ッセージの発信(3)・・高校演劇の作り方 
                                   
・ 横澤信夫

第3部. 劇作りのポイント・・・演出・キャスト編

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一.読み合わせ 四.人物の作り方
ニ.演出の仕事 五.半立ちと舞台装置
三.場面の作り方 六.立ち稽古

          

   一. 『読み合わせ』
                 ・場面を区切って練習準備
                 ・役を忘れて読み合わせ
                 ・セリプとセリフの間を読みとる
                 ・納得してやってほしい

※「場面を区切って練習準備(場割り)」

 キャストやスタッフが決まり、いよいよ脚本の中に入り、演出は、キャストと一緒になって舞台に新しい世界を作
ることになります。その第一段階として、「脚本の場割り」をすることがあります。これは、練習しやすいように、脚
本をいくつかの場面に分け、そのブロック単位に練習を進めていくというものです。

 六十分の劇の場合、物の出入りで雰囲気が変わるところや、内容についても考えたうえで、一ブロック五〜六分
位を目安に、全休を十から十二くらいに分けると練習しやすいと思います。 しかし、読み合わせのとき、一日一ブ
ロックというわけではありません。四プロックを一日でやってもかまわないわけです。その日その時の進み具合や 
キャストの集まり具合によって、適当に組み合わせて練習して構わないわけです。

※「役を忘れて読み合わせ」

 さて、ここでキャストの練習について少し考えてみましょう。キャスティングが終わって、自分がキャストの一員に
なったとき、なにはともあれ気になるのは自分の役です。自分のやる役の人物の性格とか各場面における感晴や
表規方法などについて、つい気持ちが傾いてしまいます。ひどいキャストになると、自分の役のセリフに印をつけ
て、その喋り方の工夫にいきなりはいる人がいます。

 セリフは話ことぱです。自分と他の人との間にかわされる話言葉なんです。したがって、相芋のセリフなくしては
自分が受は答えするセリフもないのです。相手や自分の心の動きを知らなくてはセリフぱ言えるはずがありませ
ん。また、相手や自分が登場する場面の雰囲気や流れをしっかりつかんでいなくては、その時のセリフの調子も
わかるはずがありません。したがって、セリフのいいまわしを研究することよりも、まず、脚本を全部読んで見るこ
とです。自分が登場する場面であろうとなかろうと、全部読んで全体を把握することから始めましょう。

 このとき大切なことは、「自分の役を忘れる」ということです。気特ちが自分の役に片奇っていては全体が見えな
くなります。自分のやる役から劇全体をながめるのではなく、劇全体から自分の役をはっきとりさせていくこが大切
なのです。

 自分が登場する場面は、その前の場面の続きなんです。自分が出ない場面だからといってある場面をおろそか
にすると、次に自分が出ていく意味がわからなくなります。

※「セリフとセリフの間を読みとる」

 さてそこで「読み合わせ」ですが、今日は第一場の読み合わせをすることになっているとします。演出がト書きを
読みながら、キャストは自分のセリプを声に出して読んでいきます。一通り読み終わったら、今度は細かくわけて
調ぺていきます。そうはいっても、脚本に書かれているセリフやト書きから読みとるしかないわけですから、それを
みんなて考えるわけです。つまり、いつも「スタッフを含めた、演劇部員全員で作る」という姿勢か大事になってき
ます。例えば、ある脚本に次の様なセリプがあった
とします。

   (ここはAの家、そこにBが登場する)

   A  (汗をぷきながら)やあ、こんにち

   B  まあ、遠いところよくいらっしやいました

 これだけのセリフは、別にどうってことなく口に出して読めるわけですが、よくよく心で読むとわからないことが沢
山あります。

  ○汗をふきながら‐‐‐暑いのかな? 季節はいつなんだろう。走ってきたのかな? とすれぱ、どんな用事
    で来たのかな? それとも、汗かきなんだろうか? 荷物を背負ってぎたのかな?

  ○こんにちは−‐‐親しいのかな? それとも、儀礼的なあいさつかな? 多分、昼だろう。

  ○まあ−-‐突然で驚いているのかな? この人の口ぐせかもしれないぞ。それとも、汗を見て言っている
   のかな?

