メッセージの発信 (7)・高校演劇の作り方 
                                   著・ 横澤信夫

脚本 『私の海は黄金色』 (一場のみ抜粋)
  
                         横澤信夫/作

  
あとがき 

               
             脚本 『私の海は黄金色』
       

                     第  一  場

 ある女子高等学校二年三組の教室。文化祭三週間前のある日。放課後。各々おしゃべりをしながら先生の来るの
を待っている。
 幕が開くとストップモーションの状能で節子にのみサスがあたっている。
 節子の心の叫ぴがどこからともなく聞こえてくる。

 節子の叫ぴ声(哀願から悲痛な叫ぴに変わっていく)お願い。やめて、もうやめてよう。ノート返してよう、返してったら。も
ういいでしょう。やめて、やめてったら。やめてよi

 全体が明るくなる。礼子と芳恵が節子のノートを広げ、乱暴にあつかったりしている。周囲の人はかかわりをもたな
いよう、各々グループをつくっておしゃぺりをしている。
 紀子は鉛筆で節子の机に落書きをしている。

芳恵 (紀子に)あんた、なに書いてるの?

紀子 なんだっていいでしょう。

芳恵 (のぞいて〉あ、いいのかな、こんなこと書いて。ちょっとひどいんじやない。

紀子 それじゃ、なんて書いたらいいの?

芳恵 私なら(と言って自分も節子の机に落書きをする)・・・・・

紀子 そんな・・・そんなこと書いて。いいの?

礼子 (芳恵に〉授業でこんなことやったっけ?

芳恵 どれ、やったわよ。あんた、この時いねむりしてたんでしょう。

礼子 全然記憶にない。でも、やっぱり勉強家は違うね、こんなにちゃんとノ‐トとってんだから。(節子に)ちょっと赤ペン貸して。

節子 (出ししぶる)

紀子 ホラ、貸してっていってるでしょう。早く貸しなさいよ。早く出しなさいよ。

   節子はいやいや机からペンケースを出す。
   礼子はそれを取り上げ、赤ペンをとった後、バラバラと床にわざと落とす。

礼子 ごめんなさい。

   節子は、床に落ちた物を拾う。

礼子 (机にもどりノートに線を引きながら)そうか、ここがこうだから、こうなるのか。ふ‐ん。(ノートをとじて)次は、なににしよ
 うか。

芳恵 世界史がいいな。

礼子 そうね。節子さん、つぎ、世界史のノ‐ト見せてくれない。

節子 (ノ‐トを出す)

礼子 (受け取って、芳恵に)見て、きれいな字。たいしたものね。

芳恵 どれどれ、本当、すごい。

   二人でノ‐トを取り合っているうちにノ‐トを破いてしまう。周囲の人達一瞬静まる。

礼子 (ノ‐トを返しながら)ごめんなさい。わざとじゃないのよ。

文枝 あ〜あ、先生まだあ。(戸口へ立って行って外をのぞいて)時間もったいない。こんなだっだら部活やってた方がいいの
 に・・・・

優子 そんなこと言ったってしょうがないでしょう。

文枝 しょうがないっていったって、やだもう。文化祭で劇やるって決めたのだれ?

弘子 本校の文化祭は、一年は合唱、二年は劇って代々決まってるの。

文枝 三年生はいいわねえ、クラス毎に好きなことやれて。

友子 私、変だと思うな。今年の文化祭どうしようかって話合うならともかく、去年通りにやるって前提で進めるんだからね。
 今年は今年の特徴があってもいいんじゃない。

和恵 (話の輪に入ってぎて〉でも、来年三年生になったら、今のやり方でやりたいんじゃないの?

友子 (少しムッとして)それはそうよ。だから、例えぱ、今年だって一年から三年までクラス毎に自由にやるって方法だって
 あったんじゃないかってこと。

文枝 それ、いいわねえ。そうよ。それが一番いい方法だわ。

優子 そんなこと言ったってもう遅いの。二年生は劇をやるしかないの、今となっては。

文枝 私やだ、劇なんて。

和恵 ほかのクラス、何やるか知ってる? あのね、四組はシンデレラをやるんだって。それから一組は自分達で作ったミュ
ージカルっていう話。

弘子 ミュージカル? 本当? それで、他のクラスは?

