メッセージの発信 (5)・高校演劇の作り方 
                                   著・ 横澤信夫

第5部. よりよい舞台をめざして

 立ち稽古も進み、スタッフもある程度完成してきて、そろそろまとめの時期になってくると、
本番の舞台を想定したレベルの高い練習になってきます。ここでは、そのような練習をする
場合について、様々な角度から考えてみたいと思います。またリハーサルや本番に向けて、
なにをすればよいのか考えてみます。


ご覧になりたい項目をクリックしてください。

一.『よりよい舞台をめざして』
ニ『.総練習
三.『リハーサルと本番に向けて』

 

     一 『よりよい舞台めざして』
                   なぐり方よりなぐられ方
                   空のコッブの水のうまさ
                   声の通りを確かめて
                   実際の場面を想定して
                   スタッフの練習 
                   時間の計測 
                   テンポ作り
                   のってはじけて扉を開く
 
※「なぐり方よりなぐられ方」

 電話のベルが鳴る。娘が立って受話器を取り上げる。娘「はい、そうです。………えっ!お母さんが車にはねられ
たって!」このセリフひとつで、観客をギュッと緊張させようとしても、なかなかそううまくはいきません。この場合、
娘以外のキャストの反応のし方が大きな役割をはたすのです。想像してみてください、娘がいくら一生懸命に話し
ても、他の登場人物がのろい反応しか示さないとすれば、観客はピンとこないのです。

 AがBをなぐる場合も同じです。なぐられるBの方がタイミングよく、うまい形でなぐられれば、Aのなぐり方がうまく
見えるものです。ふたりの呼吸がピタット合っているときは、「きまってる!」ということになります。このように、観客
をハッとさせる場面にかぎらず、どんなときでも受け止める立場の人の反応をしっかりやることが大切です。セリフ
を言いながらの動作はなんとかなるのですが、セリフのないとき死んでいる人を多く見かけますので、そのへんを
考えた演出をしてください。

 また、道を歩いていて後ろから声をかけられたような場合、声がかかるかかからないうちに振り向くような、「予定
された演技」というのも、観客から見るとつまらないものです。練習しているA君は、次に後ろから声がかかるという
ことはわかっているわけですが、登場人物の太郎にとっては予想していないことなのです。その予想していないこと
が起こったので、ハッとする心理状況になるのです。その心理状況を観客に示すことなく、「えっ!」と言って振り向
いたのでは予定された演技ということになり、つまらないものに感じるのです。

 自分のセリフや動きなどの表現について練習する以上に、相手や周囲の状況の受け止め方についても練習して

ください。そのためには、今、相手が表現しようとしていることを全身で受け止めることです。そうすれぱ、相手はよ
り話しやすくなり、よりよい雰囲気が生まれます。こういうことが演劇を通して自然に身につけば、日常生活でも聞き
上手になるかもしれませんね。

※「空のコップの水のうまさ」

 部屋を掃除する場面のとき、掃き残す部分があったり、同じところを二度掃除をしたり、ゴミを掃き寄せる場所が不
明確な演技を見ていると、観客はイライラします。また、コッブで氷を飲むようなとき、さっき全部飲んだと思ったのに、
また飲むということでは困ります。 小道具は、見ていて自然に感じるように使ってください。実際やれることは何度
もやってみよう。部屋の掃除であれぱ実際にゴミをまきちらし、セリフを言いながら掃除をしてみます。水を飲む場面
であれぱ、本当に飲みながら何度も練習し、その感じをつかむことです。そうすることによって、空のコッブで水を飲
んでも、「あゝ、うまそうだなあ」と観客は納得し、感心してくれるのです。

 このように、小道具の使い方がうまくなれば、演技にも幅が出てきて、劇全体に「生活」が生まれてきます。リアル
な劇であればあるほど、「劇があって生活がない」といわれないように、ト書きになくても、必要な小道具はどんどん
活用しよう。

