メッセージの発信 (2)・高校演劇の作り方 
                                   
・ 横澤信夫

第2部. 劇作りをスタートさせるために

ご覧になりたい項目をクリックしてください。

一. 演劇の基礎練習について 四.脚本の分析と解釈
二. 脚本の選び方 五.キャスト・スタッフの決め方
三.演出の決定と練習計画  
   

 

      一.『演劇の基礎練習について』
               ☆高校三年間で基礎が身につくわけがない
                   ☆基礎練習の内容と効用
                   ☆自分の声を知り、作る
                   ☆個性を生かして
                   ☆自己解放で自由になる
                   ☆参考図書と基礎練習テキスト

 ※「高校三年間で基礎が身につくわけがない」

  高校の演劇部に入ると、みんなと一緒に「アエイウエオアオ」とか「あめんぼ赤いなアイウエオ」という発声練習を
するわけですが、どうしてこのような練習をするのでしょうか。「キャストになった時の準備として普段からやっておく」
というのが答えになると思うのですが、では、キャストを希望しない人はしなくてもいいものなのでしょうか。照明や
衣装を担当することになった場合は発声練習をしなくてもいいのでしょうか。

 このことには、いろいろな考え方があるので、一概に結論を出すぺきではないと思いますが、ブロの劇団と違って、
高校の演劇部の場合は専門別に分かれているわけではなく、演劇部員の多くは、入学してから演劇というものに初
めてふれるのではないでしょうか。そういう意味では、機会あるごとに演劇に関するいろいろなことを経験して、「演
劇とはなになのか」探ってみるぺきだと思います。

 プロと呼ばれる人から言わせると「高校の三年間で、演劇の基礎が身につくわけがない」そうです。確かに、専門家
が毎日、それも何年間もやってできないことを、だかが三年やって出来るとは私も思いません。しかし、そのブロとい
われる人のことを、歌舞伎の人は「おしろうとさんと言うことがある」ということを聞いたことがあります。人間の成長に
合わせて身体作りをし、声を鍛え。感覚を養い、幼いときから何十年もかけて基礎を身につけていく立場の違いがそこ
にあると思います。

 しかし、私は高校演劇にも基礎練習は必要だと思っています。自分たちが感じたことや考えていることを、演劇とい
う形で表現する場合、「観客によりよく伝えるために」できるだけの努力をするのが当然です。いざ、キャストになってか
ら、「声が出ない、どうしよう」ということのないように、毎日の練習の中に、計画的に取り入れることが大切です。

 運動部でも、その活動内容に適した基礎練習をすることと同じです。演劇部に入部したなら、全員必要最低限のこと
はやってみよう。そして、自分の声や話し方を意識し、みんなと練習することで、人前で話し伝えるということを考えてみ
るということは、人生を豊かにするということからみても、大切なことだと思います。アメリカでは、学校のなかに「話す」
という教科があり、話し方のテクニックについて勉強しているそうです。

 私は、高校における演劇の基礎練習には、次の三つの目的があると思っています。

 ●「演劇についての基礎的なことを身につける」

  これはもちろん、いうまでもありません。

 ●「部員の意識の自覚」

  毎日全員でやっていると、しらずしらずのうちに仲間意識が出てくるものです。演劇は、複数の人間が集まって、ひ
とつの舞台を作るわけですが、立場が違っても、討論しても、「伸間意識」がしっかりしていれぱ、いい舞台ができるもの
です。私は、キャストやスタッフが決まっだ後でも、毎日の練習の初めには全員で発声練習をするよう話していました。


 ●「自信と周囲へのアッピ‐ル」

  ベランダで、あるいは外で、演劇部員みんなで行う発声練習は、「今日も演劇部は練習しているよ」という周囲へ
のデモンストレーションをしていることにもなり、多くの人が見ているところで声を出す自分に対する自信へとつながっ
ていくものを持っていると思います。

 ※「基礎練習の内容と効用」

 演劇の基礎練習としての内容は、演劇にとすべてなので、「発声練習」だけではなく「動きの基礎」や「スタッフ関係
の勉強」など沢山考えられます。しかし、放課後の活動では時間が制約されるので、基礎練習にそんなに時間をとる
ことができません。したがって、「発声練習」を中心にしながら「動きの基礎」をそれに加える形になることが多いと思い
ます。「スタッフ関係の勉強」は、大抵の場合スタッフに決まってから勉強することになると思いますが、興味のあるこ
とについては、講習会などの機会をとらえて、大いに勉強して下さい。

 「発声練習」や「動きの基礎練習」は、その学校なりの方法があると思いますが、私は、後述の参考図書から抜粋し
た、その学校なりの「基礎練習テキスト」を作っていました。発声については「呼吸、発音、発声、早口ことぱ、詩や短
文の朗読、セリフなど」。動きの練習については「柔軟体操、リズム体操、パントマイム、ゼスチャ‐、身体表現、ポーズ
エチュード、など」を適宜選択して、三十ページくらいのものにまとめて使っていました。

 入部した最初の頃、発声や動きの基礎練習を部員とやってみると、自分の声や身体が自由にならないことに気がつ
きます。上級生の声に圧倒されたり、自由に表現する動きに感心したりすることになります。つまり、自分というものを
意識することになるのです。そこからスタートし、舞台に立った時を想像しながら、大きな目標に向けて自分自身を前
進させることになります。そのような意味から、「基礎練習は、自分を知り自分を変える第一歩」と、私は感じています

 
※「自分の声を知り、作る」

 ここでは、発声練習とセリフの基礎練習について考えてみましょう。

 いつも自分が話している話し方では、舞台に立ったとき、観客に十分声が届くとは限りません。また、声が届いたか
らといって、明瞭な「聞きやすいことば」になっているとはかぎりません。そこで、次のようなことをいつも考えながら、自
分の声について意識しながら「発声練習」をしてみてください。

