「そうだよ。姉ちゃん?」
アキ 「え?」
幸  「どうしたの、姉ちゃん?」
アキ 「幸、好きな人いる?」
幸  「いるよ、姉ちゃん。」
アキ 「ホントに?」
幸  「うん。」
アキ 「誰!」
幸  「秘密だよ、ねえちゃん。」
アキ 「どうして?」
幸  「姉ちゃんに言うとだめになりそうな気がする。」
アキ 「それは言えるかも。でも、幸、気をつけなよ。」
幸  「気を付ける?」
アキ 「オ・ト・コ。」
幸  「大丈夫だよ。」
アキ 「カッコいい。」
幸  「まあまあだよ。」
アキ 「それはいい。」
幸  「カッコいいと性格悪いんだよね。」
アキ 「何点くらい?」
幸  「なにが?」
アキ 「幸の好きな人の点数。」
幸  「100点じゃないけど・・・。」
アキ 「男は65点くらいがいいよ、幸。」
幸  「姉ちゃん、現実的だね。」
アキ 「うん。」
幸  「85点くらい。」
アキ 「ちょっと、高すぎだね。別れた方が良いかも。」
幸  「でも、優しくていい人だよ。正直で姉ちゃんの付き合ってた人みたいに嘘つかないよ。」
アキ 「・・・じゃあ、いいかも。」
幸  「姉ちゃんは?」
アキ 「好きな人?」
幸  「うん。」
アキ 「今はいない。」
幸  「できるよ、きっと。」
アキ 「うん、必ずできるよ、幸。この広い世界に私のことを思い続ける人が必ず一人はいる。私はその愛する人の腕の中、静かに見守られ、息を引き取る。そして私は天国に旅立つ前に自分の人生を振り返って言う。100点!と。」
幸  「ワァ、カッコイイ!」
アキ 「ウダベー!」
幸  「うん。」
アキ 「22回フラれると、いろいろ知識が増えるんだよ!」
幸  「フラれていいことがあるんだね!」
アキ 「いっぱいあるよ。幸、10回はフラれるといいよ。」
幸  「10回も。」
アキ 「うん、人間が深まっていく。はじめはボロボロでも、だんだん快感になっていく。」
幸  「快感?」
アキ 「なんか生きているって感じがする。」
幸  「人を好きになるっていいだね。」
アキ 「うん、いいね。」
幸  「海、きれいだね。」
アキ 「うん、きれいだね。恋人とこの海見たいね。」
幸  「うん、姉ちゃん、今日は少しロマンチックだね。」
アキ 「私はいつもロマンチック。」
幸  「でも、姉ちゃん、65点の人と海を見るの?」
アキ 「うん」
幸  「90点くらいのカッコいい人のほうがいいんじゃない?」
アキ 「それはダメ!欲ばっちゃダメ。65点で手を打ったほうがいい。」
幸  「そうなんだ。」
アキ 「90点以上だと次回はない。65点だと安心できる。」
幸  「奥が深いんだね。」
アキ 「うん、深いよ。後はタイミングだね。」
幸  「タイミング?姉ちゃんの言ってること奥が深すぎて私にはわからない。」
アキ 「わからない方がいいかも。」
幸  「うん。」
アキ 「幸、85点は結構いるけど65点はなかなかいないんだよ。65点はあまりもてないけど苦労していて相手の気持ちや悲しさがわかるんだよ。」
幸  「そうなんだ。」
アキ 「うん、いい人が多いんだよ。」
幸  「姉ちゃんの聞いていると私の好きな人65点かもしれない。」
アキ 「本当?だれ?だれ?だれ?」
幸  「秘密だよ。」
アキ 「私の好きな人はエルビス。」
幸  「誰?」
アキ 「エルビス・プレスリー」
幸  「有名?」
アキ 「うん、ちょっと古いけど、アメリカのスーパースター!ほら!声もいいけど、ルックスは100点。性格は分からないけど、多分、悪いと思う。だから私の好きなのはレデー・ガッ 〈 レデー・ガガが下手から上手に走る。〉レデー・ガガガーーー」
アキ 「父さんの好きなのはビリージョエルかも! 」