  ○遠いところ−-‐どのくらい遠いのかな?本当に遠いのだろうか?お世辞かもしれないぞ。

  ○よくいらっしゃいました---歓迎しているのかな?儀礼的な挨拶かもしれないぞ。いやいや本当に心
   から迎えているのかもしれない。あるいは、心の中で「なんで今頃」と思っているかもしれないぞ。

 このように、ト書きやセリフのひとつひとつに対していろいろなことを感じることができます。それをキャストみんな
でどんどん出し合い、はっきりさせていくわけです。あるキャストが、その時の感情を理解することなく「まあ、よく
いらっしゃいました」などと軽々しく話したとしたら、その劇の人物に申し訳ないことです。

 セリフに「嫌だ」と書いてあっても、嫌でないこともあるのです。セリフそのものを読みとるのではなく、セリフとセ
リフの間に詰まっている、その人物のその時の心を読みとることが大事になってきます。これを「セリフとセリフの
間を読みとる」とか「セリフを読まずに心を読みとる」と表現しています。

 セリフは言葉です。言葉は気持ちや考えの表現です。セリフの裏にある気持ちや考えを理解することなく、セリ
フの言いまわしを練習しても嘘になります。「読み合わせ」をしながらセリフを本物にしましょう。


※「納得してやってほしい」

 読み合わせをしながら、ト書きやセリフのわからないことは、納得できるまで調べよう。 例えば、セリフのなか
に「人間の業」という言葉が出てきたとき、それを「にんげんのぎょう」と読んだとします。「業」と書いているので
「ぎょう」と読んだのですが、耳で聞いていると意味が分かりません。それを「なにか変だ」とだれか感じたなら、
すぐストッブして、それで良いかどうか確かめることが大切です。

 また、「そうか、わかった」というセリプがあった時、「なにが、どうわかったのか」それをはっきりさせなくてはそ
のような言葉が出てこないことになります。キャスト自身が納得してもいないのに、セリフに書いてあるからとい
って「わかった」と口にするのは、無責任とは思いませんか。

 劇の題名にしても、登場人物の名前にしてもそうです。作者はなぜそのような題名にしたのか、なぜそのよう
な名前にしたのか考えてみることです。以前、ある高校で「陪音」という劇を上演したときのことですが、その題
名が自分たちの気持ちの中にストンと納得できるまで、一週間かかったことがありました。

 この劇は、アメリカで書かれたものを日本語に訳したものらしく、アリス・ガ‐ステンバーグ原作となっていました。
登場入物は、ハリエットとマ‐ガレットという女性と、その本心を表すへッティとマギーの四レ人でした。ハリエットと
マ‐ガットは、お世辞や飾った言葉で相手と話をするのですが、それに対して、へッティとマギーは、例えば、次の
ように自分の本心を表現するのです。

 ハリエット「まあ、マ‐ガレット、今日はずいふんとおきれいですこと」

 へッティ「なにさ、厚化粧をペタベタぬってさ」

 ところが、「陪音」という字を辞書で引いてもでてこないのです。「倍音」ならありました。和英辞典でひくと、オ‐バ
ートーンズとでていました。それを英英辞典で引いても音楽の解説しかないため、この劇との関係がわからないの
です。そこで、生徒は近くの教会へ行って、アメリカ人の牧師さんを訪ね、片言の英語を交えながら質間したところ、
日本語の諺で言う「顔で笑って、心で泣いて」という状況の時に、オ‐バ‐トンズという単語を使うことがあると説明し
てくれたというのです。原作の本当の題名はわかりませんてしたが、おそらく「オ‐パ‐ト‐ンズ」を日本語に訳すとき、
「倍音」に似ている「陪音」という漢字を訳者があてはめたのだろうと納得したのです。

 最初の、本読みの段階では気がつかなかったいろいろなことが、読み合わせでは出てきます。それを(わかったつ
もり」でやるのではなく、納得できるまで調べて「わかって」やってほしいと思います。私は、この「納得できるまで調
べて」「納得してやってほしい」ということを、劇を作る場合の重要なポイントのひとつとして強調してきました。

            

    ニ. 『演出の仕事』
                 ・高校生に演出ができるわけがない
                 ・演出はなにをするのか
                 ・指示型演出と協議型演出
                 ・読み合わせの演出の仕万

※「高校生に演出ができるわけがない」

 ずっと以前のことですが、あるプロの人が「高校生に演出ができるわけがない」というようなことを話しているのを
聞いたことがあります 高校に入学して数本の劇を経験しただけでは、ブロのような演出ができるとは私も思いま。
せんしかし、高校生という仲間でつくる高校演劇で、高校生としての演出の仕方があってもいいと私は思っていま
す。