 次に、舞台で実際に食事をしたり、水を飲んだりすることについて考えてみます。映画やテレビでは本物を便い実
際に食ぺながら演枝しますが、なぜ劇ではそうしないのでしょうか。

 まず最初に考えられるのは、劇は「やりなおしがきかない」ということだと思います。お盆にリンゴを積み重ねて持っ
てきたら、つまずいてしまって客席までころがってしまったとか、水を飲んだらむせて次のセリフが出てこなかったとい
うように、劇の内容以外のことで観客を八ラ八ラさせないことです。

 また、観客は「劇をつくりものとして見ていてくれる」ということがあります。劇中で短刀を便って相手を刺す場面があ
っても、観客は心のどこかで、「劇はつくりものだから、本当に刺すはずがない。刺す真似をしているだけだ」と安心し
てしているから、感情のやりとりにひたり、緊迫した雰囲気を味わっていることができるのです。こんな時、本物と分か
る短刀を使っていれば、「本当に刺すはずはないが、もし間違ってに刺したらどうするのだろう」という心境になり、安
心して劇の雰囲気にひたっていられないと思います。

 本物が手に入らないとき、あるいは本物を便えないとき、あまりにもオモチャ的でもマイナスの効果しかないことは
あきらかです。「なんだ、あんなオモチャみたいな短刀では人を刺せるはずがない」と感じるからです。本物でもダメ、
偽物でもダメ。まったく観客とは勝手なものです。虚実皮膜論とは近松さんもよく言ったものです。

 本物でない小道具を使う場合、使い方が嘘では困ります。短刀の刃の部分を素手で握ったり、水の入っているコッ
プを手でもてあそんでいるうちに傾けたりしないようにしてください。使い方は、本物のときよりも、より本物として嘘の
ないようにあつかうことです。

※「声の通りを確かめて」

 脚本を離し、立ち稽古もある程度進み、劇の形ができてきた時、よりよい舞台めざしてやらなければならないことが
あります。それまで練習してきた部室や教室と違って、本番となる会場は広い舞台であり、多くの観客がいるわけで
すから、それにむけての練習をしておく必要があるわけです。

 その最初の内容として、ある時期に「声の通りについて確かめておく」ための練習時間を設定してください。普段績
習している狭い場所では、声の大きざ(強さ)を意識しながら練習することはそんなにありません。しかし、本番の会
場となる舞台や客席を予想した場合、普段の練習通りの声の出し方でよいかどうか確認する必要があるのです。

 そんな時私は、環境を変えた練習をさせてみます。屋外や広い体育館で練習させたり、廊下でわざと距離を離して
セリフだけの練習をさせるのです。狭い場所と違って、声が届かないことを意識させるのです。そのうえで会場の広さ
を説明し、客席の後方まで声を届かせるための練習をするのです。
「一語一語きちんと響かせながら、つぶだてたもの言いをして、観客に伝えることを意識しながらセリフを喋る練習」を
するのです。その時、音程が高くなったり力を入れだ怒鳴るような言い方にならないよう注意しょう。声を痛めてしまう
からだけでなく、会話にならないからです。

 その後、狭い場所に戻っても、観客を意識した練習をします。「観客が六百人いますよ。後方の人にも聞こえるよう
に、意識しながらセリフを言いましょう」と声をかけてから練習に入ります。各席の広さや、当日の観客の人数によっ
て、適当な強さでセリフを言えるようになれば最高ですね

 もちろん、このような練習を一回行ったからといって、全員の声の通りが良くなるわけではありません。「観客に伝
える」という意識をもたせ、少しでも良くなったなら誉め、きちんと聞きやすいセリフに近づけるのです。

※「実際の場面を想定して」

 キャストは、どちらかといえぱ人物やお互いの関係を作ることに精力を注ぎますが、ある程度形ができてきたなら、
それまで練習してきたことを「どのように舞台で表現するか」ということについて考えなけれぱなりません。