〈 ビリージョエルのアップタウン・ガールが流れる。コロスたちが踊って行進する。 〉
〈 たまが突然、土下座している。 〉

アキ 「控え控え!(代官のように)」
今野 「ハハ~ア。」
アキ 「どうしたのタマちゃん?」
今野 「お願いがあります。」
アキ 「お願い?」
今野 「はい」
アキ 「私に?」
今野 「はい」
アキ 「タマちゃん、どうしたの、あらまって。なに、お願いって?」
今野 「それが・・・」
アキ 「それが、なに?」
今野 「言いずらいのですが?」
アキ 「イイよ、タマちゃん。」
今野 「いいんですか、言って?決して愉快なことでないですよ。」
アキ 「いいよ。タマちゃん、男でしょ、思い切って言いなよ。」
今野 「でも、男は嫌いみたいですから・・・。」
アキ 「たまちゃんは別よ。だって、ケ・ッ・コ・ンする人ですから。」
今野 「ますます言いずらい・・・。」
アキ 「いいから言って、男でしょ!」
今野 「ハ、ハ、ハ、ハイ・・・ボ・ボ・ボクにつきまとうのは止めてください!」
アキ 「分かったわ。」
今野 「えっつ?」
アキ 「私の愛は寛大なの。」
今野 「・・・。」
アキ 「どうしたのタマちゃん?」
今野 「だって・・・。」
アキ 「だって、なに?」
今野 「おかしい・・・。」
アキ 「なにが」
今野 「なんか違う・・。」
アキ 「私は私よ。I am I. You are You. Do you understand?」
今野 「Yes, I do.」
アキ 「たまちゃん、なんか感じない?」
今野 「何が?」
アキ 「これ見て。」
今野 「プレイヤー?」
アキ 「うん!」
今野 「古いね。」
アキ 「最低、だから男は嫌い。(横を向いて)」
今野 「え?」
アキ 「(やさしく)タマちゃん、このプレイヤーよく見て?」
今野 「赤いね、だけど少し」
アキ 「少し何!」
今野 「スピーカーのネットが潰れてカッコわるいね。」
アキ 「それだけ?」
今野 「うん、僕、けっこう観察力あると思うよ。そのへこみなかなか気がつかないよ。」
アキ 「ふ~ん。」
今野 「(調子にのって)僕、一回、デパートの人に褒められたんだ。商品の傷、見つけるの得意なんだ。」
アキ 「最低、だから男は嫌い。(横を向いて)」
今野 「え?」
アキ 「本当に、何にか感じない?」
今野 「うん。」
アキ 「これを見て心が切なくならない?」
今野 「切なく?」
アキ 「そう、心が。きゅ~んと切なくならない。なるよね!」
今野 「別に・・。」
アキ 「たまちゃん、私以外に恋したことない?」
今野 「僕が?恋?」
アキ 「あるでしょう!」
今野 「ないと思う。」
アキ 「最低、だから男は嫌い。(横を向いて)」
今野 「え?」
アキ 「ヒントだすね、たまちゃん。」
今野 「ヒント?」
アキ 「中学校!」
今野 「中学校・・・。」
アキ 「うん、中学生!」
今野 「・・・いい思い出なんて一つもない。僕がキューピーって言われてた。嫌な思い出、僕、ずっと消してるんだ。」
アキ 「嫌な思い出だけ、タマちゃん。」
今野 「うん。」
アキ 「最低、だから男は嫌い。(横を向いて)」
今野 「え?なんか言った?」
アキ 「(笑いながら)これが最後のヒントよ。タマちゃん、思い出してね!」
今野 「いいけど。」
アキ 「このプレイヤーを見て思い出して!転校生!」
今野 「なに、それ!第1そのプレーヤー壊れてるんじゃない?動かないよ、捨てた方がいいよ。」
アキ 「だから男は嫌い!」
今野 「なんだよ、いきなり!」
アキ 「本当に男は最低!」
今野 「なにが最低なんだ!」
アキ 「あんたは女心が全く分かってない。彼女がどれほどあなたを思っていたか、全然分かっていない!」
今野 「彼女?」
アキ 「そう、このプレイヤーの持ち主!」
今野 「そんなあ、分かるわけないだろう、そんな突然言われて!見たこともないのに誰のだって言えるわけがないよ。」
アキ 「私はあなたを人間として許せない!」
今野 「な、なんで!」
アキ 「もう一度、きちんと見て!この服も見て!見覚えない!?」
今野 「見たような気もするけど・・・でも、いっぱいいるよ、そんな服来ている人。」
アキ 「幸がかわいそう!」
今野 「幸・・・。」
アキ 「幸がどんな思いで、この曲を毎日聞いていたか!」
今野 「この曲・・・?」
アキ 「たま!耳の穴をかっぽじて聞きなさい!」
今野 「耳の穴かっぽじるの?」
アキ 「うるさい!いいから聞け、タマ!」