 まず、「ア‐エ‐イ‐ウーエ−オーア‐オ‐」と二十秒以上声を長く伸ばして練習するのは、身体に共鳴させながら、肺活
量をつける事になります。また、長く声を持続させることで自分の呼吸をコントロ‐ルする力をつけることになるのです。
この時、あるひとつの語の響き具合を、よく観察してください。こもった声、丸い声、よく通る声、鋭い声など様々な声を
聞き分けてください。そして、自分の声の特徴を自覚しながら、聞きやすい声になるよう練習しましょう。

 早口ことぱは、ただ単に早く言うというよりは、口の形をしっかり作りながら、一語一語明瞭に意識して話すととによっ
て、頬や唇や顎の筋肉が鍛えられることになり、どんな言葉でもきちんと発音できる基礎を作ることになります。ことぱ
全体としてはやゝ硬い感じになるかもしれませんが、なにを話しているのかしっかり分かるように、口や顎を十分に使っ
て話しましょう。

 次に、普通の早さで話す場合は、音程や息つぎを意識しながら、言葉の表情(明るさ暗さ、硬さ柔らかさ、抑揚、スピ
‐ド、など)をよく観察してください。特に、自分の言葉で「サ行、ハ行、ラ行、など」聞きにくいところがあるときは、じっく
り練習することです。

 声を遠くまで届かせようということで、声をはりあげて喉に力を入れるような発声は、喉を痛めるのでやめよう。身体に
共鳴させることができると、演劇で言う「声をつぷだてる」ことでせりふは相当届くようになります。「つぶだてる」という
のは、一語一語明瞭な発声で綴られた聞きやすい言葉ということです。それを目標に発声の基礎練習をしてみよう。

 私は、発声の基礎練習がある程度進んだところで一人ひとりの練習を録音して聞かせるようにしていました。自分の
顔を目分では見ることができないように、自分の声も自分では正しく聞くことができないのです。録音した自分の声を聞
くことで、客観的に自分の声の特徴を知ることができるのです。そのとき、アナウンサーのニュースの録音を聞かせると
その違いがよりはっきりします。ラジオやテレビのニュースを録音し、原稿に起こして録音と一緒に読んでみると、そうと
う早いスピ‐ドで読まないと追いつけないことが分かります。あれだけ早くても聞きやすいということは、やはりブロだなと

感心してしまいます。

 あるNHKのアナウンサーの話ですが、ニュースなどを読む速さは、一分間に約三百三十宇くらいなそうです。そして、
ニュースの「原稿を読む」のではなく、「伝える」ことに重点を置いているということでした。

 ある程度基礎練習が進んだとき、日本昔話のようなお話の最初の部分を、練習のひとつとしてみんなの前で話しても
らうことがあります。観客の立場で聞いたとき、物語の世界のイメージが頭に浮かぶような話し方になっているかどうかと
いうことを、みんなで批評し合いながら、話し方とともに聞き方の練習として行っていたこともありました。案外、トツトツと
した語りの時、聞いている自分の心の中に、ある世界が浮かんでくるようです。感情が入り過ぎた語りは、押しつけにな
り、聞き手にとって自分の世界が生まれにくいように思います。演劇のセリフも同じかもしれませんね。

 ※「個性を生かして」

 全員で発声練習をしていると、声の響かせ方や呼吸の仕方などを知らず知らずに体得して自分のものにすることがあ
ります。響きの良い人がいれば、無意識のうちにそれを受け入れようとしているからかもしれません。しかし、その結果、
全員の声の質や呼吸の仕方や話し方の味がそろってしまうことがあります。合唱であれば、全員の声をある程度声をそ
ろえようとしますが、演劇の場合はキャストー人ひとりの個性が出ないと、全体の幅が狭くなってしまうのです。

 ある東北大会の時、会場の周辺で出場校が発声練習をしていました。多くの学校が全員で行っている中で、ある高校
は個人毎にそれぞれの発声練習をしているのです。その学校の舞台を見て、セリフにもしっかりした個性を感じ、なるほ
どと思いました。

 聞きやすい声で、明瞭に観客に届くような声になったなら、音程や声の色を意識して自分の幅を広げながら、いろいろ
な役柄や状況に対応できるような練習をしてください。そして「話す」ということについて、いろいろ考えてみてください。あ
る時ラジオで「日本は音程で、アメリカは強弱で感情表現する」ということを聞いて、なるほどと感じたことがあります。

 キャストになってから、堅い読み方や棒読み、変な抑揚を直そうとしても時聞がかかります。基礎練習の段階で早目に
練習しておこう。また、いろいろな役柄や、様々な状況での表現についても基礎練習のとき体験し、自分の幅を広げ、三
分間スピーチという段階にまで高めることで「話す」ということについての自信がつけば最高ですね。

 ※「自己解放で自由になる」

 動きの基礎練習の目的は、顔の表情を含めた身体表現の練習ということになると思います。自分が感じたり考えてい
ることを表現しようとする場合、ことぱや身体を使ってなんとか相手に伝えようとします。昼休みの教室での友人の様子を
観察しているとよくわかります。身体を動かさずに、無表情で話しているということはまずありません。無意識のうちに手
や顔の表情で自分の気持ちや考えを表現しています。

 演劇の場合、ある人物がある状況でなにかを伝えようとする場合、そのキャストは自分の持つ演技でそれを表そうとし
ます。発声練習やセリフの基礎練習がことばの部分とすると、動きの基礎練習は身体表現ということになります。本来、
ことばと身体表現は一体のもので、プロの劇団の練習を見ていると、体を動かしながら発声練習をしていることを目にし
ますが、ここでは、入門編として別々に考えてみます。

 動きの基礎練習として考えられることは、いつもは意識していない身体表現を意識してやってみようというところにある
と思います。そのために柔軟体操やダンス、パントマイム、ゼスチャー、などの基礎練習や、それを発展させたエチュード
というような応用まで、いろいろ工夫して行うわけです。それらの練習内容の詳しい説明は、次の参考図書を見て下さい。