 まず、上演する会場の広さによって、登場や退場について考えた練習をしておく必要があります。舞台中央から袖
幕までの距離は何メートルありますか。舞台にタイミングよく登場するためには、どのキッカケで歩き出せばいいのか
考えておきましょう。また登場するときや退場するとき、無言で数秒間ただ歩いているような舞台を見ることがありま
すが、場合によっては、アドリブを作って練習しておこう。

 舞台に登場・退場する場合、「袖幕から十歩」とか「袖幕から五メートル」という言葉を思い出します。登場するとき
は、少なくとも袖幕の端の十歩手前から演技をしながら舞台に出ていきなさい。退場するときは、袖幕で自分の身体
が観客から見えなくなったと感じても、十歩以上は演技を続けなさいということなのです。演劇に限らず、踊りや音楽
でも観客の視線の届かないところからもう始まっているのです。退場するとき、袖幕近くで目分に戻り、演技をやめて
かけこむことのないようにしよう。

 次に、スタッフと演技の関係について考えてみます。装這や照明については、例えぱ、扉はどの方同に開くのかと
いうことを意識した無対象動作を、キャスト全員でしっかり打合せて練習しておくことです。本番で初めて装置を使い、
扉を逆方向に開けようとして壊してしまったという話を聞いたことがあります。また、平台を使って舞台に高い部分を
作る場合、高さはどの程度なのか、階段で上るのか、ロープなのかということも意識しながら練習します。照明につ
いていえぱ、単サスの輪のなかで演技をするような場合、その場所にテ‐プで印をつけておき、練習のときから自然
にその場所に立てるようにします。

 衣装や小道具について考えてみると、開幕から最後まで同じ服装のときは問題ないのですぶ、途中で着換えたり、
持ち物や装飾品を替えるような場合、その手順や方法を練習のときからよく検討しておいてください。「着替えに何
分かかるか。舞台の進行に間に合うか。その手伝いはだれがするのか。着替えの場所は上手・下手のどちらか」と
いうことを実際に着替えをしながら検討するのです。小道具についても同じことがいえます。「キャストが持って出る
小道具は上手・下手のどちらか。それはだれが管理するか。舞台に置いておく小道具はだれが置いて、誰が確認

するのか」ということを決め、練習で実際にやってみることです。そして、必要ならその表を作り、当日ミスの起こらな
いように何度も練習しておこう。「予想しないミスのため……」と上演後いいわけをしなくてすむように、あらゆることを
予想して、対応策を考えておこう。

※「スタッフの練習」

 スタッフの原案が決まったなら、演出はもちろんキャストにも話して、十分検討しよう。そして、キャストの練習で試し
てみることができるものは、どんどん試してみよう。演出は、舞台監督やスタッフと連絡をとりながら、その日程を組み
入れます。

 装置は、立ち稽古に入る前にほぽ決まっているわけですが、それをもとに、装置を立てる位置に印をつけて練習し
よう。机やテ‐ブルなどの位置関係を、できるだけ正確に決めて練習するのです。そして、装置と自分の位置、相手
と自分の位置をつかむのです。

 小道具は、立ち稽古に入ったなら、積極的に使いながら検討します。小道具には、その物が本来持っている使用目
的以外にも使われることが多いのです。「嫌よ!」と言って横を向くようなとき、手に本を持っていれば効果的に使うこ
とができます。本をバンとテ‐ブルに叩きつけながらセリフを言うことによって、極端に言えぱ「嫌よ!」と言わなくても、
その心情が観客に伝わります。このように、小道具は動きを助ける有効な武器になります。実際に使いながら、より
使いやすくて、演技に幅をもたせるものをさがします。

