思い思いに過ごす5人の高校生。何気ないおしゃべりの中に少しずつ膨れ上がる違和感。やがて眠っていた一人が起き上がって…
生きている間に何を知れるのか。何を感じられるのか。何を信じられるのか。どうやって大人になるのか。
実際の事件をモチーフにした、極限の青春群像劇。
【登場人物】
・キョウコ … まっすぐで純粋。お母さんとトランペットが好き。
・カナ … 姉御肌のおしゃれガール。コスメを大量に持っている。
・サオリ … 優しいお調子者。
・ケンスケ … 落ち着きのある男子。Youtubeが好き。
・ ミウ … 心の病を抱えている。
・救助隊員(セリフなし)
・キョウコのお母さん(音声のみ)
【あらすじ ※ネタバレあり】
5人の高校生――キョウコ、カナ、サオリ、ケンスケ、ミウ――が部屋の中でくつろいでいる。
トランペットのマウスピースを吹くキョウコ。
メイクするカナ。
髪を巻くサオリ。
スマホをいじるケンスケ。
眠るミウ。
何気ない会話の中にどこか不穏な言葉が混じる。やがてミウが目を覚まし、「船が沈んでるのに、なんでみんなのんびりしているの?」と問う。
5人は修学旅行中で、傾いた船の中にいるのだ。
恐怖と不安を紛らわすために普段通りに振舞っていたことが判明する。
混乱の中でオーバードーズをしようとするミウを止める友人たち。
彼女の叫びをきっかけに避難を巡る議論が始まる。
ミウに加えてカナも脱出することに決まるが、カナは恐怖で断念する。
キョウコの「ミウは自己責任だと思う」という発言で空気が凍る。
ケンスケは「ジャーナリストになりたかった」と夢を語り、キョウコにスマホのカメラを向ける。死を受け入れつつある4人の穏やかなひととき。
脱出したミウが外から窓を叩くのにカナだけが気がついていた。
母からの電話で「もう船が沈む。あなただけ自己責任で逃げなさい」と告げられたキョウコは涙を流す。暗転、波の音、「ゴンドラの船頭歌」が静かに響き幕が降りる。
【本編】
やや薄暗い室内。斜め上からピンスポが1本誰もいないところに当たっている。
毛布やシーツ、箱、机と椅子、ビーズクッション等が無造作に配置された、色彩が統一されている抽象的な空間。
センター奥あたりに奈落的装置がある。
コテで髪を巻いているサオリと、巻き方を教えているカナ。
ケンスケはスマホをいじり、キョウコはマウスピースを手の中で転がしている。
カナ 「スライドさせて」
サオリ 「スライドさせて」
カナ 「一周外す」
サオリ 「一周外す。怖い!顔に当たりそう!あー、怖い怖い!怖いよ!」
カナ 「毛先まで巻き込んで」
サオリ 「毛先まで巻き込んで」
カナ 「下からコテを抜く」
サオリ 「下からコテを抜く。どう?」
カナ 「いいんじゃないかな」
サオリ 「本当にそう思ってる?」
カナ 「思ってない。ちょっと変だと思ってる」
サオリ 「なるほど。やっぱり難しいし、怖いなぁ。前に、海外の女の子が髪を巻いて、髪がブチブチブチブチ!!って切れて、ノーノーノーノー!オーマイガ!ってなる動画みたことある」
カナ、巨大なコスメポーチからたくさんのコスメと、ライトつきミラーを取り出す。
サオリ、一つを手に取る。
サオリ 「これは?」
カナ 「ウォンジョンヨのアイシャドウ」
サオリ 「こっちは?」
カナ 「ダイソーのアイシャドウ」
サオリ 「何が違うの?」
カナ 「値段。そして…ときめき」
サオリ 「キュン!これもらっていい?」
カナ 「ダイソーのだったらいいよ」
カナ 「それはウォンジョンヨなんだよ!」
サオリ 「どう違うの。パクリじゃーん」
ケンスケ、スマホを見ながら声を出して笑う。
サオリ 「なんか笑ってる」
カナ、ケンスケのスマホを覗き込みにいく。
ケンスケ、スマホを見られてちょっと嫌そう。
サオリ 「どうだった」
カナ 「海外の女の子が髪巻いて、ブチブチ切れる動画見てる」
サオリ 「なるほど」
サオリ、やや嫌悪感を顔に出す。