 ここで、日常の身体表現と演劇という舞台での身体表現の違いについて、少し考えてみましょう。日常の会話は、大抵
の場合、相手との距離が近いためそんなに大きな動作を必要としていません。したがって、手を使って表現する場合でも
肘は脇腹についた状態の場合が多いのです。ところが舞台では、それでは人物が小さく見えてしまうので、肘を脇腹から
離した大きな動作をする必要があるのです。この、日常の動作との違いを意識しながら、自分の身体を使って自由に表現
できるように練習するわけです。

 また、自分の表現したものが、観客からどのように見えるのか考えながら練習しよう。動けない棒立ちでも駄目、動き過
ぎてうるさいのも駄目、表現したいポイントをしっかりおさえた、それでいて自然に感じてもらえるような演技ができるように
なるまでやってみよう。

 ところで、外国の人が身振り手振りで表現するのに比べて、日本人は言葉だけで表現しているといわれますがなぜでし
ょうか。一説によれば、日本語は言葉の種類が多く、相手のことを表現する言葉として「君、あなた、おまえ、おめ、貴様、
など」その場その時の状況に応じた言葉を選んで使うことによって、自分の気持ちを含めて表現しているのに対して、英語
では「YOU」という言葉だけなので、身体表現で補っているということでした。そのことからいえぱ、日本人は外国の人に比
ぺて、身体表現が下手なのかもしれません。演劇を通して自分の表現の幅を広げよう。

 ことばや動きを使った表現を自分のものにすることによって、自分が解放されていく感じがつかめると思います。「話そう、
動こう」とする場合、それに対する大きな抵抗力が働き、見えない力で自分を束縛してしまいます。つまり、表現するという
ことについて、不目由な状態になってしまうのです。基礎練習をしながら、いろいろな表現を体験していくなかで、しだいに
その束縛しているものが取り除かれていくのです。それが、「話す、主張する、表現する」ことへの自信につながり、自己
解放されていくのです。

 ※「参考図書と基礎練習テキスト」

 私の手元にある資料から、私が推薦する基礎練習に関した参考図書やテキストを紹介します。
                     (値段は変わっていると思われます)

☆晩成書房「東泉都千代田区猿楽町1の4の4]  03−293‐8348
      ●はなしことばの練習帳1(基礎編)  菅井建著  ¥515
      ●はなしことばの練習帳2(演枝編)  菅井建著  ¥515
      ●こえことばのレッスン1(こえ編)    ささきえつや著 ¥721
      ●こえことぱのレッスン2(ことぱ編)  ささきえつや著 ¥721
      ●こえことばのレッスン3(表現編)   ささきえつや著 ¥721

☆黎明書房「名古屋市中区丸の内3‐4‐10大津橋ビル]  052‐962‐3045
      ●指導者の手帖二「演技入門ハンドブック」     編集 芸術教育研究所 ¥850
      ●指導者の手帖一四「続・演技入門ハンドブック」 編集 芸術教育研究所 ¥850

☆青雲書房[東京都文京区大塚3‐20‐4]  03−944−6002
      ●アマチュア演劇「演劇・けいこの基本」  阿坂卯一郎編  ¥520
      ●演劇クラブ・サ‐クル「けいこノ‐ト」改訂版  体操監修 野口三千三 ¥450

☆未来者「東京都文京区小石川3-7‐2]  03‐814‐5521
      ●テスピス双書54「初歩エチュ‐ド」訳者 根津 真¥450
                                                                   つ づ く


        ニ. 『脚本の選び方』
                脚本との出会い
                やりたい脚本を選ほう
                魅力を追いかけよう
                脚本の使用許可申請と印刷・製本
                脚本『私の海は黄金色』について
                わかってやっている舞台にむけて

 ※「脚本との出会い」

 自分たちの演劇部による自主公演や、地区発表会などに参加をする場合、上演する劇の基となる脚本を選ぱなければな
りません。

 その時期が近づいてから、「なにをやろうか」と話し合っても、なかなかやりたいと思う脚本にめぐりあえないのが普通です。
ましてや創作ともなれば、だれがなにについて書くのか、いつまでにできるのか、できぱえはどうなのかと、不安材料いっぱ
いという状況になります。

 東北のある高校では、一月から三月までを脚本について勉強する期間としているそうです。みんなで沢山の脚本を読み、
自分の読んだ脚本を記録し、上演したいと思うものをリストアップし、ときどき情報交換しながら話し合いの場を作って、新年
度上演する脚本を絞っておくそうです。そして、新入生の入部状況をみながら、なにを上演するか決めるということでした。す
ばらしいことですね。

 脚本の創作については、まだいつかの機会にまわして、ここでは既製脚本の選ぴ方について考えてみたいと思います。 

 ※「やりたい脚本を選ぼう」 

 脚本を選ぶときのポイントはなんでしょうか。第一にあげられるのは、なんといっても「やりたいもの」を選ぷということです。

 ところが、この「やりたいもの」という場合、その個人の直感で判断することが多いので、数人がそれぞれ「やりたい脚本」
を出した場合、相手に「なぜやりたいのか」説明しなければならないことになります。でも、これが案外大切なことなのです。
この脚本のどこがどう面白く、魅力はどこにどのように含まれているのか。それをしっかり把握して舞台作りをしないと、自
分が脚本を読んで感じた魅力が観客に伝わらないことが多いのです。脚本を読んだ時の「おもしろさ」が、劇というものに形
を変えて、さらに大きく成長した「おもしろさ」として観客にぶつけることができたとき、観客は満足してくれるのではないでし
ょうか。お互いに「やりたい脚本」を手に、「なぜやりたいと感じたのか」みんなに説明するところから始めよう。

 ところが、やりたい脚本でも、その時の部の状況から考えて、とても無理ということがあります。それは、「人数、内容、日
程、予算、等」を考えてみたとき、上演できないことがあるのです。ここでは、「人数と内容」について少し触れてみましょう。