 衣装がある程度揃った時点で、早目に「衣装合わせ」をします。実際にキャストが着てみることによってご、年齢や
性格が表現されているか、お互いのバランスがどうか意見を交換して検討します。また、衣装は着ているときは衣装
ですが、コートを脱いで手に持っている状態では小道具と同じように考えることもできます。その扱い方や置き場所に
ついても、練習が必要でする

 音響は、音ができたなら、キャストの動きに合わせて使ってみます。そして、その音が使えるかどうか検討するので
す。観客の気持ちになって、音によってキャストが生きた姿にみえるかどうか、みんなで感想を出し合い、使うかどう
かを含めて決定します。そのためには、ある場面で使う音(音楽)を数種類候補として集めておくとよいでしょう。

 照明は、まえもって試してみることができないのですが、どのような照明になるのか、全員に説明します。観客から
見た場合、どのような舞台になるのか、そのイメ‐ジだけでもつかんでもらうのです。照明係は通し稽古に参加して、
キャストの動きに関係した照明の変化のキッカケやタイミングを覚えでください。
 舞台監督は、演出と相談しながら各スタッフの調整をして、劇全体の進行に合わせた「スタッフ進行表」をまとめま
す。そして、それをもとに立ち稽古をして、微調整をするのです。

 総練習までにスタッフ関係全てを完成させよう。

※「時間の計測」

 練習がある程度進んだなら、頃合いを見て時間を計ってみよう。それ以前にも、必要に応じて計っているとは思いま
すが、演劇は生きものですから、練習することで変わってくるのです。

 劇全体を通して計ることも必要ですが、そのためには場面転換の時間を考えなければならないので、ここでは各場
面毎に通した時間を計ることを考えてみます。

場面転換で流れが切れるまで、途中切らずに通します。その場面で必要となるものはすべて準備し、小道具係を上
手下手に配置し、音も入れます。照明は、劇の進行に合わせながら、変化を全休に説明します。

 この段階で時間を計る目的として、次のようなものが考えられます。

   ○各場面の時間を知ることで、全体の時間を予想する。
   ○まとめに向けて、時間配分やテンポを考える資料にする。
   ○それまで、部分的に練習してきたものをまとめ、流れを知ることができる。
   ○劇に必要なものを、だれが、どこにどのように準備しておけばよいのか、実感できる。

 ストッブ・ウオッチは、舞台監督・記録係・音響係・照明係、その他必要な数だけ用意します。そLて、舞台監督の合
図で劇がスタ‐トします。照明のキッカケは、係が声で入れていきます。

   (八十八ぺージの進行表を参考に、手順を少し書いてみます)
   舞台監督、(以下舞監)「開幕前の準備の確認をします。照明さん、いいですか。」
   照明「舞台薄暗くなっています。○Kです。」
   舞監「音響さん、準備いいですか。」
   音響「準備○Kです。」
   舞監「衣装、小道具は準備いいですか。」
   衣装・小道具「○Kです。」
   舞監「開幕前のアナウンス終わって、五秒後にチャイム入ります。では、いきま‐す。開幕前のアナウンス終わり
    ました。一、ニ、   三、四、はいスタート。」
   (チャイム入り、ストッブウオッチを押す。)
   舞監「一、ニ、三、四、・・・・二十。ドンチョウ上がります。一、二、三、二・・・・」
   照明「(十秒で)前明かり入ります。」
   照明「(十一秒で)節子にサス入ります。」
   (音響は『節子の声』をテ‐プで流す)
   舞監「・・・・十三、十四。ドンチョウ上がり切りました。」(以下∵略)

このような形で進行しながら、記録係は、小さなキッカケのときの時間を脚本にどんどん記入していくのです。人の出
入りやセリフを言いはじめるとき、雰囲気を変えるような動きをみつけて、ストップウオッチの時間を書いていきます。

 全部の場面が終了したなら、場面転換の時間を予想して、劇全体の時間を計算します。制限時間以内に納まるで
しょうか。私は、上演時間六十分以内なら、練習の段階で五十七分以内にまとめるようにしていました。本番でなに
があるかわかりません。三分の余裕はとっておいたほうがよいのです。