ケンスケ、動画を見るのをやめて奈落的装置を覗き込み、スマホのカメラを向け写真を撮る。
カナ 「おい、危ないからそっちに行くな」
ケンスケ「はい」
カナ、巨大なコスメポーチから巨大なメイクブラシを取り出す。
サオリ 「ブラシでかっ」
カナ 「でかい方がムラにならずに塗れる」
カナ、巨大なブラシでパウダーをはたく。
自分のついでにサオリにもパウダーをはたいてあげる。
サオリ、パウダー塗ってもらってご満悦。
カナ、巨大なパフを取り出す。
サオリ 「パフもでかっ!!」
カナ 「でかい方がムラにならずに塗れる」
サオリ 「そうかな」
カナ 「大は小を兼ねる。A large thing will serve for a small one」
サオリ 「なんで英語。こんなでかいパフどこで売ってるの」
カナ 「シーイン」
サオリ 「ブラシで塗るのとパフで塗るのとどう違うの」
カナ 「ブラシの方が自然で、パフの方が密着感があって落ちにくい。鼻の周りとか、よれやすい場所はパフで塗る」
カナ、巨大なパフで鼻の周りを塗ろうとする。
サオリ 「絶対もっと小さい方がいいでしょ。リップ塗っていい?」
カナ 「いいよ」
サオリ 「ちょっとオーバーリップにしよう。オーバーリップ…」
サオリ、あり得ないくらいオーバーリップにする。
サオリ 「どう?」
カナ 「(笑いながら)いいんじゃないかな」
サオリ 「本当にそう思ってる?」
カナ 「思ってない」
サオリ 「なるほど!」
ケンスケ、サオリをチラッと見て笑いをこらえる。
キョウコもサオリの顔を見て、マウスピースで「プッププーププププー」と吹く。
サオリ、訳す。
サオリ 「『ちょっと変だと思う』」
キョウコ「正解」
サオリ 「リップ落としていい?」
カナ 「いいよ」
しばらく無言でメイクする。
カナ 「はあぁ~。 アイシャドウ、パウダー、リップ、アイライナー、チーク、ハイライト、シェーディング。こーんなに持ってるけど、目は2つ、鼻は一つ、口も一つしかないんだよね。生きている間に使いきれそうもない」
サオリ 「え?目は2つ、鼻は一つだけど、口は2つあるじゃん。上の口と、」
ケンスケ「うわぁ!急になんなんだよ!びっくりした」
カナ 「下ネタはやめなさい!」
口々にケンスケとカナに叱られ、恥ずかしさに転げまわるサオリ。
サオリ 「違う!違うの。『唇は2つある』って言いたかったの!ああもう、うちに帰りたい!」
3人で爆笑する。一人だけ笑っていないキョウコ。
カナ 「寝てる人がいるから静かにしよう」
3人の笑いが収まる。
キョウコ「ねえ、何が面白いの?」
3人、笑いをこらえる。
キョウコ「ごめん、空気読めてなかったかも。それで、何が面白いの?」
3人、笑いをこらえて悶絶する。
ケンスケ「ここはサオリさんに責任をとっていただいて」
サオリ、キョウコに耳打ちする。
赤面するキョウコ。
キョウコ「無駄な知識を得てしまったわ。こんな知識、人生において絶対に役に立たない 」
キョウコ、恥ずかしさにソワソワしながらマウスピースをプープー鳴らす。
やがて一つのメロディになっていく。
サオリ 「年末のやつ」
カナ 「ベートーベン交響曲第9番歓喜の歌」
キョウコ「カナが正解」
キョウコ、もう一曲吹く。
サオリ 「『卒業生、入場』のやつ」
カナ 「エルガー威風堂々第1番」
キョウコ「カナが正解」
サオリ 「くそっ」
キョウコ、もう一曲吹く。
サオリ 「知らん」
カナ 「知らない」
キョウコ「これはね。ブルグミュラーの『ゴンドラの船頭歌』」
サオリ 「知らん」
カナ 「ゴンドラって何」
サオリ 「センドーカって何」
キョウコ「ゴンドラは小さい舟のことで、船頭はその舟の運転手のことなの。小さい舟の運転手の歌ってこと」
ケンスケ「運転手ではなくない?」
キョウコ「次は何にしようかな」
サオリ 「もういいです」
【尺が足りなかったら、ここに雑談を増やしてください】
サオリ 「まだ電気が使えるから、もう一度髪を巻いてみる」