〈 エルビス・プレスリーの「I can’t help falling love with you」が流れる。 〉

今野 「(思い出して)あああああああああああ!!!!!!」
アキ 「ふん、あんたの負けね、だから幸と結婚しなさい!」
今野 「ハハハハハ、ハイ!!!」

〈 タマ退場 〉
〈 アキと妹 〉

幸  「ねえちゃん、知ってる。」
アキ 「何が?」
幸  「この曲、父さんと母さんの思い出の曲。」
アキ 「思い出の?」
幸  「うん。」
アキ 「何?」
幸  「ひみつ。」
アキ 「ひどい!」
幸  「だって、父さんが言っちゃだめだって。」
アキ 「どうして」
幸  「だって、ねえちゃんに言うと・・・。」
アキ 「なに?」
幸  「大切な思い出が壊れる気がするって。」
アキ 「ひどい!幸が知っていて、私が知らないってずるい。」
幸  「そうだね、姉ちゃん。」
アキ 「そうだよ。」
幸 「父さん、母さんの電話する時、いっつもこの曲を流していたんだって。」
アキ 「結婚する前の話?」
幸  「この曲を流して二人で1時間も2時間も話していたんだって。」
アキ 「父さん、結構、顔に似合わずロマンチストだね。」
幸  「うん。」
アキ 「父さんがこの曲をね・・。幸、古いレコード、父さん今でも持ってるの知ってる。」
幸  「ううん。」
アキ 「父さん、今でも大切に持ってるよ、このエルビス。」
幸  「その曲、父さんと母さんの結婚式の時、流したんだって。」
アキ 「父さんと母さんの青春だね。」
幸  「うん、私も・・・。」
アキ 「なに?」
幸  「その曲、流れるといいなあ。」
アキ 「結婚式の時?」
幸  「うん。」
アキ 「幸はロマンチストだね。幸、知ってる?」
幸  「なに?」
アキ 「幸のヒミツ。」
幸  「何?」
アキ 「幸の予定日は大安だったんだって。」
幸  「予定日?」
アキ 「生まれる日、でもその日、母さんは花見に行きたかったんだって。」
幸  「花見?」
アキ 「うん、花見、母さん結構、飲むんだよ。」
幸  「知ってるよ、お酒すきだよね。」
アキ 「だから、予定日と違う日に生まれてくれればって。」
幸  「私はいつ生まれたの?」
アキ 「見事、予定日の大安吉日。だから、母さんは真面目で幸せな子、幸って付けたんだって。だから幸は幸せな人生を送るよ。」
幸  「そうなんだ。」
アキ 「うん。」
幸  「姉ちゃん、綺麗だね。」
アキ 「うん、綺麗なね。」
幸  「河がキラキラ輝いて静かに海に流れていくよ、姉ちゃん。」
アキ 「本当だ・・・。幸、何、考えてる?」
幸  「ひみつだよ、姉ちゃん。」
アキ 「そうか・・・。」
幸  「ねえちゃん」
アキ 「なに?」
幸  「初めてラブレター書いたよ。」
アキ 「65点の人?」
幸  「うん。」
アキ 「返事くるといいね。」
幸  「来ないよ。」
アキ 「どうして?」
幸  「だって、出してないもの。」
アキ 「出しなよ。」
幸  「出せないよ。」
アキ 「じゃあ、ねちゃんが出してあげる。」
幸  「いいよ。自分で出すよ。ねえちゃん。」
アキ 「そうだね。」
幸  「ねちゃん、おしくらまんじゅうしよう。」
アキ 「うん、しよう。小さい頃よくしたよね。」
幸  「うん。」

〈 おしくらまんじゅう、けんけんぱ、だるまさんがころんをする。アキが去る。 〉
〈 父と幸。父がギターを弾きながLove me tenderを歌う。 〉

幸  「父さん、この歌、エルビス?」
父  「そうだよ。」
幸  「良い歌だね。なんて歌ってる?」
父  「私をやさしく愛して、私をいとおしく愛して、決して私を離さないでって歌ってるよ。」
幸  「父さん、私を離さないでね。」
父  「Never let me goだね。」
幸  「Never let me go・・。」
父  「うん」