 専門的には、演出の定義として難しいことがいわれていますが、高校生という立場の演劇でいうと、「劇を作るこ
とについての総監督者」ということになるのでしょうか。では、総監督者はなにをする人なのかといえば、「脚本とい
う文字で書かれたものを、舞台という目に見える形に作り出す作業のまとめ役」ということになると思います。作者
は、ある「ねがい(テ‐マ)」をこめて脚本を書いています。それを的確にとらえ、上演する立場としての「意図」を明
確にし、登場するいろいろな人物を見えるものにし、全体を形ある舞台として作り上げる作業のまとめ役が演出の
仕事と考えることができます。

 プロといわれる劇団では、大抵の場合自分の意図するものを明確に持って演出し、キャストはその演出意図を
理解しながら自分の担当する登場人物を自分なりに作っていくわけです。しかし高校生の場合、経験やセンスが
豊富にある場合は別として、それを演出に要求するのは無理があると思います。演劇部員みんなで、話し合いな
がらめざすものを探し、見つけ、模索しながら形あるものにまとめていくことになる場合が多いと思いますので、演
出は「その作業全体のまとめ役」と気楽に考えて取り組んではどうでしょうか

 演出については、それだけで一冊の本になるくらい様々なことがあります。それをここで述ぺることはできません
が、高校の演劇部での演出についての基本的な考え方を中心に、まとめてみたいと思います。

※「演出はなにをするのか(演出の仕事)」

 高校の演劇部に入り数本の劇作りを経験し、初めて演出をする場合、どこからどのように手をつけたならいいの
か迷う場合があると思います。伝統的にその高校の演劇部としてのやり方がある場合は別ですが、はっきりした
ものがない場合を考え、参考までに個条書きに述ぺてみます。

  ○みんなで話し合ったことをもとに、テ‐マをはっきりさせる。
  
  ○部長や顧問の先生と相談しながらキャスト・スタッフを決める。

  ○キャストが登場人物を形あるものにつくる手伝いをする。

  ○全体を想像しながら、キャストとともに各場面を形あるものにつくりあげる。

  ○全体の日程を考えながら、その日その日の練習内容を決める。

  ○みんなのイメージする舞台をもとに、スタップと相談しながらまとめる。

     (まだまだあると思います)

※「指示型演出と協議型演出」

 演出のやり方に、これといった決まった方法はありません。その人その人によって、その部の状況を考えなが
ら、いろいろな方法で演出していると思いますが、ここでは、一般にいわわている指示型(誘導型)演出と協議型
(暗示型)演出)について書いてみます。

 ある人物Aが登場し、椅子に座る場面があったとします。その場面の練習の特、うまく演じることができないキ
ャストに演出はどのような指示をするのでしょうか。

 人物Aの状況や心理状態を話して聞かせ、したがって、歩き方や座り方はこうなるはすだと説明し、場合によ
っては自分で演じてみせるのが指示方(誘導型)演出です。それに対して、演じるキャストに、人物Aの状祝や
心理状態を話させ、そうであれば歩き方や座り方はどうなるか考えさせ、場合によっては、練習を見ている仲間
の感想や意見を聞きながら、演じるキャストに発見させるのが協議型(暗示型)演出になると思います。

 指示型演出といわれているやり方は、演出が意図していることをキャストに明確に示し、それ表現するために
演出が指示しながら場面をつくっていく方法です。この方法の良いところは、演出の意図がしっかりしていれば、
できあがった舞台も一本筋の通ったものになるということです。しかし、この場合、演出にそれだけのセンスと力
がないとできないことになります。また、キャストが演出の指示待ち型になると、キャストの主体性が薄くなり、操
り人形的になることも考えられます。

 協議型演出は、練習に参加しているみんなで話し合いながら、人物や場面を作っていくという方法です。この
方怯では、全員が主体的に参加し、納得しながら進んでいくので「劇を作っている」ということを各自が実感する
ことができます。しかし、時間がかかるということや、まとまりがつかなかったり、その場の雰囲気で作ってしまう
ことがあり、全体としてあいまいなものになってしまうことがあります。例えば、ある場面で「このほうか面白い」と
いうことで作ったことが、劇を壊してしまうこともあるのです。

 実際の場面では、指示型演出と協議型演出をうまくミックスさせながら劇を作っていくことになると思います。
みんなのアイデアを聞きながらも、演出がリ‐ドしながらまとめていき、そうしてある程度まとまったところで顧間
の先生に見てもらい、感想を参考に手直しをする。このように、その場その時の状況にあわせて、誰かに相談し
ながら進めることになると思います。

 私の経験では、どちらかといえば指示型演出だけの時はあまりうまくいかないことが多いようでした。「演出の
言う通りに作る」ということが中心になると、自分の考えを持ったキャストと意見がふつかることがあったり、また
キャストがわからなくなると「演出、どうすればいいんですか」と、すぐ答えを演出に求めるようになり、全体として
演出だけが頑張っている練習風景になってしまうようです。