ミウ、目を覚ます。
みんな「あっ、起きた」「おはよう」みたいなことを言う。
カナ 「ミウ、気分どう?大丈夫?」
ものすごく不機嫌そうにため息をつき、みんなを見渡し、ケンスケを睨むミウ。
ミウ 「ねえおかしいよ。ここは女の子の部屋なのになんでケンスケがいるの?」
ケンスケ「カナさんに連れ込まれてしまったんです」
カナ 「誤解を招くようなこと言うな」
ミウ 「あと、ずっとプープー変な音が聞こえていて、変な夢を見た」
キョウコ「ごめん」
ミウ 「あと、船が沈んでいるのに、なんでみんなのんびりしているの?」
間。きしむ音、エンジンの音、波の音などの効果音。
ケンスケ「沈むとは限らないのでは」
キョウコ「そう。一時的にバランスが崩れているだけかもしれない」
サオリ 「今はみんなで、指示があるまで待機しているの」
ミウ 「沈むよ。だってもう窓があんなに高いところにある」
不穏な音が聞こえてみんな不安そうにしたり、キョロキョロしたりする。なんか喋ってもOK
ミウ 「ああイライラする」
ミウ、バッグを引き寄せ、錠剤の入ったビンを取り出し、フタを開ける。
カナ 「やめなさい!!」
サオリ 「ミウ!!」
ミウを左右から取り押さえるカナとサオリ。
ケンスケはミウに視線を向けながら、ミウのバッグをミウから遠ざける。
3人が息のあった連携を見せる中、状況が分からず茫然とするキョウコ。
カナ 「やめるって約束しただろう」
サオリ 「なんでこんなもの持ってきたの」
ミウ 「ごめん、ごめんなさい。でもどうしても、どうしてもなの」
カナ、ミウの手からビンとフタを取り出し、サオリに渡す。
サオリ、フタ閉める。
ケンスケ、バスケの「パスくれ」のジェスチャーをする。
サオリ、ケンスケにビンを投げてケンスケがキャッチする。
まったく状況がつかめず、ただ目で追うキョウコ。
ミウ 「返してよ…」
ケンスケにビンが渡ったことに気づかず、カナとサオリに懇願するミウ。
カナの膝に顔をうずめて泣き出す。
ケンスケ、ビンを見つめながらため息。
キョウコ「…毒!?」
ケンスケ「半分は正解で半分は不正解。これはただの風邪薬だ。でもミウは、これを、何十錠も一度に飲んでしまうことがあった。そうすると風邪薬とは違う効果がある。もちろん、とても身体に悪い」
キョウコ「なんでそんなことを」
ケンスケ「なんでだろう。でもカナとサオリがミウを説得して、ミウはもう飲むのやめるって約束したんだ」
ケンスケ「(ミウに)カバンの中みていい?」
ミウ 「やめて!触らないで!」
ケンスケ「(冷静に、穏やかに、ミウを尊重する優しさをもって)はい」
間。
ミウ、だんだん落ち着いてくる。
ミウ 「やめたよ。やめました。あれから一回も飲んでない。でももしものときのお守りとして、ビンを1つだけ持っていたの…今はもしものときだから飲んでもいい」
サオリ 「よくない」
カナ 「ダメ」
ミウ 「飲ませてください。今日だけ。自己責任で飲むので。カナとサオリは関係ない…」
カナ 「はあぁ~…」
サオリは同情して泣きそうな感じ、一方カナはうんざり顔。
キョウコ「もしかして、知らなかったのってわたしだけ?」
カナとサオリ若干固まる。ケンスケが小さくうなずく。
キョウコ「なんで教えてくれなかったの」
ミウ、ハッ!と笑う。
ミウ 「教えるわけない。だってあんた、何でもお母さんに話すじゃん。それで、何でもお母さんが学校に電話するじゃん。小学校の頃からずっとそう」
キョウコ「それの何が悪いの?」
間。
キョウコ「なんで誰も大人に相談しなかったの?」
間。
キョウコ「こんなこと…内臓がボロボロになって、ご飯が食べられなくなって痩せ細って、すごく苦しんでから死ぬんだよ。ミウは自分が大人になる前に死んでもいいと思ってるの?」
ミウ、カナとサオリを払いのけて立ち上がる。
ミウ 「大人になる前に死んでもいいと思っているのはあんたたち全員じゃない!!」