 時間オ‐バ‐になりそうなことがわかった場合、その原因を考えて対策を立ててください。「全体のテンボが遅くない
か」、「間延ぴしている部分がないか」、「無駄な動きがないか」というようなことを調べます。それでも時間が長い場
合は、どこかの場面をカットすることを検討します。

 小道具の出し入れや衣装の着換えなどの手順で、無理なところがあるなら、その手立てをしてください。照明や音
響のキッカケなどでわからないところがあった場合は、しっかり打ち合わせをしよう。

※「テンポ作り」

 このへんで、各場面のテンボについてもう一度考えてみよう。ストリーの展開には変化があるとしても、ゆったりとし
た場面、たたみかけるような場面、しっくり聞かせたい場面、はらはらする場面などを全部平板に演じていませんか。
それまで四分でやっていた場面を三分四十秒でやるだけで、雰囲気が変わるものです。

 練習しながらなんとなく「できた」と思っている場面を、意識してやってみるのです。通し稽古した時の時間を参考に
しながら、目標の時間を設定し、その場面の目的を再確認して、その場面を作り変えるのです。そのようにして、劇
全体のテンボを意図したものに再構成しまとめてください。

 ある俳優がセりプについて、「どの音程で、どのような味つけで話すかが大切です」と言っていました。いつも同じ音
程で、同じリズムで話していませんか。そのようなことも意識しながら練習しよう。

※「のってはじけて扉を開く」

 最終段階になると、時間配分や小道具・音響・照明など、いろいろなことが錯綜し、それらがうまくいくとなんとなく
劇が完成したような気持ちになります。しかし、そのまま上演したとき「のってる」とか「はじけた」舞台になるとはかぎ
りません。キャストー人ひとりのこころが入った盛り上がった舞台にするために、一度そのような「おもいいれの強い
舞台」を体験しておくといいでしょう。

 総練習も近くなったある日、そのための練習をします。「自分の感情が盛り上がってきたようなときは、時間無制限、
声の強さも無制限、動きも無制限で、おもいっきり表現し相手にぶつけよう」と言います。もちろん時間は計りません。
劇の進行中に、演出はどんどん感情を煽るように声をかけます。

「悔しい。おまえは悔しい。泣きたいほど悔しいが、泣くわけにはいかない。」

「頭にきた、キレタ。怒れ怒れ怒れ。相手に言葉をぷつけろ。」

「さあ、電話が鳴るぞ。話しの内容がわかったら驚くぞ。みんなで驚けよ。」

 ある場面で感情移入がうまくいくと、全員のってきます。エネルギ‐を消耗しますし、終わると疲れますが、このよ
うにけしかけるのです。

 このような方法が良いか悪いか分かりませんし、いつもうまくいくとはかぎりません。しかし、劇の雰囲気がガラッ
と変わることがあります。いわゆる脱皮することがあるのです。練習中にその経験を一度しておくと、本番では「のっ
た、はじけた舞台」になることが多いようです。試してみてはいかがでしょうか。
                                                          

  

          ニ. 『 総 練 習 』
                     ☆総練習は広い場所で
                     ☆舞台転換の練習
                     ☆総練習は、できるものは全て行う

※「総練習は広い場所で」

 本番一週間前には総練習をしよう。総練習はこれまで練習してきたことをすべて実行してみるだけではなく、本番で
最高の舞台を作るためのまとめでもあるのです。装置を立てて衣装をつけて、小道具も使い音響を入れて、やれること
はすぺてやってみます。

 総練習は、会場となる舞台と同じ大きさでやれるように、体育館や講堂のような広いを場所を借りて行います。まず
舞台の大きさに印をつけ、装置を立ててテープで印をつけます。袖幕の位置にも何かを置いて、どの場所から出入りす
るか確認します。単サスの場所にも印をつけます。小道具の準備もいいでしょうか。

