メッセージの発信 (6)・高校演劇の作り方 
                                   著・ 横澤信夫

第6部. 発表会場で


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一.『リハーサル(舞台使用)』
ニ.『 本 番 』
三.『 発表を終えて 』

 

         一.『リハーサル(舞台使用〉』
                       仲間とともに発表する
                       荷物の点検と打合せ会
                       リハーサル

※「仲間とともに発表する」

 演劇の発表の目的は、「それまで練習してきた自分たちの劇を観客に見てもらう」ということにつきるわけですが、
コンクールの場合、「上位に入賞する」とか「代表に選ばれる」ということも意識すると思います。しかし、スボーツの
世界と違って、直接相手と試合をして得点を競うわけではないので、総合的に見た結果として「代表に選ぱれる」
ということになるわけなので、対抗意識を燃やすより、練習の成果を十分に発揮することに精力を向けてください。

 また、発表会は他の学校も発表するわけですから、係の什事をきちんとすることはもちろん、気持のよい発表会に
なるよう、お互い協力しながら会の運営をすることになります。

 自分の学校の舞台が成切すると同時に、発表会全体がすばらしいものになるよう、演劇の仲間や会館職員と明
るく挨拶をかわし、感謝の気持ちを忘れずに参加しよう。

※「荷物の点検と打合せ会」

 会場に着いたなら、さっそく自分たちの荷物の点検をします。もし、なにかあるとしたなら、早目にわかったほうが
対処できます。装置の上げ下ろしのために破損しているところはありませんか、持ってきたつもりで忘れてきたもの
はないでしょうか。係に分かれて確認します。

 私のこれまでの経験にも、いろいろなことがありました。装置の一部を忘れてきたり、持ってきた小道具を食堂に
置いてきたり、装置の一部が壌れたこともありました。早目に発見して、リハ‐サルに間に合うように手配しました。

 大会運営で決められた打合せには、遅れないように参加しよう。前もって提出したプランに変更がある場合や、
わからないことがあればはっきり話して本番で迷うことのないようにしよう。打合せ会が済むと、いよいよリハ‐サル
待ちということになります。

※「リハーサル」

 いろいろな大会の運営に係わって感じることですが、リハーサルをしっかり行う学校の劇は、あるレベルをもった劇
の上演が期待できるようです。全体的に統制がとれていながら、伸び伸ぴと明るく、それでいてテキパキと進行する
リハ‐サルを見ていると、普段のその学校の雰囲気や練習状態が感じられるものです。

 リハーサルは、本番と同じような真剣勝負の時間です。やり残したものがあれば、その部分については本番での
ぶっつけ勝負となるので、思わぬハプニングが起こるかもしれないのです。音合わせをしていない場合には、勘で入
れたなら、電話のベルがとてつもなく強すぎたとか、あるいは弱すぎたため、ベルの音がだんだん強くなるように変
化したというようなことが起きたりするのです。

 発表会を開く地区の係や会館職員との打合せは、はっきりと相手にわかるように話してください。よりよい舞台を作
るために、要求することは要求し、変更するところははっきり説明し、相手の話もしっかり聞いて、あいまいな部分が
ないようにしよう。また、演劇用語についてもわからない場合は、「なんのことですか?」と聞き返して、はっきりさせる
ことです。自分が普段使っている用語でも、地域や会館では別の言葉を使っていることもあります。相手にわかるよう
に伝えるということを心がけてください。

 やるぺきことを、時間内に満足できるように進めるためには、計画をしっかり立てて打合せを十分しておくことと、短
時間で最良のものを作れる技術を身につけておくことが大切です。


      ニ.『 本 番 』
                 気持ちの高め方
                 いよいよ本番・・・不測の事態に備えて
                 本番終了後に

※「気持ちの高め方」

 ある高校の演劇部で顧間をしていたときのことです。初めて県大会に出場することになり、盛岡に行きました。
リハ‐サルも無事終了し、いよいよ発表という日の朝のことでした。