ミウ 「なんでここから逃げようとしないの!!」
間。
ケンスケ「死んでもいいとは思ってない」
ミウ 「あっそ。好きにすれば」
ミウ、ライフジャケットをどこかから出してきて着用する。
ミウ 「さっき船が何かにぶつかったときに床が壊れて穴が空いた。あの穴から外に出られる」
ミウ、奈落的装置にスタスタ近づこうとする。
サオリ、ミウを引き止める。
サオリ 「待って。待って。話し合おうよ! 話し合って、ミウはここに残るべきってことになったら、ここにいてくれる?」
ミウ 「嫌だ」
カナ 「あのさぁ。泳げないよね?水泳の授業はいつも見学してるよね?」
ミウ 「バタ足ならできる」
カナ 「はあぁ~。それは泳げないっていうんだよ」
サオリ 「話し合おう。話し合いをしよう」
ミウ 「あたしはしない。あたしには関係ない。4人で勝手に話し合えば?」
キョウコ「ミウも話し合いに参加した方がいいと思う」
ミウ、キョウコを無視してプイッとする。
ケンスケ「どうしよう」
カナ 「あんな奴、一人で行かせられるわけない」
サオリ 「誰か一緒に行く?泳ぐの自信ある人いる?」
全員無言。
サオリ 「われこそは!って人いる?」
全員無言。
サオリ 「ケンスケは?男の子だし」
キョウコ「それは性別役割分業意識に基づく偏見なんじゃない」
サオリ 「はぁ。じゃあキョウコは」
キョウコ「なんであの子に付き合わなきゃいけないの?」
サオリ 「じゃあ、カナは…」
カナ、無言で首をブンブン振る。
カナ 「やっぱりミウを止めよう。ミウ!」
キョウコ以外の3人、ミウにゆっくり近づこうとする。
ミウ、警戒心をあらわにして野生動物みたいになる。
キョウコ「野生の動物みたい」
3人が距離を詰めようとする。
ミウ、警戒レベルがさらに上がる。
ケンスケ、やめやめ。終わり。みたいなジェスチャーをする。
3人、元の位置に戻る。
ケンスケ「無理ですね」
カナ 「多分、追い詰めると飛び込んじゃう。本当にまずいことになった」
サオリ 「どうしよう…」
間。
ケンスケ「ミウが、ミウが選べばいいのでは。誰と一緒に行くか」
サオリ 「なんでミウが選ぶの?」
ケンスケ「(めちゃくちゃ迷いながら)考えたんだけど…二手に分かれるのは…そんなに悪くない、と思う。ここが安全なのか、危険なのかも、よく分からないので…ここに残るチームと、ここから移動するチームに分かれるのは…悪くないと思う。ミウは移動するチームの…リーダーってことになる」
カナ 「あいつがリーダー?」
ケンスケ「リーダーだったら自分のチームのメンバーを選ぶ権利があると思う」
キョウコ「…いいと思う」
サオリ 「なるほど…」
サオリ、うなずく。続けてカナもうなずく。
サオリ 「ミウ。ミウを一人で行かせることはできないの。だからもう一人一緒に行く。誰と一緒に行くかはミウに選んでほしいんだけど…」
ミウ 「選んでいいの!?」
ミウ、警戒モードから打って変わってテンション爆上がり。
ミウ 「本当にあたしが選んでいいの!?うわぁ、どうしよう〜〜〜!!!」
キョウコ「嬉しそう」
ミウ 「嬉しい!!楽しい!!」
サオリ 「人の命がかかってるんだよ?真剣に考えて」
ミウ 「じゃあ4人とも後ろを向いて並んでください!」
サオリ 「なんでそんなゲームみたいにするの?」
カナ 「はあぁ~」
と言いつつ、4人とも並ぶ。
ケンスケ、防水ケースを出してスマホをしまい、ケースのストラップを首にかける。「自分を選んでほしい」という期待をにじませた顔。
カナ、「選ばれたくない」という顔。
キョウコは絶対に自分は選ばれないと分かっているので平然としている。
サオリも自分じゃないと思っているので、普通に不安そう。
ミウ、反復横跳びのように左右にステップしてフェイントをかける。
カナ 「ミウ、ふざけないで」
ミウ 「ふざけてないよ」
間。
ミウ、カナに後ろから抱きつく。
ミウ 「カナがいい。カナと一緒に行く」
カナ、一瞬絶望顔になるが頑張って顔を作る。