 すべての準備ができたところで、総練習の目的を確認しよう。

   ○本番を想定した、キャストの動きの確認。
   ○劇の進行にしたがったスタップ関係の予行。
   ○全員の仕事の手順と内容の予行。
   ○通し練習と時間の計測。
   ○舞台転換やリハーサルについての打合せ。
         (まだまだあると思います)

※「舞台転換の練習」

 劇の全てを通して行うためには、場面転換の時間も上演時間に含まれるので、その練督をまず最初にやっておかな
くてはなりません。一場が終わって舞台転換をするとき、だれがどの部分を受け狩って、手際艮く舞台を変えていくのか
決めます。さあ、やってみよう。舞台監督の合図で転換をし、時間を計ってみます。

 時間ぽどれくらいかかりましたか。観客の立場になってみると、暗転では三十秒過ぎると舞台から気持ちが離れてい
くようです。できるだけ短い時簡で転換するためには、どのようにすれぱいいのか工夫Lよう。また、今の転換が暗転であれ
ば、舞台の明るさはどの程度か予想して下さい。本番では舞台の印が見えないかもしれません。その場合なにを頼り
に動きもの移動させるのか考えよう。

 転換のとき、声を出しませんでしたか。本番では声を出すわけにはいきません。無言で手際良く転換しなければなら
ないのです。また、時間を気にするあまり、舞台を走るようなこともやめよう。

 他の転換についても実際に行い、チェックします。納得できるまで何度でもやってみます。舞台転換の練習ができたと
ころで、開幕から最後までの総練習をすることになります。

※「総練習は、できるものは全て行う」

 さあ、いよいよ総練習の始まりです。キャストの準備はいいでしょうか。衣装や小道具などは所定の場所に置いてあり
りますか。上手、下手には、係が持機していますか。自分がどこでどんな仕事を担当するのか、碓認してください。

 総練習は、時間を計りながらすべてのことを本番と同じようにやるわけですから、なにがあっても途中でストップしませ
ん。その準備はいいでしょうか。

 ここでも時間を計ります。練習で計った時間が本番での上演時間のめやすになります。できれぱ、総練習の流れをビ
デオに録っておくのもよいでしょう。観客の目でしっくり確かめるために、いろいろ工夫してください。

 本番と同じように、できるものは全て行いますが、照明係は模擬操作卓を使いながら声で変化の様子をみんなに知ら
せることになります 私は、舞台の操作盤が下手にある場合は、舞台監督が下手で演出が上手に配置するように話し
ていました。舞台全体の進行状況を、両袖で見ているのです。何かあったときのため、臨機応変に対処することはもち
ろんですが、そのようなことが起こらないよう気を配るのです 本番の舞台では思いもかけないここが起こることがありま
す。以前、キャストが気持ちを高めようとするあまり、自分の出をまちがえたことがありました。また、出ようとする直前に
なって小道具が見つからないということもありました。それ以来、小道具の確認や出のキッカケをはすさないように、そ
れとなく確認する係として舞台両袖に誰かを配置することにしたのです。 照明や音響へのキッカケは、舞台監督がす
るわけですが、できるだけ連絡しなくてもすむように、スタッフ進行表を活用するのです。いつでもインカム(連絡用機器)
でうまく連絡できるとはかぎりません。舞台はどんどん進行していくわけですから、その雰囲気や呼吸にあわせて照明
や音響が進行できるように練習しておくのです。舞台監督のキッカケ待ちで進めた場合、舞台に不要な間ができてしま
うことが多いようです。

 総練習はうまくいきましたか。本番に向けて手直しすることはありませんでしたか。よりよい舞台に向けて、最後の調
整です。もし、時間オ‐バ‐になったときは、思い切ってどこかをカットするか、舞台転換を早くすることを検討しよう。

  