( 暗転、沢山の瓦礫の中の公園で )

母  「アキ・・。」
アキ 「探しにいく。」
母  「え?」
アキ 「探しにいく。」
母  「探しにいく・・・。」
アキ 「探しにいく!」
母  「今?」
アキ 「いく!」
母  「夜は危ない!」
アキ 「行く」
母  「明日、一緒に行こう。」
アキ 「今、いく!」
母  「どこへ?」
アキ 「わからない。」
母  「無理。」
アキ 「でも行く!」
母  「今は無理。」
アキ 「行く!」
母  「危ない。」
アキ 「行く!」
母  「危ない!」
アキ 「幸と父さんを探す。」
母  「まだ、水が引いていない、危ない!」
アキ 「きっと見つける!」
母  「今はだめ!」
アキ 「どうして?」
母  「危ない。」
アキ 「幸と父さんを見捨てるの!」
母  「もう少し待ったほうがいい。」
アキ 「できない!」
母  「死んでいる人がたくさんいるし、余震が来ている。また津波が来るかもしれない!無理。」
アキ 「そんなことない。」
母  「今は待ったほうが良い!」
アキ 「待てない。行く。探しに行く!行く!行く!行く!気が狂いそう!気が狂いそう!どうして幸なの!どうして父さんなの?幸が何をしたというの!どうして幸なの!とうさんが何をしたの!」
母  「明日一緒に行こう。一緒に探そう。明日一緒に探そう。明日行こう。明日一緒に行こう。」