 「朝食は七時なので、それまでに食堂に集合すること」と前日に連絡していたのですが、時間になってもひとりも
集まらないのです。二階に上がってみると、それぞれの部屋でテレビを見ていました。テレビに出ている時刻はとっ
くに七時を過ぎているのです。催促をして食堂に集めました。食事の時も、前の日までとはうって変わってみんな下
を向きながら無言で食ぺているのです。「恐くて、不安なんだな」と感じました。

 会場に着いて外で発声練習をするとき、「この劇をもう一度見てもらえることを喜びながら、楽しくやろう。失敗する
かもしれない?そんなことどうでもいいことだよ。お客さんに、劇を見ながらなにかを感じてもらえれば最高、そういう
舞台を楽しく作ろう」というようなことを話しました。そして、劇のテーマやねらいを確認し発声練習を始めたのです。そ
れ以来、生徒の様子を見て「あぷないな」と思われるときには、発表前日にこの話をしてきました。このことは、演劇
に限らずいろんな場面で見られることです。バドミントンの顧問をしている時にも同しようなことがありました。初めて東
北大会に参加したときのことです。会場に着いても、なかなかフロア‐に下りて練習を始める気配がありません。県大
会で我先に練習していた姿とは会然這うのです。案の定、試合はコチコチになって実力を出さないうちに終わってし
まいました。それ以来、試合会場の近くで生徒を集め、「今まで練習してきたことをぶつける会場がここだ。ここで、悔
いを残さない最高の試合をしよう」というようなことを話して、気持ちを作ってから会場に入れるようにしていました。

 最高の舞台を作るための最大のライバルは、自分自身かもしれません。それを感じ、経験することは大きな財産に
なると思います。さあ、本番に向けて気持ちを高めよう。

※「いよいよ本番・・・・不測の事態に備えて」

 本番の舞台は、幕が上がるとアッというまに終わってしまうものです。けれども、開幕前のドキドキする気持ちの高
まりや、幕が下りたあとの虚脱感は練習では経験できないものです。その魅力にひきこまれ、また舞台に立ちたいと
いう生徒を沢山みてきました。

 本番の舞台は生きものです。練習でできなかったことができたり、観客との相乗効果でどんどん盛り上がったり、舞
台袖にいてもキャストの呼吸を感じたりすることがあるのです。その反対に、練習からは考えられないところでミスをし
たり、タイミングをうまくとれなかったり、音や照明がうまくいかなかったりすることがあります。

 予想しなかったことに対処することはもちろんですが、そのようなことが起こらないように、舞台を見ながら先手先手
と考えてください。私の場合は、上手と下手に舞台監督と演出を配置し、キャストの登場前にそれとなく小道具の確認
をしたり、出るキッカケを与えたりさせていました。

 東北大会でのある高校の話ですが、本番での上演がどんどん伸びて時間オ‐バーになりそうになったので、とっさに
ラストのエンディングの曲をカットして幕を下ろしたそうです。「最後が少しものたりなかった」という評価はあったものの
その高校は東北の代表として全国大会に出場することになったのです。賛否はともかく、時間オーバ‐はルール違反
になります。議論している時間がないところでの即断即決が必要になるのが本番です。

 舞台は生きものです。最高に生きたひかり輝く舞台になるように、不測の事態が起きないう配慮しながら本番を進め
よう。

※「本番終了後に」

 本番が終了すれぱ、なにはともあれホッとするものです。装置を片付け、化粧を落とし、荷物の整理をしているうちに
本来の自分に戻っていきます。舞台の良し悪しはともかく、とにかく終了したということで気持ちの張りが緩みがちにな
ります。しかし、発表会という全体が終了しないうちは、本当の終了ではありません。最後の最後まで、係や観客と一
帯になって会を支えることが大切です。