          三  『リハーサルと本番に向けて』
                      ☆装置を立てるポイントの決め方
                      ☆装置の組みたて・転換・撤去の手順
                      ☆リハ‐サル(舞台使用)の手順
                      ☆必要なもののリストアップと字校名の記へ
                      ☆健康管理に気をつけて

※「装置を立てるポイントの決め方」

 総棟習が終わったからといって、その日の練習が終了するわけではありません。発表当日に向けて、いろいろやっ
ておかなければならないことがあるのです。まず、舞台に装置を立てることについて考えててみます。

 袖幕や照明器具との関係も確認し、最終的に装置の位置が決定したとき、それを会場の舞台に実際に立てることを予
想しながら、どこから、どのような順序で立てるのか、その手順を確認します。立て終わってから全体を動かすようなこと
にならないように、ポイントとなる部分を決めておきます。『私の海は黄金色」の劇の場合は、背景となる壁の両側にある
扉の位置をまず決めました。舞台の客席端中央からいくら、その場所から上手下手にいくらと測ってそこに扉を立てると、
その間に壁が寸ちます。生徒用の机は客席側の一番前(下手)の場所を決めておきます。このように装置を立てるため
のポイントとなる部分を正確に測っておき、会場に行ったとき、手際良く立てる準備をします。もちろん、その係も決め、パ
ミリテ‐プ(印のテープ)を貼る担当も決めておきます。できればニ・三度実際に練習しておくようにしよう。

 舞台に装置を立てる場合、舞台上のどこからその位置を測るかということは特に決まっていません。舞台の客席端中
央や、ドンチョウが降りた時のセンタ‐にTの印がついている場合はそこでもいいわけです。あるいはセリの角を目安にし
てもいいでしょう。とにかく、美際の舞台のどの位置にセットするのか、正確に分かるようにしておきましょう。

※「装置の組み立て・転換・撤手の手順」

 次は、時間内に手際良くきちんとできるように、装置の組みたてや撤去の練習をします。

 本番の進行の様子を考えると、自分たちの前の学校の上演が終わり、装置を撤去した後、舞台上では照明の色替え
が行われます。それが済んで照明関係のバトンが上がったところで、いよいよ自分たちの装置の組み立てになリます。

 最初に、平台を使って二重(高い部分)組む場合それから行います。後で動かすことのないように場所をしっかり決め
て組みます。その後装置を立て、机や飾り物を畳きます。その時、どの装置を先に立てると全体がうまくいくか考え、舞
台に運ぴこむ順序を決めま。また、立てる位置を指示をするのは誰なのか(普通は舞台監督)、装置を固定するために
釘を打つのは推なのか、飾り物を運ぶのは誰なのかという係分担を確認し、組み立てに何分かかるか計っておきます。
最初二十分くらいかかった組立ても、練習すれぱ舞台を走ったり大声を出したりしなくても十分くらいでできるようになり
ます。

 上演が終わった後の装置の撤去についても、同じように打ち合わせと練習をしておきます。

※「リハ‐サル(舞台使用)の手順」

 総練習の最後に、リハーサルの手順について打ち合わせておぎましょう。できれば、その模擬練習をしておくことを進
めます。

 リハ‐サルといっても、実際に装置を立てて本番と同しように一度劇を上演してみるということはまずありません。いくつ
かの学校が集まって発表する場合、限られた時間内に、装置の位置を確認したり、照明の色合わせや音響の音合わせ
するのがせいぜいです。ですから、リハ‐サルというよりは舞台使用といったほうかいいかもしれません。

 本番前のリハ‐サルの順序を考えると、まず照明の色替えをした後、装置を立て、バミリテープを貼り舞台に印をつけ
ます。これは、本番で装置をすぐ立てることができるようにするためのものです。