カナ 「うん」
ケンスケ、あれっ?俺じゃないの?みたいな感じ。防水ケースに入ったスマホを服の中に隠す。
ミウ、ウキウキとどこかからライフジャケットを持ってきてウキウキとカナに渡す。
カナ、モタモタとライフジャケットを着る。
サオリ 「カナ、大丈夫?納得してるの?」
カナ 「大丈夫」
ミウ 「二人で一緒に飛び込むと身体がぶつかって危ないかもしれないから、あたしが先に行くね。危険じゃないか確かめてくる」
キョウコ「それは…いいの?」
ミウ 「行きまーす」
ミウは飛び込み選手のように片手を上げ、みんなを振り返ってニッコリする。
ミウ、ためらいなく奈落的装置に飛び込む。
激しい水音。
みんなでミウに呼びかける。
ミウ 「大丈夫でーす。水が冷たい!」
みんなホッとする。
ミウ 「カナ、おいで!」
カナ、震えてためらう。
ミウ 「カナ!」
カナ 「だめだ。無理だ。ごめん、ミウ、先に行って!」
ミウ 「はあぁ〜???」
ミウ 「カナ。来てよ。あたしがカナに決めたの。あたし、カナがいないとダメなの」
ミウ、何度もカナを呼ぶ。
動けないカナ。
ミウ 「カナが行かないならあたしだって行けないよ!もうそっちに戻る!戻りたい、引っ張り上げてよ!!」
そんなことはできないので凍りつく4人。
ミウ 「話が違う!もう!行くよ!!バカ!!バカ!!バカカナ!!」
泣きながらミウを罵倒するカナ。
やがて水音が遠ざかっていく。
カナ、みんなの中に戻ってくる。
ライフジャケットを脱ぎ捨てる。
カナ 「ダメだった。暗くて、水面がすごく遠くに光ってて…ミウがどこにいるのか分からなかった」
うなだれて座るカナ。
ケンスケ、脱ぎ捨てられたライフジャケットを見つめながら、俺が行くべきか?と激しく逡巡する。(でも結局行かない)
カナ 「みんな、ごめん。こんなことになって…ミウを支えたい、ミウを助けたいとずっと思っていた。私がミウのお母さんにならなきゃいけないと思っていた。でも本当のお母さんだったら絶対に子どもを一人で行かせたりしない。子どもを危険な目に遭わせない。子どもを裏切ったりしない」
キョウコ「仕方ないんじゃない?カナが戻ってきてよかったと思う。一緒に行ってたら死んでたかもしれない。ミウは死ぬかもしれない。でもミウが自分で決めたことなんだから、ミウの自己責任だと思う」
カナ 「…黙れ」
カナ、キョウコへの怒りで歯を食いしばる。
サオリ、キョウコを睨みつける。
キョウコ、自分が取り返しのつかない失言をしたとゆっくり自覚する。
長い間。
ケンスケがスマホと自撮り棒を取り出し、自分自身を撮りはじめる。
ケンスケ「ヤマダケンスケ。20◯◯年◯月◯日生まれ17歳。
私はジャーナリストになりたいと考えていました。ジャーナリストになって、伝えることで人を守りたい、と考えていました。しかしその夢は叶いそうにありません。私はジャーナリストになるための勉強と称して、一日6時間ほどYouTubeを観ております。いったいなんの勉強になるというのでしょうか? 人生の浪費に過ぎません。私は自分の将来のために今何をするかを自分で決める力がないのです。私には才能がないのです。私には努力が足りないのです。 今日死んでも、もちろん夢は叶いませんし、たとえ生きて帰っても夢が叶うことはありません」
ケンスケ、キョウコをチラチラ見る。キョウコが寄ってくる。
ケンスケ「でも私は今日だけは自分の夢を叶えたい。ジャーナリストとして最初で最後の仕事をしたいのです。アライキョウコさん。あなたは今日何をしたいですか?」
キョウコ「アライキョウコです。今日までたくさんの人を傷つけてきたと思うから、まずは、謝りたいです。ごめんなさい」
ケンスケ「それ以外で」
キョウコ「えっ」
二人は目を合わせて微笑む。
ケンスケ、スマホを他撮りに。
ケンスケ「撮ってもいいですか」
キョウコ「もう撮ってる」