※「読み合わせの演出の仕方」

 ここで、読み合わせの段階での、演出の仕方について考えてみることにします。もち論、いろいろなやり方があ
るわけですから、参考程度に読んでください。

 私は、読み合わせにはスタッフも全員参加してもらうようにしていました。まず、演出が場面を指示してセリプを
読んでもらいます。このとき、状況をはっきりさせるため、ト書きの部分をだれかに読んでもらうこともあります。

 場面がひと区切りついたところで、演出が司会となり、疑問や質問を出してもらいます。人間関係やセリフの内
容はもち論、部屋の中の様子や衣装、その場面で作者はなにをいいたいのかということなど、なんでも出してもら
います。その中で、解決を急がないものは後に残しながら、意見父換します。一人では気がつかないことでも、他
の人の考えが参考になってみえてくることがあるのです。話し合いの後、同じ場面を再ぴキャストに読んでもらいま
す。そして、この場面で出された未解決の疑問を確認して、次の場面に進むのです 演出は、全体の日程を考え
ながら、司会者として読み合わせを進行していきます。そして、みんなから出される疑問や感想をまとめ、次々に
発見する新しいことを確認しながら、脚本の世界を明らかにし、作っていくのです。

 また演出は、その日に何をするのか、目的をはっきりさせて練習することが大切です。読み合わせの最初の段、
階からキャストに、「感情を乗せて、気分を出して」と要求したり、「その声では、客席の後方まで声が届かないよ」
と言っても無埋なわけです。読み合わせの最初は、セリフの裏に隠されだ気持ちや、周囲の状況や人聞関係を理
解することからはじめ、それがある程度分かったところでセリフに乗せ、次第に本物にしていくという段階をふんで
ください。キャストは、わかることによって成長していくのです。演出は、他の人に感想を求めたり、自分の考えをぷ
つけたり、ヒントを与えたりしながら、キャストの理解の手助けをしていくのです。あせらず、確実に、一歩一歩みん
なで階段を登るように脚本の世界を形作って下さい。 次に、読み合わせの段階をおおまかにまとめてみますので、
参考にしてください。

    ○疑問に感じたことや、人簡関係、心理状況について意見父換し、理解を深める。

    ○ある程度気持ちを入れながらセリプを読み、人物や心情をはっきりさせる。

    ○より明確に感情表現し、場面を考え作る。

    ○舞台での動きや小道具を考え、より生きた姿を想像して、立ち稽古に結ぴつけた読み合わせをす
     る。

      

        三. 場面の作り方
                   その場面の目的を考える
                  セリフがない時ほど大変
                  舞台(場面〉の見える読み会わせ

※「その場面の目的を考える」

 読み会わせもだいぷ進んで、セリフにある程度気持ちが入ってきたとしても、それで読み合わせが終わったわけ
ではありません。各場面の目的をはっきりさせ、それが観客にしっかり伝わるようにするための工夫が必要なので
す。

 例えぱ、どんな劇でも開幕の五分が勝負といわれています。(「舞台からのメッセ‐ジ」の「オ‐イ、救けてくれ」を
参照して下さい)。『私の海は黄金色』の場合、幕が上がると礼子たちの数人が節子をいじめているところから劇
が始まります。節子がいじめられている様子を見せるのは当然ですが、そのときの節子の気持ちが観客にしっか
り伝わるようにしなければなりません。また、節子や礼子達のグル‐プ以外の、傍観者的クラスメイトの様子も印象
づけておくことも重要になります。その他に、この学級はいま何をしようとしているのか、セリフの端々からわかって
もらわないと、その先に進めないことになります。

 そこで、「ペンケ‐スを床にわざと落とした時や、ノ‐トを破いた時、それまで数人でおしやべりをしていた傍観者
的クラスメイトが、一瞬話を止めて緊張感をつくるようにする」ということや、「文集のクラス発表で劇を上演しようと
していることを話すセリフは、きちんと客席にわかってもらうようにする」ということなどを確認しました。

 このように、その場面の目的をはっきりさせながら、しっかりした解釈で味をつけ、それを舞台の上に表す方法
についても考えて読み合わせをすることになるわけです。

※「セリフがない時ほど大変」

 次に、セリフのない時はどうすれぱいいのか考えてみます。「節子」と「礼子のグループ」とのからみの時、他の
クラスメ‐トはなにをしているのでしょうか。本にはなにひとつ書いていません。セリフがないからといって休憩して
いるわけには行きません。