 装置ができたなら、照明の色合わせを行います。照明プランは作っても、実際にどのような舞台になるかということは
確かめることはできなかったので、ここではじめて色を調整して決めるわけです。その色の決定はだれがするのか、ど
こで見ながら決めるのか。もし客席で見るとすれぱ、照明操作室と客席とはどのようにして連絡をとるのかというここも
考えておいてください。

 リハーサルのとき、照明の色を最初から作るのは慣れないと時聞がかかります。できれぱ、以前の資料を参考にしな
がら、使う照明のパ‐セントを予想して操作表に記入しておき、それを基準に調整し、決定したものを記録するというよう
なことも工夫して下さい。決められた時間内に、劇の全ての場面の照明を決めなければならないのです。

 音響についても、実際に音を出して音量を決めるのはこのリハ‐サルのときになります。使う音を出せるように準備し、
装置ができるのを待ちます。装置を立てるときに音を出すと、邪魔になるのです。装置ができたところで、照明の色合わ
せと平行して音合わせをします。劇で使う音を実際に流して、その強さを決めるのですが、その決定はだれがするのか、
どこで聞きながらするのか決めておきましょう。普通は客席で聞きながら決めるわけですが、音響の操作卓が客席にな
い場合、その連格方法も考えておいてください。昔の強さが決まったなら、記録しておきます。

 セリフにかぷせて流す場合、実際にセリフを言いながら調整します。セリフを殺さないように、しかも当日観客が入ると
声が聞こえにくくなることを予想しながら調整してください。劇で使う音すべてについて調整し、時間内に終了するように
します。

 照明の色や音響の強さの決定を、舞台監督ひとりが行う場合、同時進行することが難しいため、時間がそれだけかか
ります。また、照明の色と音響の強さの決定を別々に担当する場合、連絡しあう声が錯綜することがあります。そのよう
なことも予想しながら、対策をたてて打合せをしておこう。

※「必要なもののリストアップと学校名の記入

 総練習が終わったなら、会場に持っていくもののリストアップをし、必要なものに学校名の記入をします。装置や小道
具類はダンポールに詰め、そのダンボ‐ルに学校名や何を入れてあるのか書いた紙を貼リつけます。通し番号をつけれ
ぱなおいいでしょう。

 運ぷ途中破損した場合のことを考え、必要と思われる大工道具類も持っていきましょう。吊り物がある場合は、吊るた
めの針金や紐も準備します。装置を立てるための人形立て(後ろで支える用具)やぬき板(装量を数枚固定するための
板)が会場にあるかどうか確認し、なければ準備します。しかし、会場に着いてから色を塗るようなことは止めよう。

 このように、必要なもののすぺてをリストアップし学校名の記入をします。これは、学校に忘れものをしないようにとい
うことと、会場に忘れてこないようにというためのものです。県大会の事務局を担当していると、大会が終わっだ後、出
場校や係の忘れ物がかならずあり、処理に困ることがありました。

※「健康管理に気をつけて」

 総練習が終わり、あとは発表を迎えるだけとなりました。その当日に向けていろいろやることがあるわけですが、健康
管理にはくれぐれも留意してください。発表当日、最高のものを表現するためには、各自の体調を最高にしておくことで
す。ひとりの休調が悪いと、みんなが心配し不安になるのです。

 私の配慮が足りなかったため、キャストに風邪をひかせてしまったということがありました。発表の一週間程前に寒い
体育館で練習をさせたのです。その生徒は高熱を出し、学校を休んだのです。家族の協力もあり、発表当日熱を押さえ
ながら無事上演したのですが、とてもハラハラしました。

 よりよい舞台をめざすためには、ひとりでも欠けるわけにはいかないのです。ひとりひとりが、それぞれの役目を最高の
状態で表現できるよう心身の健康管理に気をつけよう。もちろん、トラブルや不満を抱えた状態では、よりよい舞台は期
待できません。明るく楽しく、それぞれが意義を感じて前向きに取り組むような活動を期待しています。

                                     「よりよい舞台をめざして」 完
                                 

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