 まず「人数」と書きましたが、その時の演劇部員の構成状況と言ったほうが適切かもしれません。登場する人物と、部員
の様子を比較し、それを演じるだけのメンバーがいるかどうかをしっかり見極めてください。だだ単に、人数や男女の数だけ
ではなく、スタッフを含めた「現在の部の力量」を考えることが大切です。「脚本の内容」を「現在の部の内容」と照らし合わ
せて、「脚本の持っている魅力を、充分舞台に表現できるか」ということを頭のどこかで意識しながら脚本を読んでほしいの
です。安易に、男の役を女性がやればいいとか、場面や登場人物をカットすればいいというようには考えてほしくないと思い
ます。

 ところが実際に脚本をさがしてみると、その時の部の状況に合った、しかも「やりたい」と思う脚本にはなかなか出会わな
いものです。普段から脚本を手の届く範囲に沢山置いて、時間をかけてじっくりさがせるように、まず学校の図書館にお願い
してそろえてもらうようにしよう。

 「脚本の選ぴ方で舞台の出来の半分は決まる」という人もいますが、本に載っている脚本は、いつかどこかで上演された
ものがほとんどです。つまり、なんらかの魅力を含んだものなのです。その魅力を読み取れるように、前に述べだ東北のあ
る高校のように、普段から沢山読んでおくことが大切です。

 現在出版されている脚本集の一部を紹介します。

☆晩成書房[東京都千代田区猿楽町1‐4−4]
             03−293‐8348
   高校演劇セレクション(九○年〜九六年)
     各年度脚本八本 各巻¥2266
   高校演劇戯曲選 (1巻〜20巻)
     各巻5〜6本     ¥1030〜1236

☆門土社総合出版[横浜市戸塚下倉田町1478]
             045‐864‐0244
   高校演劇叢書  全六○巻
     作者毎に一巻    ¥900〜1340
   SOMETIME 全六○巻
     作者毎に一巻    ¥1020〜1730

☆高校演劇劇作研究会 [東京都新宿区高田馬場1-24-8 杉山方]
              03-3200-4631
   季刊「高校演劇」年四冊発行  ¥(年)5230

 ※「魅力を追いかけよう」

 「脚本・上演する人・観客」を、演劇の三要素という場合があります。このことから「劇を作る」ということを考えたとき、「な
にを・どのように観客に見せるのか」ということが重要なポイントになるわけですが、高校演劇という場合を考えたとき、私は
「上演する高校生にとっての演劇」というものをまず第一に考えたいと思っています。つまり、「劇をつくる」ということが高校
生にとって大切なことであり、意義あることだと感じているのです。ですから、「やりたいもの(脚本)」をやろうということにな
るのです。そして、そのやりたいものを「やる(劇作り)」ときに、「観客はどのように見るのだろうか」とか、「観客にどのよう

に見てほしいのか」という観客を考えた劇作りをしてほしいと思っています。

 そういう意味で、わたしは「冒険してほしい」という言葉を使うことがあります。自分たちで充分理解できるものを、きちっと
作った舞台もいいのですが、なにかわからないけれども魅力を感じながらそれがなになのか追いかけ、追いかけ切れずに
未完成なままにのせてしまった舞台というのもいいものです。コンク‐ル制の審査ということからすれば評価は低いものにな
るかもしれませんが、上演した本人にとって「なぜ追いかけ切れなかったのか」わかったときに、大きな財産となって残り、
次の舞台を作るときのエネルギーになると思うのです。

 しかし、「冒険してほしい」ということは、「山に登るなら工ペレストに」ということではありません。部員たちの体力や脚力か
らみて「追いかけて追いつくかもしれないものに挑戦する」というレベルで考えてほしいと思います。でも、人間はわからない
ものに魅力を感じるんです。わからないから追いかけるのです。そう考えると、「わかる」ということよりも、「追いかける」こと
に、まず意義があるのかもしれませんね。

 自分たちが「やりたいと」感じた魅力はなになのか追いかけ、その魅力をはっきりむさせ、それを舞台という形に作りかえて
観客にぶつけるとき、だだ単にストライクを投げるのではなく、ホームランバッタ‐と勝負するつもりで全力投球するような舞台
になることがあります。それでホームランを打たれたとしても、逃げるピッチングをするよりも、わたしは、ある種のすがすがし
さを感じます。

  
※「脚本の使用許可申請と印刷・製本」

 脚本が決まったなら、脚本の印刷をしなけれぱなりません。本来なら、作者の許可をとってから印刷するのが本当ですが、
時間がもったいないので許可申請と並行して進めることになるでしょう。脚本の使用許可申請は、作者に直接申請するか、
住所がわからない場合は脚本を印刷した出版者に問い合わせてみてください。申請の様式は、脚本集に載っている場合は
それに従って書けばいいわけですが、もし分からないような場合は、次の内容が作者に分かるように記入し、脚本使用料
(入場無料の場合、六十分以内の上演一回につき五千円以上)を同封して送るとよいでしょう。脚本を書き変えたり、物語を
脚色する場合にも、当然許可をもらってください。

 ところで、脚本はどのような形に作っていますか。審査を担当すれば、さまざまな学校の脚本が送られてきます。本をその
ままコピ‐して印刷したもの、ワープロで打ったもの、手書きのものなどいろいろあります。

 字があまり小さいと、練習のとき不便です。特にも半立ちから立ち稽古に入る頃、脚本片手に練習することになるので、あ
る程度離しても読めるくらいの大きさでないと困ります。そうかといって、あまり字が大きいのも考えものです。字が大きいと
脚本が厚くなってしまいます。一時間の劇であれば、B五版で四十べ−ジくらいをめやすにすれぱどうでしょうか。