和恵 あとわかんない。(悦子に)ね、ね、悦子。他のクうスでなにやるか偵察に行ってこよう。

悦子 うん。

   悦子と和恵、教室を出て行く。

文枝 ミュージカルならやってもいいわね。自分違で歌を作って、それに踊りなんかも入れてさ。

優子 そんなこと言っても、だれが作曲するの?

文枝 音楽部。そうか、音楽部いないんだっけ。

弘子 音楽部だけじゃなくて、文化部の人はみんないないわけ。ここに残っているのは運動部だけってこと。

友子 その辺もおかしいのよ。文化祭は文化部だけで盛大にやれぱいいじゃない、ね。運動部員に慣れない劇なんかやら
 せないでさ。いっそのことクラス毎発表なんてことやらなきゃいいのよ。

   そこヘ、脚本持った順子、雅子、沢田先生が入ってくる。
   礼子と芳恵は節子のところを離れ席につく。
   節子は机の落書きを消す。

みんな (できた? どんな内容。早く見せて。等々)

順子 先生、みんなに脚本渡していいですか?

沢田先生 ええ、いいわ。(脚本渡った頃をみはからって)え、と、それでは私からちょっと。文化祭にむけてのクフス発表用
 の台本、書いてくれってことでしたので、ここ五日ほどがんばってみました。みんな気にいるかどうかわからないけど、自
 分としては一生懸命やったつもりです。内容は、目の見えない女の子が普通高校へ転校してきたという内容の劇です。

昭子 そういう女の子が、簡単に普通高校へ転校できるんですか?

沢田先生 簡単ってわけにはいかないと思うけど、普通高校に入っている人はいるみたいよ。

文枝 (台本を見ながら)先生、歌とか踊りとかはないんですか?

沢田先生 えっ? ええ。

文枝 ねくらのやだあ。ミュ‐ジカルやりたい、私。

郁子 そんなこと言ったってさ、はじまんないでしょう。先生にまかせることにしたんでしょう。あと三週間しかないのよ。

友子 ただ言ってみただけしゃないの、(文枝に)ねえ。

沢田先生 (間をおいて様子を見てから)この話は、今年の三月に全盲の女の子が普通高校から大学に合格したっていう新
 聞記事をヒントにして、あとは、盲字校にいる私の友達に電話して、材料を集めて書いたものです。じゃ、ちょっと説明する
 わね。(脚本をとりあげて)題名は「私の海は黄金色」。

昭子 カッコイイね。

友子 題名が問題じゃないの。中身なの。

昭子 いいじゃない。私、このタイトル好き。

   そこヘ、悦子と和恵がもどって来る。

悦子 (とぴこんで来て)ねね、ちょっと聞いて。

早苗 ほかのクラスどうだった?

悦子 一組は、さっきも言ったように、自分達で作たミュージカル「蛙のピョンタ大冒険」。隣の二組は「夕鶴」でしょう。

和恵 四組は「シンデレラ」で、五組は自分達で書い学園ものだって言うし・・・・

悦子 六組は古典の群読とかをやるんだって。

   みんな (それぞれ、感想を言う)

和恵 それでさ、どこのクラスもステージとか特別教室借りて、もう立ち稽古してるみたい。

悦子 一番遅れてるのこのクうスよ。どうしよう。

順子 わが三組でやるものが決まりましたので、ご安心ください。(ふたりに脚本を渡して)ハイ、どうぞ。

悦子 ヘーえ、「わたしのうみは、おうごんいろ」か。

沢田先生 それは、「こがねいろ」と読んでちょうだい。

順子 脚本できたので、さっそく配役を決めよう。

沢田先生 配役もいいけど、演出を先に決めたら。

郁子 演出って、映画の監督みたいな人でしょう?

