※「舞台監督は舞台全体のコンダクター」
舞台監督はどんな仕事をすれぱいいのかよくわからない、という声を聞くことがありますので、このことから考えてみましょう。
演出は、「キャストと一緒に、人物や劇の流れを作っていく」のに対して、舞台監督は演出のイメージしたことを舞台に実現す
るための、「裏方全体を受け持つスタッフのまとめ役」と考えるといいと思います。そして、発表当日、それまで打合せをしたり
練習してきたことが、計画通りに舞台に表現できるようにする責任者でもあるのです。
そのように考えると、舞台監督が決まり、スタッフのメンバーが決まったからといって、装置係が集まって装置の原案を考える
ようなやり方は、私の経験からすればうまくいかないようです。スタッフは、舞台で生きた姿として登場する「人物を生かすため
のスタッフ」なんです。装置や照明や音響に合わせた演技をするのではなく、「キャストの練習をじっくり見ながら、それを舞台に
生かすためにはどうすればよいのかを演出と相談しながらまとめていく」のが、舞台監督の仕事になると思います。
プロの舞台芸術家といわれる人は、脚本をしっかり読みとり、上演する劇場の施設設備を研究した上で、演出の意図を十分
に取り入れた装置の案を考えるようですが、それは、数多くの経験に基づいた力があるからできることなのです。高校の場合、
演出意図が最初からしっかりあるわけではなく、練習しながら話し合うことで、しだいにはっきりしてくる場合が多いようです。そ
ういう意味では、スタッフの各係が決まってもしぱらくはキャストの練習に参加し、どのような舞台になるのか想像し、それが見
えてきた頃スタッフ全体について話し合っていくのがいいようです。
舞台監督は裏方全体のコンダクター(指揮者)に似ていると思います。音色の違う楽器で、それぞれ別々の楽譜を演奏された
ものを、全体としてまとめ、大きなひとつの音楽になるよう練習し、発表当日、それまで練習してきた成果を、観客に最高の状態
で提供する。このような、音楽におけ指揮者に共通するところがあるように思います。
※「スタッフの仕事は人物を支えること」
幕が開いたとき、変化や立体感のあるすばらしい舞台装置が置いてあると、それだけで、観客は舞台に引き込まれます。しか
し、それが有効に使われていなければ、舞台装置のための舞台装置になってしまいます。また、いくら視覚的にすばらしい装置
でも、それによってキャストの動きが制限されたり、無理や無駄な動きが出てくるのであれぱ、全体としてマイナスになることもあ
るのです。
観客は、舞台装置を見るために会場に来ているのではないのです。舞台装置で作られた世界の中で、「生きて活動する人物」
を見に来ているのです。したがって、脚本の世界をイメージしながら、キャストが使いやすい動きやすい、そして、各場面の意図し
たことが十分表現できるものを考えることが大切なのです。
このことは、他のスタッフにもいえることです。音のためにセリフが聞くきとりにくかったり、照明の変化に気をとられて人物から
一瞬目が離れたりするようでは、逆効果になります。私はこのような舞台を見たとき「音楽で遊ぶな」とか「照明で遊ぶな」とメモ
することがあります。
音響の係になると、「どんな音を入れようか」と考えがちですが、演じている人物の「その場のねらい」をより効果的に高めるの
でなければ、音を入れないでキャストにまかせたほうがいいと思います。時間をかけて苦労して作った音でも、合わないときは
使わないほうがいいのです。
「スタッフの仕事は人物を支える」ためのスタッフなんです。スタッフのためのスタッフにならないようにしよう。時間をつくってで
もキャストの練習にどんどん参加し、どんな劇になるのかよく見極めながらスタップの仕事を進めよう。
※「スタッフは係ごとに分かれるな」
スタッフが決まったなら、これからのスタッフの仕事の進め方について打合せをしよう。私は、スタッフについての基本的な考え
方として「係ごとに分かれるな」と言ってきました。スタッフは舞台の裏の部分を担当するわけですが、装置係だけで装置をすべ
て担当するのではないのです。「スタッフ全体が一体となって舞台を支える」という意識が大切なのです。照明であてる色によっ
て、衣装や装置の色が変化します。各係がバラパラに計画したのでは、思っているのとは別な舞台になってしまうことがあるの