 今手元にある脚本の中から、読みやすいと思われるのを取り上げてみると、B五版で次のようなペ‐ジ数になっています。

   三十八  四十   三十三  四十  三十七  四十六  三十三  四十一
   五十三  四十四  五十五  三十七

 次に脚本の体裁ですが、各ページの上か下をあけて、なにかメモできるようにしたほうがいいと思います。キャストであれ
ぱ、セリフの裏に隠されたそのときの人物の気持ちや相手との位置関係やキッカケなどの覚書(ポドテキストという)を書く欄
が必要になると思います。スタッフは、時間計測や音響・照明のキッカケの記入をすることになります。

 とにかく練習するときに、使いやすい形を考えてください。最近ではあまり見られなくなりましたが、セリプ番号を書いている
脚本もありました。ぺ‐ジ数はもちろんですが、背表紙に氏名を書く欄があってもいいと思います。そうそう、表紙には「○○大
会上演用脚本、題名、作者名、学校名」もかならず入れておいて下さい。

 私の場合は、演劇部員や顧問用の他に、大会本部提出用、記録用、予備、その他演劇支援教職員のための宣伝用(「今
度、こういう劇やることにしたよ」と言いながら脚本を渡しておくと、何人かは見にきてくれる)として、少なくとも二十部多く印
刷していました。

 印刷されたものを、丁寧に折ってホチキスで止めれぱ、いよいよ脚本としての形になります。一人に一}冊ずつ渡して、さ
っそく各自が読み始めます。これから数ケ月つきあう脚本です。部員のなかにはイラストを書いたり、色を塗ったり、表紙を
つけたりする人もいます。そして、自分がどのような役割で係わることになるのか、期待と不安のいり混じった気持で、この
脚本がどのような舞台になるのか楽しく想像する時間となるのです。

 ※「脚本『私の海は黄金色』について」

 今回の「劇の作り方」で時々登場する『私の海は黄金色』は、十年程前に一関第二高校に勤めていたとき、当時の演劇
生部の徒と話し合いながら私が創作した脚本です。四月になって十六名という大勢の一年生が入部したのを受けて、地区
大会で上演する脚本を考え始めたとき、その当時間題になっていた「いじめ」について劇という形で上演したいということに
なり、私が書くことになったのです。実際に脚本が完成したのは、六月上句でした。発表は八月下旬でしたが、実際練習で
きたのは六十日程で、その時の部員は三年十名、ニ年七名、一年十六名の計三十三名でした。

 今回この脚本を取り上げるのは、この劇を作っていく過程での資料が沢山残っていたからです。その時のことを思い出し
ながら、ほかの劇のことも加え、舞台を作る場合のポイントを考えてみました。

                       (この冊子の後に、脚本の抜粋を載せましたので、参考にしてください)

 ※「わかってやっている舞台にむけて」

 脚本が完成したからといって、演出やキャストを決める作業にすぐ入るわけではありません。私の場合は、まず感想文を
て書いもらい、調査をすることにしていました。

 全員が一通り脚本を読んだところで、脚本の感想や自分の意見などを書いてもらいます。最初に読んだときの新鮮なイ
メ‐ジを大事にしてもらいたいからです。そして、それをお互いに発表し合うことによって、自分の気がつかなかったことや、
観客に対してのメッセ‐ジの意識統一がある程度できるのではないかと思うからです。

 それを基に、今度は脚本のテ‐マに係わることの調査をします。『私の海は黄金色』の場合、この脚本の中心になってい
じる「いめ」についてまず話し合いました。最初は、新聞やテレビで話題となっているあたり障りのないことの話でしたが、
な次第に身近ことへと話が移り、部員が中学校時代に経験した「いじめ」の様子や、いじめられた内容やそのときの気持
などについても話が出てきました。そのうちに、中学校のとき自分がいじめる立場にいたということを打ち明ける生徒が出
てきたり、現在の一関二高にもいじめがあるという深刻な話も出されるようになりました。「いじめ」について、それぞれの
「おもい」がある程度出されたところで、ろいろな角度から調査することにしました。

 全員を、青少年の悩みについて調査する班、最近の新聞から「いじめ」に関する記事を集める班、学校の教職員(特に養
先護の生)から「いじめ」について聞き取り調査をする班の三つに一分け、期間を決めてレポートにまとめて発表することにし
ました。土曜日に、それぞれのレボ‐トをもとに発表し、意見を出し合ったところ、「この劇を発表することで、いじめについて
考えてもらい、少しでもいじめがなくなるようにしたい」という雰囲気が出てきたように思いました。

 生徒からは、自分の学校のなかにある「いじめ」の様子について、いろいろ話として出るのですが、教職員である私の前
のためか、具体的な表現はなにひとつ言わないのです。しかも、私の知らないことばかりで、聞いていてショックでした。し
かし、そのときの話し合いでのおおきな収穫は、「いじめを傍観しているものの存在」が問題なのだということが生徒から出
たことでした。このことが、後の劇作りのときおおいに役にだつことになりました。

 これは、関東地方のある高校の話ですが、そこの部でも、図書館で調ぺるのは当然として、老人問題を扱うときは全員で
老人ホームに行って、介護や話し相手などのいろいろな体験をしているという事です。できるだけそのことに近づこうとするこ
とが、「わかったふり」をしてやってる場合から「わかってやっている」舞台に変えるのではないかと思っています。

 ものを作るとき、あるいは絵を描いたり文章を書くような場合、構想を暖める時間が必要になります。これから取り組もうと
する対象をしっかり見据え、それに対する気持ち(おもい)をはっきりさせ、熟成させたとき作品が大きく膨らむのです。その
ような意味から、「なぜこの脚本を上演するのか」ということについて部員全員で確認する作業は、劇作りをする時の大切な
ことのひとつと思っています。

 一本の劇作りを通して、ひとりひとりの生徒がいろいろ考え悩み、目分なりの答えを捜して歩くその「みちのり」の集大成
が、その劇をおおきく膨らませてくれるのだと私は思っています。

           三.『演出の決定と練習計画』
                    ☆演出にむいている人
                    ☆劇はだれが作るのか
                    ☆六十日の練習計画