 読み合わせのとき、セリフがあれば、そのセリフからいろいろなことがわかり、それを基にした演技がみえてきま
すが、セリフが書いてない人物については、自分で考えてつくるしかありません。そのような意味では、セリフがな
いときほど大変ということになります。

 みんなでじっと節子の方を見ていたのでは、クフスとしてのその場の雰囲気がでません。。自分は、だれと、どこ
で、なにをしているのか。おしやべりをしているとしたなら、なんの話しをどのように話しているのか。そして、節子
と礼子のグル‐プとのからみをどのように見ているのか。そういうことを作らなければ、その時自分が舞台に立って
どうしたらいいか分からなくなってしまいます。そういうことを読み合わせの段階で話し合っておきましょう。

 演出は、ひと区切りついたところで、そのとき舞台に登場しているキャストに「そのときあなたはなにをしています
か?」「どういう気持ちで聞いていますか?」と質問しましょう。その場面に登場しないキャストやスタッフも、意見や感
想をどんどん言って、みんなでその場面を作るようにしましょう。

 演出は観客になったつもりで、観客の目で不自然なところがなくなるように、指摘してみんなに考えてもらいま
す。解決できない問題が出た時は明日までの宿題にして、その間に顧問の先生と相談したり、仲間と議論するの
もいいでしょう。

 「読み合わせ」とは、単にセリフを読んで合わせるのではないことがわかりましたか。セリフを読むことによって、
気持ちや感情の交流をはっきりさせ、心を会わせてみんなで舞台を作っていく作業が「読み合わせ」なのです。感
情が自分のものになるにしたがって、セリフに心が入ってきます。「いいまわし」を無理に作らなくても、セリフが生
きてきます。

 セリフは心のキャッチポールです。目をつぷっていると、生きたセリフはその場面の舞台を浮かぴ上からせてくれ
ます。そうなるまで「読み会わせ」をしっかりやり、心のかよった場面を作っていきましょう。

※「舞台(場面)の見える読み合わせ」

 ある程度読み合わせが進み、お互いの気持ちや感情が表現できるようになったなら、その場面の状況について

話し合ってみましよう。例えば、前に出てきた次の場面を考えてみます。

    〈ここはAの家。そこにBが登場する〉

    B(汗をふきながら)やあ、こんにちは

    A まあ、遠いところよくいらっしやいました。

 Aが、部屋のどの位置でどのような仕事をしているときに、Bが、どのくらい離れたところに登場するのか話し合い
ます。その結果、次の様になったとします。

  季節は夏、午後三時頃の暑い時間。Aは舞台上手よりでコザを広げて座り、取った野菜の選別をしている。そこ
ヘ、一時間程歩いて来たBが荷物を背員って、下手から登場する。

 このような状況であれば、Bは、舞台ヘ登場したとき、「やっとついた」という気持ちになって、ますホッとした表情
になると思います。そして、Aがいることに気がついて、「やあ、こんにちは」と声をかける。その声に気づいて振り向
いたAは、相手が誰であるか分かり、Bが来るという連絡を受けていたので、一時間歩いてきたことを察して「まあ、
遠いところよくいらっしやいました」と迎え入れるために立ち上がる。

 このような様子が見えてくると、ただ単なる「読んで合わせる」のではなく、動きがほしくなり、汗を拭く動作や挨
拶の様子も、読み合わせの中で表現するようになってきます。ですから私は読み合わせも脚本を手に立った状態
でやることを進めていました。気持が入ってくると、相手の顔を見ながらセリフを言うようになり、手が自然と動きだし
状況がわかってくると、その他の動作も自然と沸き出してくるのです。心で感じていることや考えていることを相手に
伝えようとするために言葉や動作があるのです。

 「動きは立ち稽古になってからでは遅い」のです。場面がみえてきて状況が分かってくると、「読む」ことから「話
す」ことへ変わってきます。自分が変わってくると相手も変わらざるをえません。お互いが向上しながら「生きた言
葉」になっていきます。そうなれば、当然「間」も生きたものになり、声のかけ方も距離を考えたものに変わってきま
す。練習を見ている人にも、舞台が見えてくるようにな ります。頃合いを見て、演出は録音をとってみましょう。どち
らかといえば、キャストは主観的にものを見ています。どのような気持ちをどのように表現するかということを中心に
練習していることが多いので、録音をとることによって、自分の声がどのように聞こえるか、ちょっと客観的になって
もらうのです。そうすることによって、セリフのスピ‐ドや聞きにくいところなどを演出が細々と指示しなくても、わかっ
てもらえるようです。

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