です。ですから、キャストの練習に参加しながら劇の進む方同を確認し、どのような舞台になるのか見えてきたところで、「スタッ
フ全員で話し合いながら」どのような形にするかまとめると良いと思います。
話しあった結果を、目に見える形にブランとしてまとめ、演出はもちろん、キャストも含めた全員に示して検討してもらいます。
例えば、装畳プランが決まれば、それによってキャストの動きが制約されることになります。不当にそのプランでいいのか、練
習しながら確認する時間が必要になります。スタッフも読み合わせに参加しながら、その装置ブランの場合の動きをイメ‐ジして
みます。そして、もっと別な良い装置がないか検討するのです。
装置が決まらなければ、照明が決まりません。その場の雰囲気がわからなければ、音響が決まりません。人物の置かれてい
る立場や性格がわからなければ、衣装やメイクアップがわかりません。時代背景や場面の設定がはっきりしなければ、小道具
が決まらないのです。それらは、係のスタッフが決めることではなく、キャストを含めた練習のなかからしだいにはっきりしていく
「演出方針」によって決まっていくことなのです。ブランは各係が書くとしても、その基本になることは、劇作りを模索するなかから
生まれてくるものだと私は考えています。
※「スタッフの進め方」
スタッフの日程の立て方や進め方に決まったものはないと思いますが、私の経験から考えられることを次にまとめてみます。
○スタッフが決まったなら、第一回スタッフ会議を開き、これからの進め方について打合せをする。
○キャストの読み合わせに参加しながら、スタッフ会議を並行して開き、裏方全体のイメージをはっきりざせていく。
○装畳ブうンを検討し、訂正しながら半立ちに入る前に決定する。
○装置ブランが決まったなら、演出と相談しなから各スタッフのプランを検討する。
○各スタッフのプランがきまっだなら、装置の製作や音集め、衣装作り(集め)などに取りかかる。
○キャストの練習に合わせて試してみて、よりよいものに改める。
○総練習までに全てを揃え、本番を想定した練習をしながら、徴調整する。
○本番で最高の舞台になるよう、キッカケ等の練習をする。
スタッフが決まったなら、舞台監督はスタッフ会議を開きます。そして、キャストの読み合わせに参加し、舞台のイメージを掴
むようスタッフに指示します。最初のうちは、一週間に数回くらいスタッフ会議を開いて、脚本に書かれているスタッフに関した
ことを詳しく分析しながらリストアップし、意見交換をします。脚本の持っている世界が、ある程度はっきりしてきたところで、装
置プランを示して、部員みんなで検討します。修正や訂正を繰り返しながら、半立ちに入る前に決定します。
装畳プランが決まれぱ、いよいよ各スタッフの仕事に入れることになります。どんな場合でも、十分にスタッフ全員で話し合い、
納得できた形で進めるようにしましょう。この後の進め方は、各スタッフの項目を参考にしてください。
脚本の世界を、どの程度どのように自分のものにしているかによって、イメ‐ジが違ってきます。形のないものを、形ある世界
に作りあげる作業が始まるのです。その形がはっきりしてくると、演出やキャストがイメ‐ジしているものをさらに増幅させること
ができるのです。舞台監督は、そのまとめ役として、演出と一緒に舞台を作る気持ちをいつも忘れずに、スタップのみんなと楽
しく舞台を作っていってください。
※「参考図書」
今回は、各スタッフの「仕事についての基本的な考え方、を中心にまとめてみたいと思いますので、専門用語や技術的なこ
とは、次にあげる図書等を参考にしてください。各スタッフとも、それぞれ一冊の本になる程の内容があるので、講習会や会場
となる会館職員の指導を受けながら、勉強してほしいものと思います。
値段は変わっていると思われますし、もっと新しい本が出ていると思います。
☆THE STAFF
晩成書房 \3502
☆高田一郎の「舞台美術入門」 レクラム社 ¥2000
☆賀原夏子の「メークアッブ入門」 レクラム社¥2000
☆やさしい舞台照明人門 牛丸光生/著 レクラム社
1舞台照明 −基礎の基礎 ¥2000
2蓑口照明ブランの作り方¥2000
☆やざしい舞台照明入門 牛丸光生/ 採光社 \2000
☆初歩の舞台照明の手ぴき 採光社
☆新・舞台用語実用事典 午丸光生/採光社
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