沢田先生 そう。

郁子 それなら、もう決まってるじゃない。(みんなに)ホラ、順子さん。

  みんな賛成して、順子に決まる

順子 よろしくお願いします。

沢田先生 配役決める前に、大体のストーリーを読んだ方がいいんじゃない?

礼子 先生、時間ないんだし、どうせここにいるみんな、なにかの役になるんでしょう?

沢田先生 えゝ、まあ・・・

礼子 だったら、決めてしまってもいいんじゃない?(みんなに同意を求めて)ね。

   芳恵、久美、紀子など、賛同する。

順子 じゃ、すぐ配役決めます。それでは、登場する人物ですが・・・。先生、簡単に説明してください。

沢田先生 まず、普運高校へ転校してくる全盲の少女山本道子。おとなしくて芯のある性格ね。

みんな 全盲って、眼が全然見えないんでしょう?(等々)

沢田先生 そして、その子に協力する、美枝、照美、里美の三人。この三人は、やさしくおもいやりのあるタイプ。そして、
 悪気はないんだけれど、何となくそれに反発する、恵子、和子、町子。そのほかは、クうス担任の近藤先生と、クラズメ‐
 トとして数人というところね。

順子 じゃ、山本道子をまず決めよう。だれかやってみたいっていう人いない?

みんな (それぞれ、隣の人と話し合っているが、だれも出ない)

順子 (しぱらくの後)じゃ、だれか推薦してください。

みんな (あらためて隣の人と話し合っている)

芳恵 (礼子にいわれて手を挙げる。立って)節子さんがいいと思います。節子さんは、おとなしくて芯があるので、ピッタリだ
 と思います。

  礼子、久美、紀子、手を叩き、賛成する。順子は他の推薦を求めるがだれも出ないので、山本道子役に節子が決まる。

順子 え‐と、次は・・・・

沢田先生 恵子を決めたら? 道子の役も大切だけど、私は、本当の主役は恵子の方だと思ってるの。初めは道子につらくあ
  たるけど、何かを心に感じて変わり、最後に観客に感動を与えるのが恵子なのね。

順子 では、次に恵子を決めます。だれかいませんか? 

久美 はい、礼子さんがいいと思います。

礼子 私? 馬鹿言わないでよ。私に主役なんかできるわけないでしょう。(と、言いながらも、まんざらでもない様子である)

   その様子を察し、芳恵、久美、紀子が「ピッタリ」とか「主役バッチリ」と言いながら拍手をして賛成する。

   順子は、その他の推薦を求めるがだれも出ないので、恵子の役に礼子が決まる。その他の役を決めるうちうちに舞台暗
 くなり、節子にのみサスがあたる。

   やがて、そのサスも消えて・・・・・・暗   転・・・・・  
                                                          第一場 了

                   
                     
あ  と  が  き

 自分の中に「あるイメージとしてもっている」つもりでも、形にしてみると思い通りに表現できないものですね。舞台の作り方
というものは、練習している時に直接行動したり話したりするから「生きた言葉」として相手に伝わる部分が出てくるのかもしれ
ません。ワープロに向かい、あるはずのものをさがしながらキーを叩いても、後から読み返すと、思っていることの半分も文字と
して書かれていないのです。もっと具体例を入れればよかったかななどと、原稿をまとめるときになって感じています。

 岩手県高等学校演劇協議会で毎年発行している「創作脚本集」の、平成八年度分の経費をこの冊子の印刷補助費としてま
わしていただきました。会に百部納めることになっていますので、岩手県内の演劇部にも配布されることと思います。

 沢山出版されている演劇関係の専門書には及びませんが高校の演劇部顧問を経験した立場から感じたことを、自分なりに
まとめたつもりです。前回の「舞台からのメッセージ」と合わせて、参考になるところが少しでもあれぱ嬉しく思います。

 生き生きと活動し、大きく成長する演劇部貝の姿を見ることが楽しくて、三十数年という間高校演劇に係わってこれたのだと
思います。その生徒たちに出会えたことを感謝し、高校演劇がますます大きく成長することを願っています。

                                                                横澤信夫
          一九九七年  六月

              メッセージの発信・・・・・高校演劇の作り方   完結です

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