〈 父のギターの「Love me tender」が流れる。必死に母親がアキを押さえる。 〉

今野 「幸さんは?」
アキ 「・・・。」
今野 「いまどうしているですか、幸さん。」
アキ 「もう、いないよ。」
今野 「いない・・。」
アキ 「・・・・流されたよ。」
今野 「え・・・。」
アキ 「たすからなかった・・・。」
今野 「(事実を確認するように)たすからなかった・・。」
アキ 「うん。」
今野 「・・・・」
アキ 「ここから見ると、こっちは全部ながされたね・・・何にもないね・・あそこにサイクリング場があった。よく幸と遊んだよ。」
今野 「大丈夫ですか・・。」
アキ 「私?大丈夫だよ。幸、死んじゃった。」
今野 「・・・。」
アキ 「向こうにいっちゃた。」
今野 「・・・見つかったんですか。」
アキ 「うん。」
今野 「・・・。」
アキ 「下水の側溝の中で見つかったよ。でも、きれいだったよ・・・ボーリング場のレーンに、たくさんの人たちの棺(ひつぎ)が並んでいて、幸も、その中にいたよ。」
今野 「・・・。」
アキ 「幸、静かに眠ってるみたいだった・・・あんな目に会ったのに。・・きれいだったよ。母さんが唇に、そっと水を注ぐと、まだ生きていて、「ねえちゃん」って微笑んでくれそうな気がした。父さんが先に行って向こうで待っててくれていたからきっと、幸せだよ。」
今野 「お父さんも亡くなったんですか。」
アキ 「うん。」
今野 「幸さんがそんなことになってたなんて・・・。」
アキ 「・・・ずっと、君のこと心配してたよ。」
今野 「え・・僕のことを・・。」
アキ 「何度も手紙を書いていたよ。」
今野 「・・・・・・。」
アキ 「何度も、何度も。幸は書いていたよ。」
今野 「何度も・・・。僕何度もはもらっていないと思います・・・。」
アキ 「出していないよ。ポストまでいっても出せないんだよ、幸は。でも、私が幸の手紙を3回は出したはずだよ。覚えてない?」
今野 「あの頃、人を信じられなくて・・・。ごめんなさい。読んでません。」
アキ 「知っていたよ、幸。言っていたよ。今野君はいじめられて信じることができなくて苦しんでいてだれの手紙も読めないだろうって。でも、本当は、今野君の手紙をずっと持ってたよ。でも、一度でいいから出して欲しかったなあ。」
今野 「すみません・・・。」
アキ 「いいんだよ。」
今野 「ぼくの手紙を待ってたんだ・・・。」
アキ 「そうだよ。妹は、 ずっと、待ってたよ。」
今野 「僕を・・。」
アキ 「心の中でずっと待っていたよ、今野君。」
今野 「・・・手紙、ありますか?」
アキ 「ないよ。みんな流された。」
今野 「そうですか。」
アキ 「このプレーヤーとこの服だけが幸の形見。そのプレーヤー修理して動いたんだよ。あの津波の後でもきちんと聞こえるんだよ。このパーカー何度も洗ったら綺麗になったよ。妹は君に会いたかったんだよ。」
今野 「・・・・。」
アキ 「うん、似合う?」
今野 「はい。」
アキ 「今、君が会ってるのはちょっと元気にいい君より2才年上の幸・・・悩んでいたよ、幸、君のことで。」
今野 「・・・僕のことで?」
アキ 「うん、今野君が学校に来れなくなったのは私のせいだって。」
今野 「それは違ういます。」
アキ 「今野君がいじめられているのに私はなにもできないって。」
今野 「そんなことはない・・・一度だけ手紙読みました。」
アキ 「やっぱり読んだの?」
今野 「うん、がんばれって・・負けるなって、今野君だったらできるって。」
アキ 「きまりだね、がんばれ、たま!」
今野 「でも、僕、幸さんの手紙・・・僕をからかってると思ってた。人が信じれなくて、怖くて幸さんの思いやりを受け止めることができなかった。幸さんは僕に何度も手紙を出してくれたのに。僕、本当に幸さんに悪いことをしてしまった。」
アキ 「幸、聞いた?タマちゃんは幸が嫌いじゃなかったよ。」
今野 「嫌いだなんて、そんなこと思ったこともありません。」
アキ 「どうして今野君がタマちゃんか知ってる?」
今野 「どうしてですか?」
アキ 「家に妹が大好きタマって名前のオス猫がいたの。その猫、ストーブの前でのんびり寝ているの。真冬の寒い日、ストーブが消えていてもすやすや寝ているの。妹、言っていた。今野君にどこか似ているって言っていた。だから今野君はタマちゃん。タマちゃんといるとホッとするんだよね。タマちゃんは65点だね。」
今野 「65点?」
アキ 「うん、65点。」
今野 「65点・・。僕にぴったりの点数だと思います。」
アキ 「タマちゃんは幸の言ってたとおりの人だね。謙虚でやさしい。幸が好きにならずにいられなかったんだ。タマちゃん、ありがとう。」
今野 「ありがとう?」
アキ 「幸を思い出してくれて。」
今野 「ぼくなんか消えてなくなればいいと思っていた。」
アキ 「そんことはない。」
今野 「僕を思っていたんだ・・・。」
アキ 「今も思っているよ。(幸に)そうだよね幸!」
アキ 「笑って。」
今野 「え・・。」
アキ 「笑うと元気出るよ。それに・・・。」
今野 「それに?」
アキ 「今野君の笑い顔ステキだって、妹言ってた。ごめんね、今野君。」
今野 「え?」
アキ 「きつくあたって・・・。」
今野 「そんことないです・・・ぼく、がんばってみます。」
アキ 「うん、がんばれ。」
今野 「ありがとうございました。」
アキ 「お願いがあります。幸に心の中で花をプレゼントしてください。そして、心の中で叫んでてください。」
今野 「なんて?」
アキ 「あなたと結婚したかったって、幸、そうだよね。じゃあ、帰ります、たまちゃん。幸の分まで生きて!頑張れタマ!」

〈 アキ決心したように立ち去ろうとする。 〉

今野 「僕、持ってます!」
アキ 「え?」
今野 「手紙の中に入っていた曲。」
アキ 「たまちゃん、なんっていう曲か知ってる?」
今野 「良い曲だけど・・・題名までは・・・家に帰るとあります。」
アキ 「I can’t help falling in love with you.」
今野 「なんですか?」
アキ 「好きにならずにはいられない。」
今野 「好きにならずにはいられない。」
アキ 「うん!」

(アキ決心したように立ち去る。)
(今野がアキを見送るが何かを決心したように明るく強く言う。)

今野 「ばかやろう!あほんだら!ばかやろう!」

(やがて屋上が夕日になる。)

今野 「幸さ~ん、僕、幸さんと結婚したかった~。」

(幸が心の花束を持って屋上を横切っていく。)

※私は三月十一日の震災で、一七才で亡くなった石川絵梨の担任をしていました。この芝居は、彼女の遺体が見つかった状況など事実に基づいて書かれた部分が幾つかあります。

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