 ※「演出にむいている人」

 脚本が決まり、その内容についていろいろ調査をしている間にも、それと並行して演出を誰にするか話を進めます。そして、
調査の報告会が終わったなら、演出を中心とした劇の練習にはいれるように、報告会の前に演出が決定しているのが理想
と思います。また、演出を決めてから脚本を選ぶという方法もあるわけですが、そのことについては、今回省略します。

 演出をだれにするか。これはそうとう難しい問題です。だれでもいいようでいて、だれでもいいというわけにもいかない。しか
し、だれかになってもらわなければならない。それでは、演出に向いているのはどんな人でしょうか。

   ◇劇作りを沢山経験した人
   ◇指導力のある人
   ◇演劇に対するセンスのある人
   ◇演出をやってみたいという意欲のある人
   ◇演出をやってほしいとみんなが思っている人
   ◇企画力や実行力のある人
                  など、など、など。

 高校三年間という短い間で、これらの全てを満足した状態で身につけている演劇部員はまずいないと思います。したがって、
より適当と思われる部員を互選で決め、あとはやりながらみんなで補い合う形で進めるしかないと思います。

 ましてや、演出は「みんなのわからないことに答え、演技指導をして、舞台のイメ‐ジを具体化するための最高責任者」ととら
えると、もうだれもなり手がありません。それよりも、心の中では「みんなより三歩先を歩くのだ」という決意を持ちながら、謙虚
な気持ちで「みんなと話し合いながら、みんなと一緒に作っていこう」というくらいの気持ちでいたほうがいいと思います。


 『私の海は黄金色』の時は、みんながやってほしいという三年生がいました。しかしその生徒は進学を考えているので、放課
後の課外や土曜日・日曜自の模擬テストのため満足に練習に出席できない状況だったのです。そこでもうひとり二年生から選
出して、ニ名での演出ということにしました。

 二年生の演出は、最初「自信がない」と不安そうでしたが、ふたりのコンビネーションがうまく噛み合ってくると、それらしい雰
囲気が出てくるものですね。ふたりで一週間毎の練習計画を立て、その日の練習ポイントを毎日昼休みにしっかり相談してい
たようです。そして、三年生の演出は課外が終わると飛んできて、その日練習した部分を見てアドバイスするという形がしだい
にできてきたようでした。

 私は、「ある時期がきたなら三年生は引退」ということには反対でした。「進路達成のための勉強も大切だけれども、やれる
範囲での劇作りがあるはずだ」ということで、それまでの二年間の経験をなんとか生かした方法を模索しながらやってきたつも
りです。

 ※「劇はだれが作るのか」

 さて演出が決まると、それからは毎日、部長と演出は昼休みに職員室の私のところへ足を運ぷことになります〈舞台監督が決
まれぱ、舞台監督も同じようにそろって来ることになります)。そこでは、練習状況のチェックや、練習内容の相談、そして悩みな
ど、なんでも話し合うのです。といえば格好いいのですが、実は、仕事や会議や出張などで、私があまり練習に参加できないた
めに思いついた方策なのです。

 私は、新しい段階に入るときやある部分がまとまったとき、演出から要請されて練習を見て感想を言うことにしていました。そ
れ以外は、練習を見ていても、質問がないかぎりあまり自分からは口出しをしないようにしていたつもりです。演劇は生徒が作
るものです。私の役目は、「生徒が作りやすいように環境を整えること」と「進む方向や方法がどうなのかをみながら、つまずい
だときにアドバイスをすること」だと思っています。生徒に「劇を作ろうという意欲と力」があるとき、すばらしい舞台になります。
私が作ったと思われるようなときの舞台は、大抵うまくいきませんでした。

 裏では、指示やアドバイスをどんどんしていたとしても、練習そのものは演出や舞台藍督が中心になって展開する形をとるよ
うにしていました。

 演出の仕事については、後述の「劇作りのポイント・・・・演出・キャスト編」で述べることにします。

 ※「六十日の練習計画」

 演出が決ると、私は演出に発表までの練習計画をおおまかに立てるように指示します。計画がなくてももちろん劇は作れるわ
けですが、見通しを立てて進めるということも大事だと考えているからです。計画を立ててもその通り進むことはまずありません。
発表当日が近くなるにしたがって、やらなけれぱならないことが沢山出てきて、忙しくなることは毎度のことです。けれども、「本
番で初めて通した」とか、「ぷっつけで音を入れた」ということは少なくとも防げるからです。

 その時その時で発表までの練習できる日数は異なると思いますが、今回は、期末試験期間や学校行事で練習できない日を
除いて、地区の発表会まで六十日練習できると仮定して計画を立ててみます。この練習計画が一番艮いとは思いませんが、
私は大体こんな内容で計画を立ててもらいました。

    ◇演出決定                    0日目
    ◇脚本の分析・解釈(本読み)終了      6日目
    ◇キャスト・スタッフの決定           12日目
    ◇読み合わせとスタッフプランの作成開始 
    ◇読み合わせ発表               26日目
    ◇スタッフブランの発表             27日目
    ◇半立ち・スタッフは製作や作業等の開始
    ◇立ち稽古に入る                30日目
    ◇衣装合わせ                  40日目
    ◇通し稽古に入る                48日目
    ◇総練習                     53日目
    ◇発表当日                    60日目
    ◇(後始末)


       四.「脚本の分析と解釈』
                 ☆本読みでは、疑問をどんどん出そう
                 ☆脚本の分析はつっこんで
                 ☆脚本の解釈はあせらずに
                 ☆毎日の練習手順をつくる

 ※「本読みでは、疑問をどんどん出そう」

 演出が決まると、「本読み(テ‐ブル稽古ともいう)」の段階に入ります。みんなで脚本をしっかり読んで、疑問に思うところを出
し合い、解決しながら、作者の言いたいことを探り、共通理解を深めるのです。

 まず、脚本を読んで、疑問に思ったことを紙に書いてもらいます。最初の数ぺ‐ジだけでどんどん出てきます。『私の海は黄金
色』の時の資料を広げてみると、次のようなものが出されています。 