【尺が足りなかったらここでキョウコは「考えてみる」と言って一旦保留してください。その間ケンスケはカナとサオリに一人ずつ「今日したいこと」をインタビューし、もう一度キョウコのところに戻ってきてください】
ケンスケ「カメラを見ないで。カメラを意識しなくていい」
キョウコ「じゃあケンスケの目を見る」
ケンスケ「俺?俺のことも意識しなくていいよ」
キョウコ、首を振る。
ケンスケ「俺のことを意識する?」
キョウコ、うなずく。
ケンスケ「そうか…」
ケンスケ、照れる。
他の女子2人をチラッと見る。
キョウコ「トランペットが吹きたい。船の上でトランペットを吹いたらどんなに気持ちがいいだろうかと思って、持ってこようか迷ったの。でも荷物がいっぱいで持ってこれなかった。 それで、なんとなくマウスピースだけ持ってきたの。
それと、手を繋ぎたい」
ケンスケ、動揺しつつもキョウコに手を差し出す。
キョウコはケンスケの手の動きに気づいてない。
キョウコ「みんなと手を繋ぎたい」
ケンスケ、手を引っ込める。
サオリ、キョウコ、ケンスケ、カナの順で手を繋ぐ。
ケンスケは片手が塞がっているので、キョウコとカナのどっちかはケンスケを肘を持つ感じで。
(キョウコはケンスケの肘を持つのか?手を繋ぐのか?はお任せします)
キョウコ「本当に死ぬかもしれないんだね。信じられない」
【尺が足りなかったらここに4人の会話を自由に追加してください。会話なしで、音響と照明だけで観せるのもOK】
BGMが流れるか、ぽつぽつとした会話をしている中、
突然ちらつくピンスポ。
カナだけが気づいて反応する。
下手に全身びしょ濡れのミウが登場する。
以下、ミウは口パク。
ミウはさかんに窓を叩く。ちらつくピンスポ。
救助隊員が来る。
(救助隊員はヘルメットかマスクを付けていて、顔が見えない。可能であれば、救助隊員にも死神にも見える造形。
以下、可能であれば、ミウが救助隊員によって救助されるのか、死神によって冥界に連れていかれるのか、どちらにもとれるような演出にしてください)
ミウは救助隊員に窓を割ってほしいと懇願する。
救助隊員は首を振る。
腕をつかむ救助隊員を振り払い、詰め寄るミウ。
しかし救助隊員はミウを強引に連れていってしまう。
カナ、窓の外に向かって手を振る。
突然鳴り響く着信音。
みんなびっくりして声をあげる。
カナ 「誰のスマホ!?誰から!?」
キョウコ「うそ…お母さんからだ」
サオリ 「スピーカーにしてくれる?」
キョウコ、首を振る。
サオリ 「誰にも聞かれたくない?」
キョウコ、うなずく。
サオリ 「みんな耳塞いで!」
みんな耳塞ぐ。
お母さん「キョウコ?」
キョウコ「あっ…」
お母さん「今船の中にいるの?」
キョウコ「うん」
お母さん「お友達も一緒なの?」
キョウコ「うん」
お母さん「落ち着いて聞いて。船が横倒しになって、ヘリコプターや小さい船で救助されている人がいる。でも全員は助けられないの。お友達には内緒で、あなただけでも逃げなさい。自分の判断で、自分の責任で、あなたは避難しなさい。いい?キョウコ?聞いてるの?お母さんの話」
キョウコ、涙を流しながら電話を切る。
サオリ 「キョウコ、お母さんはなんて言ってたの?」
答えられずに泣き続けるキョウコ…
フェードアウトで暗転。
ブルグミュラー「ゴンドラの船頭歌」のピアノ演奏が流れる。
1分ほどピアノ演奏だけが流れた後、可能なら、トランペットの主旋律を生音で重ねる。
(この曲はトランペットで演奏する難易度が高いので、吹奏楽部の助っ人を呼ぶなどしてください)
明転。カーテンコール
トランペットを持って上手から再登場し中央に立つキョウコ。
ミウ下手から、他3人上手から登場。
「ありがとうございました」
(はけるところも見せる場合、ミウは一人で下手、他4人は上手)
曲の終わりに合わせて閉幕。
ver 2025.11.29
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