 まず、自分たちの後始末をしっかりすること。忘れ物をしたり、楽屋の清掃をしなかったり、他の上演の妨げになるよ
うなことに気がつかないようでは困ります。

 後始末が済んだなら、他校の舞台をできるだけ沢山見ることも大切なことです。生きた舞台を直接見る機会はそうは
ありません。見た感想を書き、お互いに感想を交換することが良い勉強になるのです。自分たちの舞台を沢山の人に
見てもらったように、自分たちも上演している舞台を沢山見るようにしよう。上演中、ロビーでおしゃべりしていることの
ないようにしよう。 

 大会のプログラムに講評という時間が設定されているときは、しっかり聞いて勉強しよう。よりよいものを求めるときは
他の感想や批評を大事にしてください。それを鵜呑みにするのではなく、「その人はそう見た」という意味や理由を考え
てみることです。自分たちが「ねらい」としているものが、どのように伝わっているのか確認することが、次の劇作りに参
考になるのです。

 また、会場を出るときには、感謝の気持ちを忘れないでください。見に来てくれた観客はもちろん、大会を支えてくれ
た会館職員や係の生徒・職員。そして、これまで無事に練習してこれた環境を含めた家族や友人や仲間にも感謝しよ
う。さらには、高校生活で演劇ができる時代や自分自身にも、素直に感謝できるようになってほしいものです。

 今回上演した舞台と自分との係わりは、自分ではわかると思います。一本の劇を上演することで自分が自分である
ことのなにかを発見できたなら、それを大切にして、また、明日へ向けて歩き出そう。


        三. 『発表を終えて』
                        ★荷物の整理と大掃除
                        ★まとめの冊子

※「荷物の整理と大掃除」

 発表が終わったなら、部員全員で荷物の整理と大掃除をしよう。

 練習をしているときは、舞台を作ることに夢中になっているので、装置を作ったり練習している場所の清掃は案外手
抜きの状態になっているものです。それまで使っていた部室や教室を徹底して掃除しよう。私は、例え夏休み中でも、
「使わせてもらった教室に感謝しながら、心をこめてきれいに掃除しよう。と話していました。これには別な効果があり
ました。その教室の担任から、「演劇部に貸すと教室がきれいになるので、まだぜひ使ってくれ」と言われたのです。
 部室の補除をしながら、今回の劇で使ったものを整理します。衣類はクリーニングに出し、小道具も分類して、借り
たものは早目に返します。大工道具や音響関係の用具も、使いやすいように数量を確認して保管します。

 上演が終わると、いろいろ理由をつけて休む生徒がいるものですが、私は「後始末の日までが劇作りだ」と話してい
ました。大体は一日がかりでしたが、きれいになった部室や教室を見ると、みんなの顔も輝いているように私には感
じられました。その日限りで直接的な劇作りの活動から手を引く三年生にとっても、最後の活動の日なのです。最後
に、一人ひとり感想や反省を話して解散となります。

 「おつかれさまでした」という挨拶が、本当にピッタリする瞬間でした。

※「まとめの冊子」

 いつもできたわけではありませんが、私は一本の劇が終了したとき「まとめの冊」を作るようにしていました。演劇は
音楽と同じように、時間とともに消えてしまうものです。ビデオに撮っても、舞台とは全然違ったものになります。生徒一人ひとりのこ
ころの中に、それぞれのものとして残ればそれでいいのかもしれませんが、ぎっしりメモされている、汗や手垢のついた
脚本と一緒にしまっておけるものとして冊子を作ってきました。内容は次のようなものです。

   ◎スタッフーキャストの一覧
   ◎装置プラン、照明プラン、その他のプラン。
   ◎スタッフ操作表
   ◎調査レポート。
   ◎部員全員の、劇についての感想やまとめ
   ◎顧間のまとめ

 この「まとめの冊子」が、数年後、なにかの機会に脚本と一緒に出てきたとき、元演劇部員にとって、自分の高校時
代の宝物のひとつになってくれれぱいいなと、私が勝手に思っているのです。

 演劇は、やりかた次第では「時間と労力をかけた以上のものが自分にもどってくる」と思います。よりよい舞台をめざし
て、「自分たちのおもい」をこめて、舞台からメッセージを発信してください。

                                            「発表会場で」 完
                                                            

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