  ◇『私の海は黄金色』という題名はどこから考えついたのか。
  ◇礼子は節子をいつからいじめているのか。
  ◇脚本にあるほかに、どのようないじめをしているのか。
  ◇なぜいじめるようになったのか。
  ◇節子を助けようとする人はいないのか。
  ◇周囲の人はどう見ているのか。
  ◇どうして礼子と節子という名削にしたのか。
             など、など、など。

 後のほうになると、点字のことや救急車のサイレンの意味、そして節子は最後どうなったのかなど、沢山出ています。

 「どうして礼子と節子という名前にしたのか」と生徒に質問されたので、「どうしてだと思う?」と逆に聞き返しました。するとある
生徒が「校訓でしょう」と言いました。「そのとおり」と言うとみんな納得していました。一関第二高校の校訓のなかに「礼節」とい
う言葉があるのです。『私の海は黄金色』という作品は、一関二高演劇部のために書いたものなので、主要人物の名前に校訓
の一部を借用したというわけでした。

 ※「脚本の分析はつっこんで」

 脚本の分析については、別冊「舞台からのメッセ‐ジ」の『コンクリ‐ト・フーガ』のぺ‐ジも参考にしてほしいのですが、疑問を出
して解決したからといって、脚本の内容が理解できたということにはなりません。セリフに書かれている「ことば」についても、つ
っこんで考えてみよう。

 木下順二作の『タ鶴』の最初に、子供たちが「与ひょう、与ひょう、与ひょうのばか」とはやし立てる場面があります。この「ばか」
という言葉は、子供たちがどういう気持ちで口にしているのかしっかり考えなくてはならないと思います。いわゆる「馬鹿にしてい
る」のではないのです。それよりも、ある種の親しみの表現として、周囲の大人たちが与ひょうに対して使っている「ぱか」という
言葉を惜りているのではないでしょうか。

 この言葉ひとつをじっくり吟味していくと、子供たちと与ひょう、そして、与ひょうを取り巻く周囲の大人たちの姿が見えてきま
す。作者は、与ひょうを愛すべき人間として描いていますが、その姿が周囲の大人には「ぱか」といわれるような姿に見えるので
す。そういうことを考える作業を通して、与ひょうはどんな人間なのかわかってくるのです。

 このようなことを、演劇部全員で調べたり考えることで、共通の理解が生まれ、スタッフになっても、「脚本の世界がわかった」
仕事ができると思います。また、キャストを決める場合でも、登場人物の様々なことを理解したうえでのキャスティングを考えるこ
とができるわけです。

 しかし、『タ鶴』のこの与ひょうという人物に、「与える」という字をつけていることに、なにか意味があるように感じますが、みな
さんはどうでしょうか。

 ※「脚本の解釈はあせらずに」

 このように、脚本の内容を詳細に調べ疑間をだしあい解決していく作業を「脚本分析」というとすれば、「脚本の解釈」とはどの
ようなことなのでしょうか。

 脚本を読み込むことで、答えらしきものが見えてくる場合もあるし、内容によってはいくら読んでも解決できない場合もあります
『タ鶴』には、村とか都ということばが出てきますが、与ひょうが住んでいる村と隣村の距離や、郡との位置関係がわかりません
観客はともかくとして、それをはっきりさせなくては、演じる立場としては実感が掴めないことになります。何キロくらい離れた隣
村から何でこの村まで来たのか、自分のものとして掴んで演じることが必要なのです。

 このように、どうしてもわからなければならないことで、脚本から知ることが出来ないことについては自分たちで解釈しなけれぱ
ならないことになります。「こういう位置関係と考えてやることにしよう」ということになるわけです。けれども、この段階ではっきり
させなくても、練習しながら明らかにしていくということがあっていいわけです。このように、作者がどのような気持ちでその場面
を書いたのか、また、全体の流れや、その場面の会話の様子から考えて「こう解釈すれば、劇全体の流れに矛盾しない」という
ものを自分達で作り出す、それが「脚本の解釈」だと思います。

 私は、例えるなら「劇作りは粘土細工みたいなもの」と思います。粘土で「おすわりしている大」を作るとき「シッポ(形はこうで
なければならない」と最初に決めてしまうよりも、その犬の種類、年齢や生い立ち、性格、現在の状況、向き合っている相手や心
理状況について、時間をかけてじっくり考えることが大切だと思っています。わからないことを調べ、話し合いながら全体像をしだ
いに捕らえ、徐々に細部を形作っていくなかで、シッポのありようが出てくるのではないでしょうか。

 最初のぺ‐ジから最後のぺージまで脚本の分析をし、解釈できるところは解釈しながら、脚本から湧き出る舞台を共通のもの
としてイメ‐ジします。

 『私の海は黄金色』のとき、次のようなことについて、時間をかけて話し合いました。

 ◇スト‐リーや全体の流れ。
 ◇各場面の役割(なぜその場面があるか)。
 ◇各キャストの役割と性格。
 ◇この劇のボイントである「いじめ」は、いつから どのような形で起こったのか、そして、現状は。
 ◇この劇のテ‐マは?
 ◇何を観客に伝えたいか?

 最初、「このような暗い劇はいやだ」と言っていた生徒も、「やらなけれぱならない」という気持ちに少し変わってきたようでした。

 また、話し合いの間には、脚本のいろいろな場面のセリフを、人を代えながら沢山読んでもらいました。すると、脚本のイメ‐ジ
を表現するためのキャストの姿がだんだん見えてくるのです。この人がこの人物を演じるとどんな雰囲気になるか感じるものがあ
るのです。

 ※「毎日の練習手順をつくる」

 この頃の一関二高演劇部は、教室を借りて練習していました。時間になると、集まっている部員で挨拶をして、発声練習をしま
す。基礎練習用テキストから、適宜選択してやっていたようです。先輩と一緒にやるうちに、なんとなく声の出し方を会得する効
果があるようです。また、「今日も演劇部は活動しているよ」という宣伝効果もあるようです。

 私は「演劇の発声は声をそろえないように、自分の声を大事にして、合唱ではなく雑唱にしなさい」と言っていたつもりでしだが
知らず知らずのうちに声がそろってしまうようでした。

 発声練習をしているうちに、掃除や委員会などで運くなった部員が集まってきます。発声練習が終わった後、出席確認をして
その日出席できなかった人の理由をみんなに伝えます。今日の予定を連絡してからその日の活動に入ります。脚本分析であ
れば、演出が司会をしながらみんなで話し合いをすることになります。

 練習途中で、家の用事や乗り物の関係でぬける人も出てきますが、決めた時間まで活動をします。最後に活動場所の整頓
をし、その日の活動の反省と感想を一人ひとり話し、明日の予定を連絡して挨拶をして解散します。

 私の場合部活動日誌の記録は、普段は部長か副部長にしていましたが、演出が決まったなら、演出の仕事にしていました。
活動状況や進行状況、悩みや疑問など、なんでも書いて私の机に置いておくのです。次の日、私はそれを昼までに読んでおい
て対策を考えておき、部長と演出が昼休み時間に来たときに話し合うことにしていました。


       五. 『キャストスタッフの決め方』
                  ☆キャストの決め方
                  ☆スタッフの決め方と役割

 ※「キャストの決め方」

 最善の舞台を作るためには、なんといってもキャストの決め方(キャスティング)にその比重が大きくかかってくると思います。し
かし、経験豊かな三年生が進路達成のための勉強などで、思うように練習に参加できないとか、今回はぜひ照明をやりたいと
いう希望があったりでなかなかうまくいかないのが実状です。

 私は普通、演出・舞台監督・キャスト・スタッフの順に決めさせていました。脚本の分析や解釈のとき「この劇を上演する意義」
のようなものを感じとってもらえたときは、自分がどんな役回りになってもあまり文句は出ないものです。格好いい言葉で表現す
るなら「この劇をよりよいものにするために、目分はなにをすれぱよいのか」という気持ちになるのではないでしょうか。キャストを
決めるとき、三年生には、舞台にずっと出ていなくてもいい「先生や演劇部員」を考えることにし、その他のキャストは二年生と一
年生が担当するという基本線を話し合いました。しかし、三年生のなかには「自分は就職希望なので、キャストをやってもいい」
という生徒もいたので、それらを考慮してキャスティングすることにしました。

 登場人物の性格やおかれている状況を考えて、だれにどの役をあてると、より効果が高くなるか予想しながら考えます。そう
はいっても、十七人のキャストについて全員一緒に考えるわけにはいかないので、中心となる「節子と礼子」の組み合わせをま
ず考えます。

 脚本の中からある部分を取り出して、様々な組み合わせをしながら読んでもらいます。そして、みんなの感想を聞きながら演出
は五組ほどに絞り込んでいきます。そこでいよいよ私の出番となります。五組の組み合わせでセリフを聞いた後、演出(その時
は二名の演出)と私で感想を言いながら決めました。そしてすぐ発表し、次には「礼子をとりまく数人」をだれにするか考える作業
入りにます。こうして、一週問ほどでキャストを決め、その後、数のバランスを考えながらスタッフの担当を決めることになります。
 「私の海は黄金色」の場合、私利私欲が見られず本当にうまく決まったと感じました。特にもその時の三年生の姿勢が「よりよ
い舞台を作り、見ている人にいじめについてのメッセージをぶつけたい」という気持ちでまとまっていたので、下級生もすんなり受
け入れたように思いました。いつもは「最後の舞台なので、○○やりたい」というようなことが出るのですが、そのような雰囲気が
なかったようです。

 ※「スタッフの決め方と役割」

 スタッフには、経験者をかならず入れるようにして、それまでのやり方を未経験者に教えながら仕事を進めるように配慮しても
らいました。全員未経験ということももちろんあるわけですが、そのような時は、舞台監督が中心になりながら、経験者の考えも
聞きながら仕事を進めるようにしていました。

 スタッフは、「裏方」と表現されるように、舞台で展開する人間模様を、裏で支える仕事なんです。そのためには、これからキャ
ストが演出とともに作っていく、「人物、場面の雰囲気、世界」がわからないと、作れないことになります。脚本に「音楽入る」と
書いてあったとしても、どのような音楽をどのように入れればいいのかということは、その時の舞台や人物の心の動きがわかっ
て初めてできることなのです。

 また、スタッフはそれぞれの係に別れて仕事をすることが多くなりますが、気持ちまでバラバラにならないようにしよう。舞台監
督は、その日の基礎が終わったなら、スタッフ全員にその日の仕事内容をお互いに報告させ、問題点や疑間点を共通のものと
します。またその日の終わりには、次の日の予定や連絡をして、お互い、いまどのような進み具合なのか確認しながら、スタッ
フの仕事を共通のものとします。

 私は、スタッフが決まった最初の頃は、キャストの練習にできるだけ参加させていました。演出を中心にしながら読み合わせが
行われると、脚本分析や解釈ではわからなかった、生き生きとした人物が感じられるようになります。人物や場面が作られてい
く中に参加し、どんどん意見や感想を述べて、脚本の世界を作る作業に積極的に参加することが大切なのです。音響係になっ
たからといって、音響から脚本の世界を見るのではなく、「脚本の世界から音響のあり方を考えること」が重要なのです。

 脚本の世界がある程度見えてくるまでじっと我慢をし、キャストと一緒に人物や世界を作りながら、舞台を想像し予想しくます。
ある程度見えてきたところで、スタッフ全員が集まり、係の枠を外して話し合いをします。このように、全員でスタッフを担当する
意識を持ちながら仕事をするように、私は話していました。

 スタッフの仕事の進め方については、「劇作りのポィント・・・舞台監督・スタッフ編」のところで述べたいと思います。


                                       
「劇作りをスタートさせめために」 完



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